第73話 ライクからの誘い
翌朝、いつものように訓練で汗を流した後、貴族学園への初登校を迎えることになった。
ルイスから「どんっっっだけ早起きなんだてめえ……!? 日の出と同時に動き出すとか今時流行らねえぞ……」とかってドン引きされたりもしたけど、六時間は寝たから十分じゃないか? 早寝早起きは大事だぞ?
「兄さん、おはようございます!」
「ああ、おはようティルティ」
そうしていると、ティルティがやって来て嬉しそうに笑う。
そのまま、いつものように俺の隣に並んで……ぴくりと、眉を潜めた。
「兄さん、昨日私と別れた後にシルリアと会いましたか?」
「えっ、よく分かったな」
「匂いで分かります」
いや匂いて。俺が風呂に入ったの、シルリアと別れた後なんだけど?
「タイミングからして部屋で会ったんですよね? 何を話したんですか?」
「何って……久しぶりに会えて嬉しかったって話を少し。後、タイタンズの残党が動いてるから気を付けろってのも聞いた」
「タイタンズの……そうですか。……本体は全部“抜いて”いるのに、しぶといですね。マジェスター家以外の新しい指導者でも得たんでしょうか……」
ぶつぶつと、一人で何やら呟き始めるティルティ。
抜いたって何? って首を傾げていると、「まあいいです」とティルティは話題を元に戻した。
「兄さん、シルリアとの話は本当にそれだけだったんですか?」
「んー? ……ああ、なんかマーキングがどうとか言ってたな。ライクにするみたいな感じで甘えてきて、妹が増えた気分だったよ」
懐かしい。ティルティと初めて会った五年前、まだハルトマン家がお家騒動で揺れていたから、あまり表立って兄妹仲を見せ付けるわけにはいかないとかなんとか、ライクが言ってたっけな。
それで、ティルティが気を利かせて二人のスキンシップを促して……ちょうどあんな感じで……。
「いででで!! ティルティ、なんで俺の耳を引っ張るんだ!?」
「ちょっとシルリアが不憫だと思ったので、代わりにお仕置きです。全く、兄さんは鈍いんですから……」
「????」
「ソルドてめえ、本当にそのうち刺されるんじゃねえか……?」
意味が分からず首を傾げていると、ルイスからめちゃくちゃ物騒なことを言われてしまった。
いや、どういうこと?
「ソルド、久しぶりだな」
「昨日ぶり」
「あ、ライク、それにシルリア」
噂をすれば何とやら、話題の侯爵令嬢と若き当主様が俺たちに声をかけてきた。
益々イケメンぶりに磨きがかかったライクを見ていると、やっぱ俺はモブなんだなって今更ながら思い出す。
「ルイスも久しぶりだな、今日からは学友だ、よろしく頼むよ」
「おう、てめえには負けねえからな」
友好的なライクと、バチバチにライバル意識を燃やすルイス。
とはいえルイスも、口調とは裏腹にライクと会えて嬉しそうに見えるし……楽しい学園生活になりそうだ。
何事もなければ、の話ではあるけど。
「さて……挨拶も終わったところで、三人に話がある。お前達は、所属するサークルは決まったか?」
「サークル?」
「貴族学園では、貴族同士の交流を深めて国としての団結を高め、また将来貴族としての領地経営や戦闘でその責務を果たす目的で、サークル活動が推奨されているんだ。何らかの実績があると、学園からサークルの運営費用が出されることもあるから、皆真面目に取り組んでいる。……学生手帳にも書いてあるぞ」
「いやごめん、まだ読んでなかった」
ジト目を向けてくるライクに、ごめんごめんと軽く謝る。
貴族学園に入ると、それまで身分証として使ってきた家紋ではなく、生徒用の学生手帳を提示するように指導されるんだ。
これは、様々な爵位の貴族や準貴族が集まる中、高位貴族としての地位を笠に好き勝手する輩が出ないように、っていう配慮なんだが……ゲームの内容を思い返す限り、効果があったかは微妙だな。
だからこそ、俺も存在を忘れかけてたんだけど。
「全く……まあいい、特に所属するサークルが決まっていないなら、同じサークルに入らないか? クロウ殿下と話して、新しいサークルを立ち上げることにしたんだ」
「へえ……どんなサークルなんだ?」
サークルについては完璧に忘れてたけど、クロウとライクが立ち上げた学園組織ならピンと来た。
ゲームでも、主人公のスフィアはこれに属して様々なトラブルに首を突っ込んでいくことになるからな。
「シルリアから聞いているかもしれないが、ここ最近、タイタンズ残党の動きが活性化している。二年前に叩き潰したことでマジェスター家からの支援も絶え、階層式ダンジョンの発生も落ち着くものと思われたが……むしろ、近頃発生するダンジョンは階層式が基本だ。どこも騎士の人手が不足し、この学園に駐在する騎士も少ない」
そこで、と。ライクは語り続ける。
「生徒達から有志を募り、学園内及び王都近郊の治安維持活動を行う
「俺はライクの従者だからな、拒否なんてするわけないだろう? 俺の剣、ちゃんと役立ててくれよな」
「ああ……任せてくれ」
こうして俺は、この貴族学園における騒動の中心にして台風の目、“生徒会”へと所属することになるのだった。
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