第67話 王城への道中

「へえ、それじゃあスフィアも学園に通うことになったのか」


「はい! クロウ殿下の計らいで……本当は辞退しようと思ったのですが、コルスに怒られちゃいまして。俺はいつまでも姉ちゃんがいなきゃ何も出来ない子供じゃないぞって」


「ははっ、コルスももうすっかり男だな」


 スフィアと談笑しながら、俺達は王都の中心へ向かう。


 俺とティルティの目的地は、父さんが一足先に向かった王城で、スフィアとルイスの目的地は王城近くの一等地に構えられた貴族学園。方向は同じだ。


「でも、正直コルスがそう言ってくれて良かったなとも思うんです。これからは師匠せんせいに毎日剣を見て貰えるってことですから!」


「まあ、これまでは距離があったからなぁ」


 レンジャー領とルルト村は、「ちょっと行ってくる」と出かけるには少し遠すぎる。


 《天姫空閃》を使えばそれなりに短縮出来るけど、あれ目視出来ない位置まで飛ぼうとすると失敗しやすいんだよな……緊急時でもない限り多用するのは怖い。


 とまあそんな理由から、直弟子なのに疎遠気味だった。

 それを解消出来るとあって、スフィアは嬉しそうだ。


「毎日なんてダメですよ、兄さんは私とお出かけする用事があるんですから!」


「えっ、そうなの?」


 そんな話は特になかったはずだけど、どうやらそういうことになったらしい。ティルティが俺の腕にしがみつき、スフィアの反対側から彼女を威嚇している。


 こらこら、そんな顔するとせっかくの美少女が台無しだぞ。


 一方のスフィアは、それを聞いて何かを察したように「なるほど」と笑顔を見せた。


「分かりました、私も師匠に無理強いするつもりはありませんから、お時間ある時にお願いします」


「おう、ありがとな」


 そんなスフィアに、ティルティは少し驚いた様子を見せる。


 二人の間で交わされる視線に何の意味があるのか、俺には全く意味が分からないんだが……それを聞く前に、この場にいるもう一人の男が声を割り込ませてきた。


「なあおい、両手に花は結構だけどよ、俺を無視するな」


「いや、無視してたわけじゃないですよ?」


 ルイス・ソードマン。

 攻略対象キャラとしてはほぼ唯一、剣をメインに立ち回る男だ。


 実家のソードマン家が、魔法を使った近接戦闘技術の第一人者っていうのがその主な理由だろうな。


 ただ、ソードマン家における剣術は、あくまで剣を媒体にしているだけの近距離魔法の使い方。剣はオマケで、何なら極めた人間は剣という媒体すら不要になり、最終的にはそれを目指すんだとか。


 ゲームのプレイヤーとしてはさほど気にしてなかった設定だけど、こうして一端の剣士となった今、その戦術がどんなものなのか改めて味わってみたいっていう欲がある。


 なので、俺としてはルイスを無視していたつもりは毛頭ない。ただ、ティルティやスフィアの話の方が優先度が高かっただけで。


「本当かよ……まあいい、俺からもお前に頼みてぇことがあるんだ」


「頼みたいこと、ですか?」


「ああ。……いきなりだが、俺と決闘しろ、ソルド・レンジャー」


 決闘という物騒な単語に、ティルティとスフィアが反応する。


 けど、ルイスの性格を知る俺としてはさして驚きもせず……強いていえば、スフィアじゃなくて俺が相手に選ばれたことを意外に思いながら、問いかけた。


「いきなりですね、どうしてですか?」


「お前が、強いからだ」


 俺の問いに対して、ルイスはこれまた俺の予想通りの回答を返してくる。


 そう、ルイスはそういう男だ。


 自分が強いと思う相手を探し、決闘を挑み、その戦いの中で強くなろうともがいている。


「ライクとクロウから聞いてるぞ、城よりでけえ魔人をぶった斬り、竜も倒し、マジェスター家の秘技を打ち破ったのもお前だってな。しかも、近頃噂の“剣聖”ガランド・レンジャーの息子と来た。……それが本物かどうか、俺自身の力で確かめてやる!!」


「……ルイス様がそれを望むなら、受けて立ちますよ」


 本来、こうして決闘を挑まれるのはスフィアのはずなんだけどな。


 スフィアに決闘を挑み、敗れ、また挑みと繰り返している間に、ルイスが胸の内に抱えたコンプレックスをスフィアが癒し、二人は距離を縮めていくって流れだ。


 なんだかフラグを邪魔しているようで申し訳ないけど、俺としても戦ってみたいのは確かだし、一度くらいいいだろう。


「ただ……今は無理です」


「どうしてだ?」


「……俺達、陛下からの呼び出しを受けているので。流石に、こんな私的な決闘を優先させるわけには……」


 父さんが先んじて向かってるはずだけど、俺やティルティが行かないと王城の前で待ち呆けだろう。


 陛下を待たせるなんて不敬は出来ないし、そろそろ急がないと。


「いや、そりゃあそうだろうな!? つーか、そんな大事な用があんなら、こんなとこで女侍らせてイチャイチャしてんじゃねえ、さっさと行けこのバカ!!」


「は、はい、ごもっともで」


 別にイチャイチャはしてないし、元々余裕のある時間指定だったからゆっくりしてただけで、最初から王城には向かっていた。


 決闘を思わぬ理由で先延ばしにされたルイスが、若干気恥ずかしそうに俺の尻を蹴っ飛ばす横で、ティルティは少し嬉しそうに、スフィアは苦笑しているのを見ながら、俺達は改めて王城へ向かって歩き出すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る