第51話 王子の人気とダンジョン出発
「王子殿下!? 王子殿下がこんなところへ!!」
「王子殿下、ようこそいらっしゃいました!! その、一体どうして……」
「困っている民がいると聞いてね、居ても立っても居られなかったんだ。迷惑だったかな?」
「そんなことはありません!! 王子殿下が来てくだされば百人力です!!」
「王子殿下、バンザーーイ!!」
まさかの王子来訪に驚く暇もないまま、気付けば村人達にも秒速で受け入れられている。
なんというか、流石王子様。俺達とは認知度も好感度もレベルが違う。
「まさか、このタイミングで王子が来るなんてな……こんな辺境の村なのに、凄い人気だこと」
つまりは、やっぱりこのイベントはゲームのプロローグ……スフィアの故郷壊滅イベントで間違いない。
スフィアの故郷が滅ぼされ、絶望の中で覚醒した力を王子であるクロウが目撃し、見出すことが"全ての始まり"なんだから。
ただ気になるのは、クロウが来るのは本来、故郷が滅んだ直後であって、まだちゃんと残ってる段階で来たのはイベントと違うってところか。
……俺が散々小さいダンジョンを潰して回ったのが、災害の発生時期遅延に繋がってるんだろうか?
だとすると、やっぱりさっき考えていた通り、"本命"があるのは──
「ソルド、気にしないで。クロウはいつもああだから」
「うん?」
難しい顔で考え込んでいると、シルリアにそう慰められた。
何のことだろうかと思ったけど……俺が苦労して戦って来たのに、クロウが来たことで村人達の関心が全部向こうに行ったことを気にしていると思われたんだろうか?
「ははは、別に気にしてないよ。王子殿下が来たことでこの村が救われるなら、それが一番良い」
スフィアが力を覚醒させることなく平和に過ごす世界線がもしあるのなら、このままティルティと関わりを持たずに済むし都合が良い。
いや、スフィアとティルティが関わらないのはともかく、スフィアが力に覚醒しないとそれはそれで困る展開もあるんだけど……そこはまあ、おいおい考えればいいだろう。
そんな俺に、シルリアは目を瞬かせて……ほんの少し、年単位で付き合いがある俺で辛うじて分かるくらい小さな笑みを浮かべた。
「ソルド、やっぱり優しい」
「そうか? 普通だろ」
そりゃあ、村の安全よりも自分の戦果を大事にするやつもいるだろうけどさ。そんなのが普通だとは思いたくない。
そんな俺の気持ちを察したのか、シルリアは首を横に振った。
「やっぱり、優しい」
「……ありがとな」
実はかなり頑固なシルリアと、そんなやり取りを交わし……ふと、俺はスフィアのことが気になった。
ゲームでは、いずれ結ばれる相手だ。何か思うところはあるんだろうかと視線を巡らせて……ちょうど、俺の方に駆け寄って来るところだった。
「師匠! あの……こんなことを聞くのは不敬かもしれませんが、王子殿下は強いのですか?」
「強いよ。俺よりずっと」
俺も強くなった自覚はあるけど、ゲームの公式チートキャラである攻略対象達に勝てると思うほど、己惚れてはいない。
何せ、俺が極めてるのは所詮、ゲームで言うところの弱攻撃だ。
俺の知るクロウの力を思えば、とても自分が上だなんて言えるわけがない。
「そんなことはないと思いますが……」
「もし殿下の戦闘を見る機会があれば分かるよ。ていうか、スフィアも殿下から魔法を習った方がいいんじゃないか? 素質あると思うぞ?」
「いえ、私は師匠から習いたいです!」
「そ、そうか?」
スフィアは魔法の方が強いと思うんだけどなぁ……いや、魔法と剣を両方修められたら、ゲームよりも強くなるのか? どうなんだろう。
「ふふ、随分楽しそうな話をしているね。僕も混ぜてくれないかな?」
「殿下」
シルリアとスフィアの二人と話し込んでいたら、続けてクロウもやって来た。
……ライクとは仲良くなれたんだし、こいつとも仲良くなれる可能性はあるけど、攻略対象って思うとやっぱり少し警戒しちゃうな。
そんな俺に、クロウは困ったように肩を竦めた。
「僕、嫌われてる? ライクに変なこと噴き込まれたりでもしたかな?」
「……殿下がいきなり、ダンジョン討滅に参加するなんて言い始めたので、ちょっと緊張しているんです。というか、ライクに変なことを噴き込まれるような心当たりがあるのですか?」
「あいつとは腐れ縁だから。ちょっとした悪口くらいは気軽に言い合う仲だよ」
それに、と。
クロウは俺に顔を寄せ、甘いマスクで囁いた。
「どうも、君はライクのお気に入りのようだから。僕に盗られやしないかって気にしていたし……正直、楽しみにしてるよ。君の力」
「……ええと」
ヤバい、近い!!
