第81話 もう一人の転生者
突如発生した、生徒の暴走事故。
幸い死人は出なかったものの、怪我人が多数ということで騒然となった貴族学園の中で、俺達は騒動を直接鎮圧した当事者ということで教師達の事情聴取を受け、解放される頃には日が暮れかけていた。
けど、一応は俺達の口からクロウにも説明した方がいいだろうってことで、寮に戻る前に生徒会室へ向かう。
既に全員揃っているみたいで、クロウに促されるような形で俺達は体験したことを一通り話す。
「──なるほどね、それはまた、奇妙な事件だ。その生徒は、完全に正気を失っていたんだね?」
「ああ、会話すら出来なかった。誰かに操られてる……って感じもしなかったよ」
何かの狙いがあって暴れてるというより、とにかく目につくもの全てを破壊しているって印象だったしな。
そんな俺の言葉に、ライクが反応した。
「それは……また呪具のようなものが使われていたのか?」
二年前、そして五年前と、立て続けに領内で呪具を使った事件が起こったライクとしては、それが気になるんだろう。
けど、それに対して否を口にしたのはティルティだった。
「いいえ、あれは呪具ではありません。魔人化の症状は全くありませんでしたし……そもそも、呪具はあくまで"魔法"の延長線にありますが、あの男子生徒が操っていた炎は、どうも既存の魔法とは異なる法則上にある気がします……」
「ああ? 魔法じゃない魔法ってなんだよ、あの男子の炎も、ソルドの"剣"みたいなもんだってことか?」
「兄さんの剣とあんな薄汚いボヤを一緒にしないでください」
「悪かった悪かった、一緒にしねえから落ち着けって……」
ティルティに睨まれて、ルイスが降参だとばかりに両手を挙げる。
うーむ、魔法に似ているけど魔法じゃない炎、か……俺も妙な感覚を覚えたけど、一体何なんだろうな。
今のところ、あの男子生徒が謎の力で突然暴れ出したってことしか分かってないんだけど。
「……概念魔法、というものをご存知ですか?」
これ以上話し合っても何も分からないな、って空気が漂い始めたタイミングで、恐る恐るといった様子で手を挙げたのは、生徒会記録係のマニラだった。
予想外のところからの発言に誰もが驚く中。マニラはその控えめな手とは裏腹に、言葉には自信を覗かせて語っていく。
「私、本が好きで、よく読むんですが……その中で、"悪魔"という存在がよく登場するんです。悪魔の力は、人の操る魔法とは異なり、"魔力"を"現象"に変換するのではなく、自然界の法則……"概念"そのものを直接操ることが出来るんです」
「概念そのものを操る力、か……マニラは、今回それが使用されたのではないかと考えたわけだね?」
「はい、私はそう思います。なのでその生徒は悪魔に体を乗っ取られている可能性があって、しばらくは厳重に監禁しておくのがいいかと思うのですが……」
そう言って、マニラはなぜか俺の方を見る。
なんで俺? 俺は剣に関しては一家言あるけど、魔法も悪魔とやらについても別に詳しくはないんだが。
「……ふむ、まあ何も分かっていない現状では、そうであるともそうでないとも言えないだろうな。マニラ、すまないが念のため、悪魔の情報について軽く纏めておいてくれ。本格的なところは、教師達の調査結果を聞いてからになるから、まだ程々でいい。シルリア、お前は念の為、男子生徒を捕縛した衛兵達に注意を呼びかけてくれ」
「は、はい!」
「ん、分かった」
ライクが話を纏めると、マニラとシルリアがそれぞれ頷く。
ひとまず、今日のところはこれで解散ということになり、寮に戻ることに。
けれどその途中、俺はマニラから声をかけられた。
「あの、ソルドさん……ちょっといいでしょうか?」
「うん? どうしたんだ?」
「その、実は二人だけで話したいことがありまして……」
二人だけで? なんだろう?
分からないけど、同じ生徒会の仲間だし、何より俺も知っているゲーム内キャラクターということもあって、特に警戒するでもなく了承する。
途中まで一緒に帰る予定だったティルティは不満そうだったけど、すぐに終わるからと待って貰うことに。
「それで、何の用なんだ?」
マニラと一緒に向かったのは、生徒会室からそれほど離れていない、無人の空き部屋。
そこで対面した俺に対し、マニラは少し迷うように……他に誰もいないことをしつこく確認するように視線を巡らせて、ゆっくりと口を開いた。
「ソルドさんは……"ノブレス・ファンタジア"というゲームを、ご存知ですか……?」
「っ……どうして、それを」
予想外過ぎる単語に、俺は目を見開く。
ノブレス・ファンタジア。通称ノブファンは、俺が前世でプレイしたゲームのタイトルで、この世界によく似た内容のもの。俺がこれまで歩みを続ける指標になって来た記憶だ。
その名前を、この世界を生きる人から聞かされたことに驚いていると、マニラは「ああ、やっぱり……」と少しホッとした様子で呟いた。
「実は私もなんです。前世の記憶を持っていて……まさか、ゲームのモブキャラに転生してしまうなんて思っていませんでしたけど」
「……マジか」
自分以外にも転生者がいたなんて……と驚くしかない俺に、マニラは更に言葉を重ねる。
俺にとって、更なる驚愕の言葉を。
「でも、悪魔について知らなかったということは……ソルドさんは、一作目しか知らないんですね」
「……え?」
「実はですね……ノブファンって、続編が出ているんですよ。悪魔は、ノブファン2のボスキャラなんです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます