第78話 生徒会活動開始
俺とスフィア、ルイスの三人で、軽く訓練場で汗を流した後。予定通り、俺達は生徒会室へ向かった。
出迎えたクロウやライク、それにティルティには、少し呆れられたけど。
「なるほど、放課後に自主訓練というのはいいことだ、別に生徒会活動の時間に遅刻したわけでもないしね。ただ……ルイス、その状態で仕事出来るのかい……?」
「で、出来るに、決まってんだろ……!! 舐めんじゃ、ねえぞ、クロウ……!! ぜえ、はあ、ぜえ……!!」
そう、"軽く汗を流した"のはあくまで、俺とスフィアの基準であって……どうやら、ルイス的にはめちゃくちゃハードな特訓内容だったらしい。
スフィアは割とあっさりついて来てたから、これくらい平気だろうと思っちゃったんだよな……。
「参考までに聞きたいんだが……一体どんな訓練内容だったんだ?」
「どんなって……走り込んで、筋トレして、素振りして、後は軽く木剣の打ち合いをしただけだけど」
それだけか? とライクに聞かれたので、俺は頷く。
けど、ルイスはそんな俺の説明じゃ納得出来なかったのか、くわっと目を見開いて噛み付いて来た。
「どこがそれだけだコラァ!! あんなわけわかんねえ装備付けといてよぉ!!」
「訳の分からない装備……?」
「あ、兄さん……もしかして、あれをルイス様にも使わせたんですか? ダメですよ、あれは兄さん用なんですから」
首を傾げるライクの隣で、色々と察したという顔でティルティが苦言を口にする。
ティルティの言う"あれ"とは、ティルティが俺の訓練のためにと作ってくれた魔道具だ。
比較的少ない魔力で長時間起動してくれるので、俺みたいに魔力を持ってない人間でも、事前に誰かに頼んでチャージして貰えばそれなりに長い間使える優れもの。まあ、俺の意思ではまだ任意のタイミングで停止出来ないから、誰か魔法が使える人が傍にいないと危ないんだけど。
その効果は……。
「装着者の体重増加、関節保護、五感阻害がついてるだけだぞ」
「だけってなんだだけって!? 体が重すぎて少し走るだけでクッタクタになるし、目は見えねえし耳も聞こえねえ、剣を握ってる感覚だけ何とか分かる状態で容赦なく木剣打ち込んで来やがって!! あんなんどうやって打ち合うんだよ!?」
「剣の声に耳を傾けて打ち合うための訓練だからな。それに、スフィアは最初からあの状態で本気の模擬戦が出来てたぞ」
「てめえらの基準で語るんじゃねえ!! つーか剣の声ってなんだよ!?」
「最初からあれを付けて訓練出来るって、どうなってるんですかあなた……」
「
叫ぶルイスの裏で、ティルティがスフィアの対応力にドン引きしていた。
いやまあ、正直俺もスフィアがいきなりやれるとは思ってなかったんだけどさ……やれてたから、やっぱ主要キャラは違うな~って、ルイスにもやらせてみたんだよ。
流石にこればっかりは、スフィアだけの異常性だったみたいだけど。
「くっそ、次こそは完璧に使いこなしてやるよ……!!」
「はいはい、使いこなすも使いこなさないも、生徒会の仕事が終わったらにしてくれるかな?」
「分かってるっての……んで、クロウ。生徒会はいいけど、まずは何するんだよ?」
クロウが手を叩いて話を一度切ると、ルイスも素直にそれに応じる。
ルイスの言う通り、生徒会が生徒による学園及ぶ王都周辺の治安維持活動を行うというのは聞いたけど、具体的にどんな仕事があるかは気になっていた。
何せ、ゲームだとそういう細かい仕事は全部飛ばして、イベントしか発生しないからな。
「基本的には、学園内の見回りと揉めごとの仲裁が主な仕事になるね。出来れば王都も見回り出来たらいいけど、この人数では流石に通常業務にするには人手が足りないから」