ゲームで一番のモテ男と言われていたのは伊達じゃないと言わんばかりの色香に、背筋がゾゾっとする。
俺を喰う気じゃないだろうな!? と叫びそうになる心を必死に抑えながら、失礼じゃないくらいゆっくりと距離を取る。
そんな俺の反応に、クロウはくすくすと笑みを溢した。
「さて、挨拶も終わったところだし、早速ダンジョンに行こうかと思うんだけど……君はどうかな? 疲れているなら明日でもいいんだが」
「いえ、まだやれますよ。殿下が行くというなら、俺も同行します」
繰り返すダンジョン討滅で疲れたと言っても、それはあくまで精神的なもの。
体としては、特別強敵と戦ったわけでもなし、余裕はあると思う。
「ソルドが行くなら私も……」
「いや、シルリアは休めよ。お前はずっと働き通しなんだから」
俺は戦う時だけ外に出てるけど、シルリアはダンジョンの捜索から俺の案内と、移動距離だけなら俺の二倍以上になる。
ただでさえ休みがないんだから、せめて今日はもう休ませないと。
「でも、ダンジョンを潰すなら、私が探さないと」
「ああ、その点は大丈夫だよ。実は、僕がこの村に到着するまでに一つだけ、それらしいものを見付けてあるから」
「……むぅ」
クロウからの思わぬ言葉に、シルリアは頬を膨らませた。
とはいえ、反論までは出来ないのか、不満そうに黙り込んでいる。
なら、俺とクロウの二人で──と思ったところで、これまた思わぬところから手が挙がる。
「あの……師匠、私もついて行っていいですか!?」
「はあ!? 何言ってるんだよ、スフィア。お前はまだ剣の修行も済んでないし、魔法もまだ覚えてないだろうに」
いくらゲーム中最強のヒロインといえど、戦う術も持たないままダンジョンに向かうなんて危険過ぎる。
そんな俺の真っ当な意見に、スフィアは「だからこそです」と強い眼差しで答える。
「直接、師匠が戦っているところを見たいです。そうしたら、何か掴める気がしますから!」
「いや、そうは言うけどなぁ……」
「いいじゃないか。本人が行きたいと言っているんだし」
「え……殿下!?」
まさかクロウがスフィアの肩を持つとは思わず、目を丸くする。
そんな俺に、クロウは相変わらず柔らかい表情のまま言った。
「この村にも騎士はいるだろう? その者に護衛をさせればいい。戦うのは僕と君だし、見学くらい大丈夫さ」
「ありがとうございます、殿下!」
王子であるクロウにこう言われてしまえば、俺も反論はしにくいし……スフィアもこんな感じじゃあ、認めるしかないか。
「分かった。けど、本当に気を付けろよ? お前に何かあったら、村の人達に合わせる顔がない」
「はい!」
なんだか上手いこと言いくるめられた感じがするけど、こうなったら仕方ない。ちゃんと守ってやろう。
そんな風に思いながら、出発の準備のために背を向けて……だから、俺には聞こえないと思ったのか、クロウはボソリと呟いた。
「さて……ライクのお気に入りの実力、早速見せて貰おうかな。楽しみだ」
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