第69話 決闘への誤解

 俺とティルティが王城に着いた時、既に父さんは国王陛下に招かれた後だった。


 ちょっと慌てながら父さんと陛下の待つ玉座の間に向かった俺達は、そこで改めて近年の活躍にお褒めの言葉を頂き……正式に、父さんが伯爵位を賜るところを見届けることに。


「父さん、おめでとう! ついに父さんの実力が国に認められたんだね!」


「あはははは、そうだな、あはははは」


 城から出た後、俺は拍手と共に父さんを祝福するんだけど、あんまり嬉しそうに見えない。


 ……はっ、もしかして。


「父さん……分かったよ、俺」


「えーと……何が分かったんだ?」


「父さんはともかく、俺みたいな未熟者が“伯爵”の看板を背負ってちゃんとやっていけるのか不安なんだね……」


「どうしてそうなった??」


 分かるよ父さん、俺はまだ道半ば。剣の腕も父さんには遠く及ばないし、それ以外の……礼儀作法だの宮廷マナーだのに関しては、今やティルティにも完敗している有様だ。


 父さんが不安に思うのも無理はない。


「大丈夫、父さん。これまで以上に努力して、父さんが賜った伯爵の名に恥じない立派な剣士になってみせるから!!」


「…………おう、頑張れ」


 遠い目をしながらもそう言ってくれる父さんに、俺は大きく頷く。


 よーし、幸い明日からは学園生活が始まるんだ、ティルティを守ることを第一にするのは変わらないけど、伯爵家の人間らしく立派に成長することも目標としよう。


「ところで兄さん、あの……ルイス・ソードマン様でしたか? 彼から決闘を申し込まれていましたが、これから向かうのですか?」


「ああ、約束だからな」


「いや待て、決闘? 何の話だ?」


「父さんにはまだ言ってなかったっけ。ええとね……」


 俺は父さんに、ルイスから決闘を申し込まれた経緯を軽く説明する。


 すると、父さんはこれ以上ないくらい天を仰ぎ、頭を抱えていた。


「よりによって、伯爵位を賜ったその日に決闘なんて……しかも、相手は騎士団長の家系……大丈夫なんだろうな、ソルド?」


「大丈夫、“今の”あいつには負けないから」


 ルイスは攻略対象なだけあって、将来的にはスフィアと並ぶくらいに強くなる。純粋な戦闘力だけなら、攻略対象の中で随一と言っていい。


 でも……それはあくまで、スフィアに導かれた後の話。


 そうなる前のあいつは、ライクと比べてもさほど差はないくらいだ。


「いやそういう意味じゃなくてな!? 相手の立場も考えろ? 向こうの方が家格は上だからな?」


「いや、俺達もルイスと同じ伯爵になったじゃん」


「同じ伯爵でもピンキリなの!! ソードマン家は伯爵位でもトップクラス、うちはなったばかりのドンケツ!! 分かるか!?」


 珍しく父さんが焦ってるのは、伯爵位を得た者としての責任を感じてるからなんだろうか?


 まあ、俺もルイスのことを何も知らなければ、父さんが案じてるように下手に決闘するのは良くないと思ったかもしれない。


 でも、大丈夫。


「ルイスのことはライクから聞かされてるから、問題ないよ。手を抜いたりしたら、逆に殺される」


 そう。今のルイスは、自分の実力が伸び悩んでいるが故に、対等に競い合えるライバルを、あるいは自分が目指すべき目標を求めてる。


 だというのに、なまじ高い地位にいるのが災いして、決闘を挑んですら真剣に戦ってくれる相手がいないことを嘆いてるんだ。


 つまり。


「全力でボコボコにした方が、あいつは喜ぶよ。そういう奴だから」


「……兄さん、やっぱり決闘なんてやめて帰りましょう、それは絶対に相手にしてはいけない人です!!」


「へ??」


 なぜか顔を青くしながら必死に縋ってくるティルティに、俺はひたすら戸惑って。


 ティルティがとんでもない誤解をしていると気付いて、青くなっていた顔が一瞬で真っ赤に変わるまで、それからしばらくの時間が必要だった。

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