第46話 父の新技(?)

「見よ、我が剣の極みを!!」


「おおっ、すげえ!!」


「いいぞいいぞ、もっと見せてくれ!」


 小さなダンジョンを一つ潰して村に戻ってみると……父さんが、剣術を披露して人々を湧かせ、おっさん達の人気者になっていた。


 ……まさか、こんなに早く人の心を掴むなんて。流石は父さんだ。


「行くぞ、しっかり見ていろ!!」


 父さんが剣……それも、村人から借りた安物らしきそれを構え、ゆっくりと振る。


 周囲の人に見せるための、いわゆる剣舞だ。

 実戦と剣舞は違うけど、久しぶりに父さんの技が見れるかもしれないと、少し離れた位置からそれを見ていると……不意に、どこからともなく新しい剣が現れ、父さんの空いてる方の手に収まった。


「……え?」


 一瞬、ほんの一瞬だ。剣に意識を集中し、もう片方の手から目を離した次の瞬間には、その手に剣が握られていた。


 どういうことかと混乱していると、父さんは手にした二本の剣を次々に宙へと放り……それが落下してくるより前に、またしても両手に剣が増えていた。


「っ!?」


 何が起きているのか分からず混乱する俺の前で、父さんは四本の剣を使って巧みなジャグリングを見せる。


 歓声が上がり、盛り上がっていく中で、父さんが村人の一人に目を向け何かを投げ入れろと指示を飛ばす。


 すると、指名されたおっさんが、手にした木の枝を投げ込み……剣が当たってもいないのに、それが空中でスパンと斬れる。


 それだけじゃない。事前に準備して貰っていたのか、そのおっさんが次々と枝を投げ込む度、全てが空中で切断され落ちていくのだ。


 村人達は、ジャグリングしている剣で見事に枝を斬ったように見えただろう。

 でも、そうじゃない。あんなふわふわした投げ方で、あんなに綺麗に枝が斬れるわけがない。


 きっと、父さんは……ああして剣をジャグリングしながら、この場の誰も……俺ですら見切れない速度で剣を振って、まるでジャグリングによって切断しているかのように見せ掛けているんだ……!!


「──っと、これにて閉幕です、ありがとうございました」


 落ちて来た四本の剣を、父さんは体をくるくるとその場で回転しながら受け止めていく。


 けれど、父さんが回転するのを止めて礼を取る時には、既に剣は最初の一本を残すのみとなっていて……まるで最初からそんなものはなかったみたいに、三本の剣が消えてしまっていた。


 まるで狐に化かされているかのような不思議な剣舞に、村人達は盛大な拍手を送る。


「素敵ーー!!」


「抱いてーー!!」


「あっはっはっは、こりゃあ参ったなぁ」


 よく見ると、おっさんだけでなく若い女性達も、父さんに黄色い声援を投げかけていた。


 ……父さん、めちゃくちゃ鼻の下伸ばしてるけど、母さんにバレたらまたシメられるよ?


 って、今はそんなことどうでもいい。


「父さん……いえ、師匠!!」


「そ、その声は……げえっ、ソルド!? どうしてここに!? 周辺の見回りに行ったんじゃ!?」


「終わったから帰ってきたんですよ、ダンジョンを一つ見付けて潰しといたので、続きはまた明日にしようって」


「…………そ、そうか」


 なぜかドン引きした様子の父さんに首を傾げつつ、俺はその傍に駆け寄った。


 そして、凄まじい剣技を目の当たりにした興奮のままに問い掛ける。


「師匠、今のも魔神流ですか!? 一体どんな技なんですか? 教えてください!!」


 何もないところから擬似的な剣を生み出すなんて、俺は考えもしなかった。


 これまでも、魔神流は剣術の常識を超えるような技ばかりだったけど、さっきのは今まで以上にとんでもない。


 もし習得出来たら、今後の戦いの大きな助けになるだろう。


 これは、是非とも教えを請わなければ!!


「…………そ、そうだ。今のは、幽霊レイスという魔獣の一種を降ろし、幻影の剣を生み出す魔神流剣術……《幽剣乱舞》だ」


「《幽剣乱舞》……!! 絶対に物にして、この村の周りにあるダンジョン、全部殲滅してみせます!!」


「……えっ、ちょっと待ってくれ、ダンジョンってもう潰したんじゃないの?」


「いえ、確かに潰しましたけど……どうも、一つ二つじゃない気がするんですよね、この周辺にあるダンジョン」


 俺がそう言うと、村人達の間で動揺が広がっていく。


 そりゃあそうだ、小さなダンジョン一つでも、守ってくれる騎士が一人しかいないこの村じゃあ脅威だっていうのに、それがいくつもあるかもしれないなんて。


 でも、問題はない。


「任せてください、魔神流の継承者として、ダンジョンは全て俺が潰します。そして、師匠がこの村にいる限り、どんな魔獣が攻めてきても皆さんを守ってくれるでしょう」


 父さんは膝に矢を受けた後遺症で戦えなくなったそうだが、その場からあまり動かずに放つタイプの技はちゃんと使えている。


 つまり、俺が攻め、父さんが守りについて戦えば、この村は安泰だろう。


「確かに、さっきみたいなすごい剣術が使えるなら、安心出来るかも……?」


「手品か何かだと思ってたんだが、剣なのか? あれ」


「剣っていうより魔法じゃないの……??」


 信じていいのか分からず、戸惑う村人達。


 そんな彼らにも分かりやすいように、俺は一番派手な技をその場で披露する。


 どう頑張っても手品には見えない、切り札を。


「三の型……《天姫空閃》!!」


 全力で振り抜いた斬撃が、空にバッサリと漆黒の痕を刻み込む。


 いくらなんでも、こんなことが出来るのは剣を除けば魔法くらいで、手品には無理だろう。


 加えて、クヴァトさんが俺が小さなダンジョンをあっという間に攻略したことを告げてくれたことで、村人達も俺の言うことを信じてくれる気になったらしい。


「ハルトマン侯爵家は、ルルト村を見捨てたわけでも、甘く見ているわけでもありません。俺達が助けますから、安心してください」


 俺がそう言うと、村人達の間で再び歓声が上がる。


 そんな景色を見てよしよしと頷く俺の隣に、シルリアがちょこんとやって来た。


「ソルド、ありがと」


「なんでお礼を?」


「侯爵家のこと、庇ってくれたから」


「ああ……俺も実質身内みたいなものだし、普通だろ。それに、父さんが場を温めてくれたお陰だよ」


 単に力を見せ付けるだけだったら、なんで犠牲が出る前に来てくれなかったんだって怒られたっておかしくなかった。


 でも、父さんが上手く剣で村人達の心を掴んでくれていたから、こうして力を披露しても喜びの感情で迎え入れられたんだ。


 俺が力を見せるより前に探索に出たのも、先に実績を積まなきゃ信じて貰えないだろうと思ったからだしな。


「あ、あの……」


 そんな風にシルリアと話していると、村人達の間を縫って俺に声をかける人物が現れた。


 金色の髪を持つ、この世界のヒロイン。スフィアだ。


「どうしたんだ? 何か不安なことがあったら言ってくれ、出来るだけ力になるから」


「いえ、そうではなくて……」


 少し歯切れの悪いスフィアに首を傾げつつも、根気よく次の言葉を待つ。


 すると……スフィアは、俺にとって想像だにしなかった一言を口にした。


「さっきの剣術って……私にも習得出来ますか?」

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