「俺達、全員合わせても七人しかいないもんな。じゃあ、今日は見回りをする感じか?」
「そうだね。一応、シルリアとマニラが魔法を使って王都の方もざっくり見ていてくれてるから、何かあればすぐに動けるよう、心構えだけしておいてくれ」
「分かった」
クロウの説明を聞いて、俺とルイス、それにティルティは早速学園に繰り出した。
見回りとは言うけど、今日のところはこのバカ広い学園を散歩して、いざという時迷子にならないようにするっていうのがメインらしい。
ちなみに、クロウとライクは本部要員として生徒会室に残るんだってさ。スフィアも、クロウと話があるとかで居残りになった。
今回は、俺達三人が実働要員だな。
「つーかよ、この学園内に限っても、俺達だけで見回るのは難しくねえか? 下手な町より広いぜ、ここ」
「建物も多いからな……中まで見回ろうと思ったら、俺達三人じゃ手が回らないのは確かだろうなぁ」
ルイスのぼやきに、俺も賛同する。
やらないよりはマシだろうけど、この広さだと通報がない限りはトラブルへの対処が後手に回るのは避けられない。どうしたものかな。
「自動で見回る魔道具とか作れたら……いえ、何かあった時に生徒達が自主的に通報出来るシステムの方が現実的でしょうか……?」
「作れるのか? ティルティ」
「出来なくはないですが、この学園だといつもの施設が使えないので……魔道具製作サークルに協力を仰がないといけないです」
「なるほど。じゃあ、今日のところはそこに行ってみるか」
どうせ全部は見て回れないんだから、目標があった方が変に迷わない分効率的だろう。
というわけで、俺達三人は、魔道具製作サークルが活動拠点にしている施設へ向かうことに。
魔法の発動を補助する道具全般を魔道具と呼ぶんだが、それを製作するには色んな設備がいる。
そもそも、魔道具とかいう雑な括りだと、本当に色んな形があるからな。
俺達が修行に使った"重し"も魔道具なら、俺達が王都に来る時使った馬車だって魔道具なんだから。
そんな、様々な魔道具を作るための設備をあれもこれもと押し込んだ、大きな工場のようなそこに入ると……。
「ここは魔道具を作るサークルなんだよ、役に立たない鉄の棒切れを作りたいなら他を当たれ」
「他がないからここに来てるの! 別にサークルに入れてくれなくてもいいから、設備を使わせて欲しいって言ってるのよ」
「ここは俺達魔道具サークルのために用意された場所なんだよ、サークルメンバー以外に使わせるわけにはいかねえ」
「ケチ!! いいじゃない少しくらい!!」
サークルのリーダー、かな? 上級生っぽい男子生徒と、見覚えのある赤髪の少女が言い争っている場面に遭遇した。
まさかこんなにも早く、生徒会としての仕事を……それも知り合いに対して行うことになるとは思わなかったな、なんて感想を抱きつつ、俺は二人に声をかける。
「あー、そこのお二人……というか特にフレイ、一旦落ち着け」
「何よ、私は……って、ソルド! 久しぶりね!」
快活な笑顔がとても似合う、赤髪の少女。
俺の愛剣を打ってくれた鍛冶屋の娘であり、以前はやんちゃな子供って感じの子だったけど、こちらも随分と美少女に成長したものだ。
施設内が熱いからか、作業服を着崩して下着同然のインナーを恥ずかし気もなく晒す彼女を見て、そういえば男爵位を貰ってたんだっけ……と、思っていると。
フレイは、いきなり抱き着いて来た。
「会いたかったわ!!」
「ちょっ、フレイ!?」
人目も憚らない大胆な行動に、ティルティの方から絶対零度の眼差しを送られて。
仲裁に来たはずなのに、余計に騒がしくなった空気の中で、俺はひたすら困惑するのだった。
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