第79話 フレイとの再会

「フレイ、兄さんから離れなさ……きゃっ!?」


「ティルティも久しぶりね〜!」


「ちょっとフレイ、離れてください……!」


 俺に抱き着いた後、フレイは近くにいたティルティにも連続でハグをし、思いっきり嫌がられていた。


 とはいえ、ティルティもフレイを引き剥がそうとはしていても、魔法まで使って力づくで剥がそうとはしていないあたり、そこまで本気で嫌がっているわけじゃないんだろう。


 フレイもそれは察しているのか、押し退けられながらもしつこく絡み付いてスキンシップを図っている。


「もう、相変わらずつれないわねぇ、ティルティは」


「はあ、はあ……あなたが馴れ馴れしすぎるんです、フレイ」


 楽しそうなフレイに対して、ティルティはがるがると子犬が威嚇するように呟く。


 シルリアとは親友と呼べる間柄のティルティだけど、どうもフレイとは相性が悪いらしく、顔を合わせてもいつもこんな感じだ。


 なんでも、細かいことを考えずにズンズンと距離を詰めてくるフレイの接し方が苦手なんだと。


 逆に、フレイはティルティのことを気に入っているみたいなので、これはこれで悪くない間柄なのかな? というのが俺の所感だ。


 それを言うと、ティルティが拗ねてしまうので言わないが。


「ええと……君たちは、何をしにここへ?」


 そんな、俺達とフレイの一方的なやり取りによって完全に置いてけぼりを食らっていた生徒……この魔道具製作サークルのリーダーが恐る恐るといった様子で口を開く。


 それを受けて、ルイスが「おっと、悪い悪い」と俺達に代わり説明してくれた。


「俺達は、お前らに製作を手伝って貰いたい魔道具があって来たんだ」


「ふむ? 魔道具ですか?」


「詳しい仕様は……そっちのティルティに聞いて貰えると助かるんだが」


 話を振られたティルティは、フレイのことは一旦置いておいて、彼……コード先輩に作ろうとしているものを解説し始める。


 ぶっちゃけ、俺やルイスには何を言っているんだかさっぱり分からなかったんだけど、コード先輩は理解できるのか、「ほう、ほう」と何度も頷いていた。


「なるほど、素晴らしい……君、僕らのサークルに入らないか? 今の話を聞いただけでも、是非入って欲しいとお願いしたいところなんだが……」


「すみません、私は兄さんと……クロウ殿下に誘われて、既に生徒会に所属しておりますので」


「そうか……残念だな」


 言葉通り、本当に残念そうに呟くコード先輩を見ていると、なんだか自分のことのように嬉しくなってくる。


「だが、何度も言うように、ここは魔道具製作サークルが活用するための施設だ。依頼を受けた物を作成することももちろんあるが、今は皆手が塞がっているし……施設だけを貸し出すというのは難しい」


 そこでだ、とコード先輩は言葉を重ねる。


「そこの……フレイだったか。君の入会試験という形で、ティルティさんと協力して魔道具を作ってみるというのはどうだ?」


「え? 私が魔道具を?」


「ここは魔道具製作サークルだと言ったろう? 剣を作るために施設を使うというのは、本来言語道断なのだが……この試験を通過すれば、たまにそういったものを作るくらいは見逃してもいい」


「本当!?」


 どうやら、コード先輩としても、ティルティが作る魔道具にだいぶ興味があるようで、サークルとしての流儀を曲げてでも目にしたいらしい。


 それを聞いて、フレイは嬉しそうに握り拳を作る。


「ティルティ、私頑張るわ! だから魔道具製作、教えて!」


「私が一から教えるんですか!? うぅ……まあ、仕方ないですね。今回だけですよ?」


「やった!! ティルティありがとう!!」


 思わぬ展開に、フレイは嬉しそうに、ティルティはがっくりと肩を落としている。


 まあ、うん。これをきっかけに、ティルティのフレイに対する苦手意識が薄れてくれるといいな。

 俺の剣を診て貰うなら、やっぱりフレイがいいし。


「とはいえ、今は生徒会の仕事がありますから、また後で」


「うん、また後でね!! それまで私はこのサークルの見学してるから!!」


「いや待て、そこまでしていいとは言ってな……こら待て、フレイ!!」


 話を聞かず奥へと駆けていくフレイを、コード先輩が追い掛けていく。


 そんな光景に、ティルティは頭を抱えていた。


「コード先輩は、本当にあの子をサークルに入れるつもりなんでしょうか……? なんというか、大変そうです」


「ははは、まあフレイも、あれで一緒にいたら楽しいところあるし、大丈夫じゃないか?」


 一長一短っていうとあれだけど、悪いところばかりじゃない。


 そんな俺の擁護に、ティルティは頬を膨らませた。


「兄さん、私はどうなんですか?」


「うん?」


「私と一緒だと、楽しいですか?」


 まるでフレイに対抗するように聞いてくるティルティに、俺は軽く吹き出しながら答えた。


「ああ。楽しいし、幸せだよ。当たり前だろ?」


「幸せ……えへ、えへへ……」


 一気にご機嫌になったティルティが、俺の腕にしがみついてくる。


 いくつになっても甘えたがりなその姿を、可愛いなぁ、なんて思いながら撫でていると……後ろから、呆れ声が飛んできた。


「だから、俺もいるのにいちゃいちゃしてんじゃねえ、寮でやれ!」


「いちゃいちゃなんてしてないって、兄妹のスキンシップだよ」


「それをいちゃいちゃっつうんだよ!!」


 そんなことを話しながら、俺達は工房を後にする。


 そのまま、一旦生徒会室に戻ろうか、なんて話しながら歩いていると──不意に、学園のどこかから爆発音が聞こえてきた。


「ルイス!!」


「ああ、行くぜ!!」


「私も行きます!!」


 すぐに気持ちを切り替えて、俺は未だ聞こえてくる悲鳴の方向に向かって走り出す。


 今度は一体どのイベントが発生したのかと、記憶を掘り起こしながら。

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