第77話 復活のタイタンズ
貴族学園の設立目的は、将来領地経営を担う貴族子弟の平均レベルを引き上げることによる国力上昇と、国内貴族同士の交流機会を増やすことによる、国家としての一体感の醸成だった。
これにより、アルバート王国は一枚岩となって魔獣や他国の脅威に抗う強国となるのだ。
しかし……どんな物事にも、良い面もあれば悪い面もある。
生徒同士の交流によって育まれるのは、愛国心ばかりではない。
反逆心──国に対する不平不満もまた、仲間を得ることで増幅されていくのである。
「遅かったな、遅刻だぞ」
「授業が長引いてな……怪しまれないためにも、こういったことには真面目に取り組まなければならん」
「ふん……違いない」
学園の片隅、人の寄り付かない廃校舎に集まったのは、元タイタンズの参加メンバーである貴族……その子弟達だった。
ティルティが、タイタンズのトップだったマジェスター家を制圧し、基幹部を奪い取り、更には下部組織や繋がりのある貴族達についてもライク主導で粛清されたため、組織は完全に壊滅したのだが……他家を介して間接的に関わっていただけの貴族達の中には、上手く粛清を免れた者も少なくない。
とはいえ、組織が消えてしまったことで、それまで手にしていた力と恩恵を失ってしまい、それはそのまま不満となって彼らの中に燻っている。
そんな貴族の子弟達が、学園内で人知れず集まり、不満をぶちまけているのだ。
「どうだ、呪具の研究資料は持ち出せたか?」
「ダメだった、我が家も粛清を免れるために全て処分してしまったからな……呪具に関する資料もデータも、一つも残っていない」
「くそっ……これではタイタンズの再起すら図れん!」
タイタンズは、呪具のもたらす力で世界を変えようという思想の下、集まった集団だ。
呪具の研究を進めるため、活動資金を得るために非合法活動を繰り返し、法外な力を得て貴族さえもそう簡単に手を出せない存在となっていた。
しかし、呪具に関するデータの大元はティルティによって奪われ、主力の研究チームさえ失った今、タイタンズがそうした活動に手を出せば、有象無象の犯罪者としてあっさりと断罪されることは目に見えている。
再び組織としての立場を取り戻すには、呪具に代わる新たな力がいるだろう。
それも、
そんなものがあれば苦労しないと、誰もが分かってはいるのだが。
「……一つだけ、手がないこともないぞ」
「なにっ」
「本当か!?」
そんな状況で、集まった者の一人がそんなことを呟いた。
藁にも縋る思いで詰め寄る元タイタンズのメンバー達に、その少年は「しー……」と口元に指を当てる。
「万が一にも聞かれるわけにはいかない、もう少し静かに」
「あ、ああ、すまん」
「それで、手というのは?」
「これは、俺たちとは別の……タイタンズに属していた当主達の間で研究され始めたばかりの話なんだが。“悪魔召喚”の魔法が見付かったらしい」
「悪魔召喚……? なんだそれは、くだらない。悪魔など御伽噺だろう」
「本当に、そう思うか? 異界からの侵略者……“魔獣”はいるのに?」
「……まさか、悪魔も魔獣の一種だと?」
こくりと、少年は頷く。
この世界における悪魔は、ドラゴンをも越え、魔人すら従えるとされる伝説の存在だ。
「異界から悪魔を呼び出し、使役することが出来れば……タイタンズは、再び裏社会のトップに返り咲ける」
「確かに、そうかもしれないが……可能なのか? そんなことが」
「可能だ。既に成功例が存在する」
「なに!? 本当か!?」
「ああ……この目で見た、俺の父が悪魔を従えているところをな」
ごくりと、誰かが唾を飲み込む音が響いた。
もしそれが本当なら、タイタンズをもう一度再建出来る。このどうしようもない状況を打開出来る。
そんな期待の眼差しを一身に受けて──少年は、僅かに嗤った。
「さあ、どうする? お前達も……“契約”するか?」
その問いかけに否を返せる者は、この場には一人もおらず。
こうして、タイタンズの残党は、新たな力を求めより深い闇へと潜っていくのだった。
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