第74話 生徒会発足
ライクと話した後、俺達は貴族学園の入学式に参加した。
まあ、新入生代表挨拶でクロウが何か演説してたり、校長先生の長い話で眠くなったりというお決まりの展開を挟んだ後は、ひとまず解散。
今日の残り時間は、一年を通して自分が受ける授業の選択と、入るサークルを選ぶための見学の時間ってことになってるらしい。
そんなわけで、俺とティルティ、それにルイスの三人は、ライクとシルリアの案内で生徒会が活動するために割り当てられた部屋……いわゆる、生徒会室へとやって来た。
「やあ、待っていたよ、ソルド。ようこそ生徒会へ」
生徒会室に入ると、中には既に三人の生徒が待ち構えていた。
一人はクロウ。満面の笑みで両手を広げ、歓迎の意を示している。王子のイケメンスマイルが非常に眩しい。
二人目は、スフィアだ。やっぱりクロウから誘われていたのか、俺を見て小さく手を振っている。
最後の一人は……誰だっけ、覚えはあるけど名前が出て来ない。
ゲームにいたキャラだとは思うんだが、メインストーリーには関わってこない子かな?
ブラウンの髪で、メガネをかけた女の子。一言で言えば、大人しい図書委員って感じ?
後、胸が大きい。シルリアといい勝負だ。
ちなみに、スフィアは二人より少し小さめの美乳タイプで、この中だとティルティが一番小さい。別に貧乳ってわけじゃないんだが。
ただ、そんな胸のサイズよりも気になるのは、その子の俺に向ける眼差しだ。
こっちを探るような、どこか不思議そうな……そんな、ちょっと困惑している感じの視線。何だろう、どこかで会ったことでもあるのか?
「兄さん、どこを見ているんですか?」
「いでで!? ご、ごめんって、ティルティ」
そうやって女の子を見ていた時間はそう長くないはずなんだけど、ティルティにはバッチリ悟られてしまったらしい。
脇腹を抓ってくるティルティに平謝りする俺に、他のみんなは一体何事かと首を傾げている。
どうやら、俺の視線の動きに気付いたのはティルティだけだったらしい。いやすごいなうちの妹。
「ふむ、せっかくソルドと再会出来たのだから、ハグで喜びを分かち合いたかったんだが、応じてくれないか……残念だ」
「お前はお前で何を言ってるんだ。……ですか」
どうやら両手を広げていたのは、単なるポーズではなく俺と抱き合いたかったかららしい。
思わず素でツッコミを入れそうになった俺に、クロウはくすりと笑みを溢す。
「ふふ、冗談さ。それと、この学園に来たからには敬語など不要だよ。爵位の差は考慮せず、立場を超えて交流を深めるための学園なのだからね」
「それは建前で、実際には結構爵位の差は重要って聞いたんですけど」
「これ、王族命令だから」
「三秒で矛盾してるんですけど」
まあ、この場で俺が敬語を使うのは、初対面の子を除けばクロウだけだし、正直助かるのは間違いない。
なので、ここは素直に応じることにした。
「分かったよ、クロウ。これでいいか?」
「ああ。これで僕も、今まで以上にソルドと深い関係になれる気がするよ」
「うん、仲良くなれるのは俺としても嬉しいけど、あんまり誤解を招くようなことは言わないでくれな?」
クロウの甘いマスクでそんなセリフ吐かれたら、なんか俺との間にただならぬ関係があるみたいじゃないか。
見ろ、ティルティがすごい形相で俺のこと睨んでるんだけど。絶対勘違いしてるよ、どうしてくれるんだお前。
「クロウ殿下、戯れるのもいいですが、この場には初対面同士の者もいるんです、まずは自己紹介からじゃないでしょうか?」
「ああ、確かにそうだね、ライク。……ところで、君も敬語は抜きで構わないんだが?」
「もうあなたに対してはこれで慣れましたので」
「つれないね」
ライクの一言に合わせ、軽くジョークを飛ばし合ったクロウは、ようやくメンバー紹介に入った。
と言っても、大体は知ってるやつばっかりだけど。
クロウ、ライク、ルイスの攻略対象三人に、スフィア、ティルティのヒロイン+悪役令嬢という異色のコンビ。
それから、シルリアと……もう一人。
「は、初めまして。マニラ・ヘブンスと申します。殿下からは、生徒会活動において必要な情報の収集と精査、管理を任されました」
「私とお兄が一緒」
マニラ……やっぱり聞き覚えはないんだけど、どうやら基本的にはシルリアやライクと一緒に行動することになるらしい。後方支援要員みたいだな。
……というところで、俺もようやく思い出した。
この子あれだ、ゲーム内でセーブする時だけ出てくる、生徒会の記録係。
シルリア同様、モブにしてはやたら可愛いって一部で言われてたんだよな……主要キャラじゃないからすっかり忘れてた。
「あ、あの……私が何か?」
「え? ああ、何でもないよ。俺はソルド・レンジャー、今日からよろしく」
「はい! ソルド様のご活躍は、ガランド男爵共々よく耳にしております。その……ずっと会ってみたいと思っておりました」
挨拶すると、感激された様子で手を握られた。
父さんの噂が広まってるのは知ってたけど、俺のことも結構知れ渡ってるんだな。
別に、英雄になりたくて強くなったわけじゃあないんだけど、こうやって憧れの眼差しを向けられるのは素直に嬉しい……と思ったら、そんな俺とマニラの間に、ティルティがぬっと入り込んできた。
「ティルティ・レンジャーです。
「は、はい……」
にこやかに挨拶している……はずなんだけど、なんだかティルティから謎の圧が出ている気がするのは気の所為だろうか?
なぜか蛇に睨まれた蛙という言葉が頭を過ぎる光景に首を傾げていると、シルリアがとてとてと俺の隣にやって来て、一言。
「ソルド……これ以上たらすのは禁止だから。分かった?」
「……お、おう?」
何のことかさっぱり分からないが、一応頷いておく。
こうして、何だかよく分からない不安(?)を抱えつつも、ゲーム本編とはやや異なる生徒会は無事発足する運びとなるのだった。
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