第70話 ルイスとの決闘
「おお~……ついに来たのか、俺」
宿へ向かった父さんと別れ、やたらと俺を心配するティルティと二人でやって来たのは、数日後には自分達が通うことになる貴族学園だ。
大きな校舎だけでなく、遠方から来る生徒のための寮や、学園生活の中で必要となる雑貨を購入する売店……というよりもはや一つのデパートのような施設。どこの高級レストランだよってくらい煌びやかな食堂まである。
そんな、分かりやすく貴族達のために建てられたこの学園で、俺達が向かう先はこれまた大きな訓練場だ。
訓練場とはいうものの、正式な決闘や試合もここでやるんだろうか。観客席もあるし、雨の中でも出来るようにか天井がドームで覆われている。
なんていうか、野球場みたいだ。
「よお、待ってたぜ、ソルド・レンジャー!!」
その訓練場のど真ん中で、仁王立ちして待っていたのがルイス・ソードマンだ。
不良そのものみたいな目付きで、帯剣してるのもあって、道端で出会ったら全力で距離を取りたくなる。
けどその実、内面は誰より正義感が強い男だってことを、俺は知っている。
「待たせてすみません。……まさか、あれからずっとここで待ってたんですか?」
「敬語なんざいらねえよ、お前の家も伯爵になったんだろ?」
「よく知ってますね」
「さっきも言ったが、クロウとライクの奴からそれなりに話は聞いてるからな」
「それじゃあ……待たせた分、しっかり楽しませてやるよ」
父さんから、同じ伯爵位になったからってあまり同格だと思うんじゃないぞって釘を刺されていたんだけど……本人から了承を得たことだし、素の口調で接させて貰おう。
決闘をご所望みたいだから、木剣は使わない。自分の剣に手を添えて、ルイスと対峙する。
「兄さん、あまり怪我はさせないようにしてくださいね」
「ははは、気を付けるよ」
俺が怪我をするんじゃなくて、相手を怪我させるんじゃないかって心配するティルティの声から信頼を感じられて、ちょっと嬉しい。
まあ、相手からするとあまり面白い言葉じゃないだろうけど。
「随分と自信があるみたいだな……いいぜ、そうじゃなきゃ面白くねえ!!」
ルイスが剣を抜き、魔力を通す。
炎の魔法が剣を覆い、それが開始の合図だと言わんばかりに突っ込んでくる。
魔法使いといえば、大抵のやつは距離を置きながら攻めて来るものだけど、ソードマン伯爵家の魔法戦術は近接戦特化だ。
迫り来る炎の刃を、俺は抜き放った剣で合わせる。
その瞬間、ルイスはニヤリと笑みを浮かべた。
「爆ぜろ!!」
視界が、紅蓮の炎に包まれる。
自分ごと焼き尽くすような爆発が巻き起こるけど、この魔法は別に自爆技じゃない。
近接戦を主とするソードマン家の魔法は、実のところ自分の身を守る"防御の魔法"にこそ定評がある。
この程度の爆発で、自分は傷を負わない。そう確信しているからこその自爆だ。
そして、自分以下の防御魔法しか持たない相手は、この予想外の攻撃方法によってダメージを負う……んだけど。
流石に、知っている攻撃で傷を負うほど、温い修行はしていない。
「っ、お前、二本目の剣なんてどこに隠し持ってやがった!?」
「持ってたわけじゃない、今作ったんだ」
魔神流剣術、五の型──《幽剣乱舞》。
メインの剣で剣本体を押さえながら、この技で生み出した幻の剣で炎を振り払ったんだ。
俺の見せた防御の二刀流スタイルに、ルイスは獰猛な笑みを浮かべた。
「聞いてはいたが、本当にふざけた奴だな。それが魔法じゃねえとか嘘だろ」
「嘘じゃないんだよな、何度調べても俺の体に魔力はないし」
「ははっ、おもしれえ……なら、こいつはどうだ!?」
ルイスの剣を纏う属性が切り替わり、突風を纏う。
振り抜かれると同時に、凄まじい嵐が俺の全身に叩き付けられた。
「くっ……」
足が浮き、大きく空へと巻き上げられる。
それを好機と見たのか、ルイスは剣に魔力を込めていく。
「行くぜ、受けてみろ……!! 《
剣に纏う属性が再び切り替わり、バチバチと激しい閃光が弾ける。
振り抜かれる剣から雷が走り、神速の一撃が俺を襲う。
これが、ルイスの切り札なんだろうな。勝ちを確信するような顔をしている。
でも……それじゃあ俺は倒せない。
「ふっ……!!」
剣を振り抜き、雷を弾く。
技すらなしに防いでみせた俺に、ルイスは目を見開いた。
「っ……!! 当たり前みたいに剣で防ぎやがって、本物の雷と変わらねえ速度の攻撃だぞ!?」
「まあ、これくらいは出来ないと、妹を守れないからな」
「お前は一体どんな相手から妹を守る想定をしてんだよ!?」
「そりゃあ……決まってる」
"運命"だよ、と小さく呟きながら、俺は空中で剣を振り抜く。
その瞬間、俺の体は虚空へと消え、ルイスの背後へ一瞬で移動した。
魔神流剣術、三の型──《天姫空閃》。
全てを断ち切る空間切断のこの技は、使い方次第で瞬間移動にも利用できる。
なっ、と息を呑んだルイスの首元へ、俺は剣を優しく添えた。
「さて……俺の勝ちで大丈夫か?」
「……ああ、降参だよ。完敗だ」
潔く負けを認めたルイスが剣を捨て、両手を挙げる。
こうして、俺とルイスの初対決は、俺の勝利で幕を閉じた。
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