第85話 話し合いと憑依への疑惑

 初めて貴族学園で悪魔による被害が出てから、一週間が経った。


 あれ以来、悪魔のものと思われる被害は毎日のように発生し、俺達生徒会もフル活動だ。

 暴れた生徒は意識を取り戻してもあまり記憶がハッキリしていないようで、話を聞いても何の情報も得られない。お陰で捜査も進展なし。

 幸いというか、初日以来あまり大きな被害が出る前に抑えられてはいるんだが……時間の問題だろうな。


「今後の展開ってどうなるんだ? マニラは知ってるんだろ?」


 その状況で、俺はマニラと二人、学園の屋上で昼休みを利用して情報共有していた。


 俺はこの世界によく似たゲーム……ノブファンをプレイしていたが、それはあくまで一作目。二作目があるなんて全く知らなかった。


 発生する事件に上手く対処するためにも、情報は仕入れておきたい。


「一応、二作目は転入生……ログロイが現れたところから物語が本格的に動き出します。ただ、私の知っているストーリーよりも明らかに遅れているんですよね……それに、本来なら"悪魔"ではなく、死んだはずの悪女ティルティの亡霊が出て、生徒が惑わされる……という噂話から始まるので、ちょっと役に立つかどうか……」


 うーん、俺がティルティを守るために色々やったのが、ここに来て尾を引いているな。

 まあ、後悔はしないけど。


「それでも参考にはなる、教えてくれ」


「分かりました。ええと、私達生徒会で、亡霊の正体を探るために巡回をするんですが……その中で、攻略対象の一人が亡霊……悪魔に惑わされてしまうんです」


「えっ、そうなの?」


「はい。しかも、この悪魔がなかなか質が悪くて、誰が惑わされたのかプレイヤーから見ても初見では全然分からないんです。ストーリーが進むにつれて不審な行動が目立つようになるので、それで初めて分かるんですが……」


「一作目でもクロウに似たような展開あったんだけど……あんな感じ?」


「あれよりも厳しいですね。クロウ王子は強制的に操られているので、好感度さえ稼いでいれば難なく抜けられる展開ですが……これは攻略対象自身が望んで受け入れる流れになっているので」


「マジで? あいつらがそんなことになるなんて思えないんだけど……どうしたらそうなるんだ」


「悪魔は相手の心に漬け込んで、思考を誘導する力がありますから。その癖、相手が一度了承すると、"言質を取った"と悪魔の契約によって結びつきを強めて来ます」


「マッチポンプじゃんか」


「マッチポンプですよ。その癖、解放するには倒すしかなくて……一作目からの引き継ぎプレイだと、しっかり強く育てられた攻略対象とのガチンコ勝負で、本当に大変でした……でも、その悪魔を倒すことで、やっと物語が次のステップに……」


 前世の苦労した記憶を思い出したのか、マニラの愚痴が飛び出して来る。


 ……マニラの話が本当なら、既に誰か操られてる可能性があるのか。

 厄介だなぁ、どうしたもんか。


「あれ……二人とも、何の話してるの?」


「ん? ああ、シルリアか。こんなところでどうしたんだ?」


「こっちのセリフ。ここ、私の定位置」


「え、そうなの?」


 現れたのは、俺もよく知る緑髪の少女、シルリアだった。


 誰もいない場所で話し合おうって屋上に来たんだけど、シルリアはいつもここにいるのか……確かに、シルリアが好きそうな場所だしなぁ、ちょっと迂闊だったか。


「それより……何の話してたの?」


「ちょっ、シルリア!?」


 屋上で地面に座るっていう、ちょっとはしたない状態だった俺の背中に、シルリアが抱き着いて来る。


 顔立ちは子供っぽいのに、体の方は全くそんなことないシルリアに密着されると、流石に俺も色々とマズイんだが。


「話すから、ちょっと離れて貰えると……」


「やだ。最近構ってくれなくて寂しかったから、このまま」


「はい……」


 確かに、同じ学園に通っているのに、ここのところずっとシルリアと落ち着いて話す機会はなかったけど……だからってこんな密着しなくても。


 そう思いつつも、言っても聞かないだろうと分かり切っていた俺は、背中に感じる柔らかい感触を極力意識から外しつつ、マニラと話した内容を伝える。


 といっても、前世の話をするわけにはいかないから、軽くぼかして……悪魔に憑りつかれた人をどう見分けるか相談してたって話を。


「何とか、事件が起こる前に未然に防ぐことは出来ないものかなって」


「んー……」


 俺に抱き着いたまま、シルリアが肩に頭を乗せてくる。


 動く度に押し付けられて、ついでにマニラから俺に向けられる眼差しも、呆れと軽蔑の色に染まっていくのがひしひしと感じられるけど、鋼の意思でスルーした。


「見分けとは違うけど……ちょっと、気になることがある」


「気になること?」


「ん。ここ最近、魔法で学園の敷地を見渡してたら、ルイスが変なところにいることが多くて……」


「……変なとこって?」


「ルイスはバカだから、訓練するか何か食べるか帰って寝るかくらいしかしないはずなのに、やけに学園の中を歩き回ってて……一日ならまだしも、何日もそんな感じだから、気になってる」


「ふーん……」


 攻略対象に憑りつく悪魔に、ルイスの不審な行動か。

 マニラによれば、転入生のショタ攻略対象がまだ来てないらしいんだが、タイミング的には一番怪しいかもしれない。


「ちょっと、話を聞いてみるか。シルリア、マニラ、一緒に来て貰えるか?」


「ん」


「分かりました」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る