第90話 製作依頼
「へえ~、魔法具……そんなものがあるのね、初めて聞いたわ」
「その魔法具を作る手伝いを頼みたいと……面白い試みだとは思うが、それで本当に悪魔に対抗できるのか?」
魔道具製作サークルにやって来た俺達は、フレイとその先輩……コード先輩に事情を話し、ログロイを手伝って欲しいと頼みこんだ。
異国の技術ということで興味は引いているみたいだけど、それが悪魔への対策になるかというと半信半疑って感じみたいだ。
そんな二人に、ログロイが口を開く。
「試すためにも手を貸してくれ。そこの……フレイ? ってのが"ガワ"を作るのは得意なんだろ? コイツ貸してくれれば、証明してやれるから」
「よし、いいぞ」
「ちょっと先輩、私一人ってなった瞬間に即答するのは酷くない!?」
「普段の行いを振り返ってから言ってくれ」
「むぅ……まあいいや。でもログロイ君だっけ? 私、ぶっちゃけ剣とか魔法に依らない道具を作るのは得意だけど、そこに魔法を刻み込んだりとかは出来ないよ。それでも大丈夫なの?」
先輩の態度に軽く苦言を呈しつつも、フレイが懸念を口にする。
それに対して、ログロイは「問題ない」と答えた。
「俺は逆に、そういう細かい物を作るのは苦手なんだ。そもそも、魔法具について覚えたのも、魔法を使えない代わりってだけで、別に専門家ってわけじゃないし」
「なんかますます心配になって来たわね……ソルド、大丈夫なの?」
「俺は信用してるよ。これを見越して、父さんもログロイを送ってくれたんだろうし」
父さんの"急用"っていうのが何なのか分からないけど、わざわざ伝言を託したってことは、このタイミングでログロイが来たのは決して偶然じゃないはずだ。
マニラの原作知識もそうだけど、そういった先入観のない父さんでもこの状況を託すに値するって感じたんなら、信じていいと思う。
「分かった、ソルドが言うなら私も信じるよ。それで、私はどんなものを作ればいい?」
「それはこれから考えるところだな。剣にしようかと思ってるけど、まずは込める魔法……そっちの姉ちゃんの力を見てからになるし」
「あ、はい! それは任せてください!」
「わ、私も手伝います! えへへへ……」
スフィアが魔法担当、それを込める道具をフレイが作って、込めるための技術をログロイが提供する。
マニラが手伝うことがあるのかは甚だ疑問だけど、まあそこは気にしないでおこう。
決して、ログロイに邪な感情を抱いているわけではないと信じたい。
「それじゃあみんな、頼んだぞ」
「
「そりゃあもちろん、見回りだよ。対抗策を講じるにしても、その間学園を守る人間だって必要だろ?」
これまで何度か、学園内で悪魔が原因と思われる事件が発生していたけど……ぶっちゃけ、教師はあまり役に立たなかった。
いやまあ、それも仕方ないと言えば仕方ないんだけどさ。
教師はあくまで教えることの専門家で、戦闘のプロじゃない。実戦訓練の指導官もいるにはいるけど、既に年齢や怪我を理由に一線を退いた人ばかりで、悪魔の制圧を頼るには心もとない。
本職の騎士は人手不足らしいし……ここは手が空いた俺がやらないと。
「師匠ばかり働き過ぎじゃないでしょうか? 一度クロウさんと相談してからの方が……」
「大丈夫だよ、ルイスとの戦闘くらいしかまともに疲れるような戦闘はないし」
そう伝える俺に、スフィアは少し不満そうにしながらも頷いた。
「分かりました、師匠の腕は知っていますから、これ以上は言わないでおきます。……でも、無理はしないでくださいね。私だって師匠の力になれるんですから」
「ああ、知ってるよ。さっきは本当に助けられたからな」
この世界の主人公である、っていうのもあるけど……それ以上に、スフィアが強くなろうと努力して来たのを誰よりも俺がよく知ってる。
「頼りにしてるよ、スフィア」
「…………」
「ん? どうした?」
なぜか黙り込んでしまったスフィアに首を傾げると、困ったような笑みが返って来た。
「不思議ですね、そんなに特別な言葉じゃないのに……師匠に言われると、こんなに嬉しいんですから。ふふっ、ティルティさんが不安になるのも分かります」
「えーと……どういたしまして、でいいのか……?」
褒められてるはずなのに、あんまり褒められてる気がしない。
そんな俺の疑問に対して、「褒められてるってことでいいですよ」と答えられ、何も言えなくなる。
くすくすと笑うスフィアに、これが主人公の人たらし属性なのだろうかと苦笑する。
そんな俺達を見て、フレイが一言。
「ソルド、しばらく見ない内にまた彼女増やしたの?」
「……またってなんだ。フレイ、俺に彼女はいないぞ」
一体俺をどんな目で見ていたんだこいつは。
呆れ顔で見つめる俺に、フレイは……いや、フレイだけじゃなくて、スフィアすらも意外そうな目で俺を見て来る。
えっ、なんで?
「兄弟子……本当に先生の息子なんだな。今のでよく分かったよ」
ログロイの一言に、俺は愕然とする。
俺……そんなに女遊びの激しい男に見られてるの!?
若干納得のいかない周囲評価を受けながら、俺は見回りに出た。
自分のこれまでの行いで何が悪かったのか反省したいところだけど、それはまた後でいい。
今はこの学園の平穏を守らなければ。
「……で、早速こうなるのか」
見回りを始めてさほど時間も経たない内に、初めて顔を合わせる男子生徒から殺気に近い視線を送られる。
剣に手を添えて警戒する俺に、その生徒は淡々と口を開く。
「ソルド・レンジャー。俺についてこい」
「いきなりだな。なんで俺がお前の言うことを聞かなきゃいけないんだよ」
「大切な妹がどうなってもいいのか?」
「…………あ?」
思わぬ言葉に、ほぼ無意識に低い声が出る。
そんな俺の変化に気付いているのかいないのか、男子生徒は変わらず淡々とした……まるで人形のように無機質な顔で続けた。
「ついて来い」
「…………」
今すぐコイツの首を刎ねたい衝動に駆られるけど、どう見てもただ伝言のために"使われている"だけの生徒を斬るなんて八つ当たりにしかならない。
どうにか剣から手を離した俺は、そのまま男子生徒の後ろをついていく。
ティルティ……どうか無事でいてくれと、そう願いながら。
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