第94話 聖なる剣
ティルティが誘拐されたって聞いてついてきたんだけど、どうも悪魔達にとっても予想外のことが起きているらしい。
ティルティがダメならって町の人達を盾にしようともしてたっぽいんだが、そっちも上手くいかなかったようだ。
……つまり、今コイツを斬るのに躊躇いを持つ要素はなくなったってことだよな。
「覚悟はいいか? クソ悪魔」
たとえ何らかのトラブルで失敗したんだとしても、コイツがティルティを狙ったのは事実だ。
なら……許すことは出来ない。
コイツはここで、俺が滅ぼす。
『ぐぅ……!! もういい、お前達、やれッ!!』
悪魔憑きの一言で、多くの生徒が周囲から飛び出し、ノータイムで俺に魔法を放つ。
俺の体のすぐ側で、空間が……“法則”が歪むような感覚。
それに素早く剣を合わせ、柔らかく振り抜いた。
「魔神流剣術、七の型……《甲獣柳返し》」
俺の周囲で破裂した炎が、全て周囲にいた他の悪魔憑き達に跳ね返り、吹き飛ばす。
よっぽど予想外だったのか、目の前にいたリーダーっぽい悪魔憑きは『んな……!?』と目を見開いた。
『バカな、飛来する炎の塊ならばまだギリギリ理解も出来るが、目の前で生じた爆発現象を剣で跳ね返すだと!? 一体どうなっている!?』
「別に変わらないだろ、爆発も炎も同じ、単なるエネルギーだ」
動いてようがいまいが、エネルギーの塊を弾けるなら同じことだろう。
そう語るも、悪魔憑きは納得出来なかったのかみっともなく喚き続ける。
そして、例によって俺に概念魔法をぶつけて来た。
『ふざけるなぁ!!』
「無駄だよ。こんだけ見たんだ、もうその魔法は通じない」
概念魔法は、人類の魔法より強力だ、それは間違いない。
でも、魔力を操って超常現象を起こすか、魔力を介さずに超常現象を直接操るかの違いがあるだけで、発生した現象そのものは魔法とそれほど変わらない。
なら、魔法の発生を見切るコツさえ掴んでしまえば、後は普通の魔法と同じことだ。
「ふっ……!!」
目の前で生じる爆炎を受け流し、跳ね返しながら、俺は更に一歩悪魔憑きへと足を近付ける。
そんな俺を、悪魔憑きは恐怖の表情と共に見つめて来た。
『くそっ、この……バケモノがぁ!!』
「お前らにだけは言われたくないよ」
本物の化け物に化け物呼ばわりされるという珍事を経験してしまい、ちょっと複雑な気分になる。
そうこうしている間も、次から次へと魔法が放たれた。
炎では埒が明かないと見たのか、鎌鼬で首を斬り落とそうとしてきたり。
頭上に巨大な岩を生み出して、質量そのもので押し潰そうとしてきたり。
後は、体の表面を凍らせて動きを封じようとしてきたりとか。
でもまあ……多少属性が変わったところで、やっぱりやることに違いはないんだけど。
それは、他の悪魔憑き達の攻撃が重なっても同じこと。《甲獣柳返し》は防御の型だ、数に頼った程度で破られたりなんてするかよ。
「魔神流剣術、連式・六の型。《幽乱雪花》!!」
そして、ひたすら防御に徹した中で、相手の攻撃の切れ目を見極めて一気に反撃に転じる。
冷気を纏わせた虚像の剣を次々と投げ放ち、周囲を取り囲む悪魔憑きを凍結させていく。
最後に、リーダー格の悪魔憑きを凍らせて身動きを封じると、その眼前に剣を突き付けた。
「終わりだ、悪魔。この世界に、お前らの居場所はない。とっとと異界に帰れ」
『クッ、ククク……本当に、ふざけたバケモノだ……こんな人間がいるなんて、聞いてないぞ……』
だが、と。
ここに来て、悪魔憑きの目に活力が戻る。
『逆に言えば、お前さえ道連れに出来れば我らの望みも叶うということ!! どんな魔法も跳ね返されたが、悪魔としての力の全てを賭けた自爆ならばどうだ!?』
「なっ……!?」
体の半分が凍り付いた状態のまま、悪魔憑きの魔力が暴走を始める。
コイツ……俺と一緒に心中する気か!! 器にされた生徒も、他の仲間も巻き込んで!!
『ヒハハハハ!! サタン様、万歳ーーー!!』
どうする? ぶっちゃけ、自爆されたって俺は平気だけど、器になった生徒達が助けられない。
今から完全に氷漬けにして……ダメだ、間に合わない!!
「おい、兄弟子!!」
「っ、ログロイ!?」
この土壇場で聞こえてきたまさかの声に、俺は慌てて振り返る。
なんて間の悪いタイミングでここに来るんだよ!? と思ったけど……その手に握られた一振りの剣を見て、むしろ逆なのだと理解した。
「悪魔憑きとやってんだろ? ならこいつを使え!! 出来たての試作品だ!!」
「ありがとう、助かる!!」
投げ渡された剣を、鞘から抜き放つ。
フレイが鍛えたんだろう、刃はきちんと一級品。ただ、柄のあたりが大きく膨れ上がっていて、これはあいつの趣味じゃないなとすぐに分かった。
そして……柄の中央にはめ込まれた水晶のような何かから、スフィアの力を感じる。
「使い方は──」
「いい、もう分かった」
「は? 分かったって……」
どういうことだ、というログロイの声を遮って、俺は新しく受け取った剣の声に耳を傾ける。
もう時間がない。
ここにいる全員を助けるために……応えてくれ!
それと。
「魔神流剣術……特式・八の型」
スフィア。お前の技、借りるぞ。
「《光波一閃》!!」
新しい剣から溢れた光が、俺の斬閃に沿って聖なる輝きを放ち、自爆しようとしていた悪魔も、周囲で氷漬けになっていた悪魔も、全員を斬り裂く。
器にされた生徒の体には傷付けず、中の悪魔だけを。
『バカ、な……申し訳、ありませ……サタン……さ……』
最期に、謎の言葉を残しながらも、悪魔達は消滅し──
こうして、学園を騒がせた悪魔による騒ぎは、一旦の終息を見せるのだった。
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