第76話 授業の一幕
俺が生徒会に入った翌日。新入生に次期国王であるクロウとその幼馴染のイケメントリオがいるってことで、学園内はその噂で持ちきりだった。
その上、その三人が共同で新しいサークル……学園の新たな治安維持組織である“生徒会”を発足したとあっては、話題にならないわけがない。
ましてそのメンバーに、スフィアという“平民”がいるとなれば、尚更。
「クロウ殿下が、ご友人達と協力して“生徒会”というものを作ったらしいですわ」
「聞いておりますわよ、ハルトマン侯爵家の若き当主様、ソードマン家のご令息に、入学前新たに伯爵位を授かったばかりのレンジャー家のご令息もいらっしゃるという話です」
「まあ、近頃話題のかの英雄の息子ですの? それは素晴らしいメンバーですわね」
「ただ、その中にはなぜか平民もいらっしゃるようで……」
「ああ、この貴族学園に特例で入学したという、あの……」
「一体どういうことなのでしょう?」
よくよく聞いてみると、スフィアだけじゃなくて俺のことも噂されてるじゃん。
なんか、戦功を挙げて準貴族から新しく正式な貴族へと格上げされたのはここ二十年ではレンジャー家だけらしく、なかなかに注目の的らしい。
ここはゲームと違う部分なので、ちゃんと変化が起こってるんだなって実感出来て嬉しいな。
「
そんな俺の隣の席で、スフィアが自分のことのように喜んでいた。
その無邪気な様子に、俺は苦笑を漏らす。
「確かにそうだな。けど、今は授業中だから、噂話より先生の話に耳を傾けような?」
「あ、はい……すみません」
てへへ、と可愛らしく反省するスフィアの姿に、思わず頬が緩む。
自分の悪い噂もあるのに、俺が褒められてるってだけでこんなにも喜べるのは、スフィアの美徳だろうな。本当に良い子だ。
「…………」
俺の指摘を受けて、素直に授業に集中し始めたスフィアを見て、俺も改めて授業内容へ意識を向けた。
現在、俺がスフィアと一緒に受けている授業は、魔獣相手の近接戦闘技術について。
俺やスフィアのようにガッツリと“剣”を使うような授業ではないんだけど、ゼロ距離から不意打ちを受けることになった場合、いかに魔法で対処するかっていう内容はそれなりに勉強になる。
ティルティも俺に合わせて受けようかな、とか言ってたけど、明らかに魔道具関係の授業を受けたがっている様子だったので、俺の方からそっちに行くよう背中を押したんだ。
こっちに来たがってる理由が、明らかに俺と一緒にいたいってだけだったからな。
嬉しいけど、そこは将来のための勉強を優先して貰わないと。
「なあソルド、お前から見て、この学園のレベルってどうなんだ?」
「んー? ……どうなんだろうな?」
スフィアともう一人、この授業を一緒に受けているルイスから話し掛けられた俺は、曖昧にそう返す。
いやまあ、勉強になるとは言ったけど、それはあくまで基礎の再確認って意味でだ。授業のレベルとしては高くない。
でも、今日は授業初日だしなぁ……こんなものだろ、とも思う。
それに、やっぱり実際に戦わないと、相手のレベルなんてよく分からないし。
「ルイスは不満か? 授業内容」
「まあな……家でそれこそ毎日毎晩聞かされた内容を、更に濃度薄めてもう一回学園でも聞かされるってのは結構退屈だぜ……」
ふあぁ、と欠伸を噛み殺しながら、ルイスは言う。
まあ、近接魔法戦闘のスペシャリストであるソードマン家なら、入学前からたっぷり仕込まれてるだろうしな。この内容じゃ退屈だってのは分かる。
ただ、そんな言葉に一番興味を示したのは、俺よりもむしろスフィアだった。
「えっ! ということは、ルイス様はこの授業より更に実践的な技術をご存知ってことですよね? すごいです、後で私に色々教えてください!」
「お、おう……いいのかよ」
「? 何がですか?」
「いや……俺、多分てめえより弱えぞ? そんな俺から習うことなんて……」
多分、町中でチンピラに絡まれていたスフィアを助けようとして、逆に助けられることになったあの件のことを言っているんだろう。
言いづらそうに呟くルイスに、スフィアは意味が分からないとばかりに首を傾げた。
「……? でも、私が知らないことをたくさん知っています。なら、私が教えを乞うのは当然ですよね?」
「…………」
スフィアの言葉に、ルイスは呆気にとられた様子でポカンと口を開けている。
これもゲームで、似たような展開があったな。
勝った相手に教えを乞うなんておかしいって言うルイスに、スフィアが今みたいなセリフを口にして……これを切っ掛けに、二人は仲を深めていくんだよなぁ。
ティルティの破滅に繋がるようなフラグは嫌だけど、こういう甘酸っぱい青春の一幕みたいなのを見るのは大歓迎だ。
完全に野次馬根性のまま、二人のやり取りを見守っていると……なぜか、ルイスの視線が俺の方へ向いた。
「それならそれで、コイツに習えばいいんじゃねえの……?」
「あ、もちろん
おっと、なんか予想外の流れになって来たぞ?
二人きりでの訓練じゃないと、いまいちフラグにならない気がするんだけど……まあ、いいか。断るのも変だし。
「俺はそれで大丈夫だよ、ただ、生徒会の活動が始まる前と後でな」
「はい!」
「俺にも教えてくれるのか?」
「ああ、せっかくだからな。魔神流とルイスの魔法剣じゃ全然違うだろうけど、一緒に訓練したら見えてくるものもあるだろ」
「……そうか、助かるぜ」
控えめに、けれど嬉しそうに答えるルイスを見て、俺とスフィアで顔を見合せながらくすりと笑う。
こうして、三人仲良く談笑していると、当然ながら先生に見咎められて注意され、揃ってぴしりと背筋を伸ばして。
学園生活の楽しいひと時は、ゆっくりと過ぎ去っていくのだった。
「……ふん、馴れ合いか。くだらない」
ほんの僅かな悪意の胎動に、気付かないまま。
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