第34話 作戦会議

「……あれ?」


 間違いなくあの巨大な腕でぶん殴られたはずなのに、なぜか怪我もなくどこかの建物の中にいる。


 そんな現状に首を傾げていると、俺の視界に見覚えのある少女が顔を見せた。


「シルリア、それに……ティルティ、フレイまで!? お前ら、なんでここに!?」


 シルリアはすぐ近くにいたから分かるけど、ティルティは衛兵と一緒に避難してるはずだし……フレイに至っては、本当になんでここにいるのか理解できない。


 そんな俺に答えるように、ティルティが口を開いた。


「私が急いで連れて来たんです。避難している最中にたまたま会って……遠くからでも兄さんの戦いが見えていたんですが、そしたらフレイが……私の剣じゃあんな戦い耐えられないって言ったので……」


「あ、そうだ、剣!」


 ティルティに言われて、最後の瞬間に剣が砕けたことを思い出す。


 見れば、それはもう無惨に根本からポッキリと折れていた。もう修理すら出来ないだろう。


「ごめん……!! 私の鍛冶の腕が未熟だったばっかりに……!!」


「フレイ……気にするなよ、剣のせいじゃない。剣を振るう俺が未熟だっただけだ」


 今にも泣きそうな顔で謝るフレイにそう伝えるも、あまり効果はないらしい。

 ぶんぶんと首を振って、自分が悪いんだと繰り返している。


 そんな俺達に、シルリアが口元で指を立てて「静かに」と呟く。


「見つかる」


「……ええと、悪い、俺あの瞬間に少し意識飛んでたみたいだから状況が分からないんだけど、今どうなってる?」


「説明する」


 シルリア曰く……。


 タイタンに空中で殴られたあの瞬間、シルリアが風の魔法で俺を守ってくれたらしい。


 ワルガーの自意識が目覚めてからは、俺を確実に仕留めるために"一撃の威力"よりも"当てやすさ"を重視して腕を振り回していたから、それが結果として功を奏したんだろう。


 でも、仕留め損なったことは当然あいつにもバレたから、すぐにトドメを刺されそうになって……そこへ、ティルティとフレイが駆け付けたんだと。


「私の魔法で、近くの建物に《空間転移テレポート》して身を隠しました。今は居場所もバレていないですけど……見つかるのは時間の問題だと思います」


 ティルティがそう言った瞬間、激しい地響きと共にすぐ隣にあった建物が踏み潰された。


 どうやら、ああやって怪しいところを虱潰しに探しているみたいだ。


 あの魔力砲撃を撃たないのは……連発出来ないから、か?


 いよいよ、あいつがあくまで試作品だっていう俺の希望的観測が、的外れじゃないっていう証明になってきたな。


 ……ていうかちょっと待って、今サラッと流したけど、ティルティってもう《空間転移テレポート》使えるの?

 あれ、設定だと入学した後にやっと使えるようになる魔法だった気がするんだけど。えっ、本当に?


「兄さん、逃げましょう! 兄さんは十分戦いました、これ以上は……!!」


「ティルティ……それはダメだ。あいつが本気を出したら、逃げた先まで一撃で吹っ飛ばされる。ここで倒さないと、逃げることも出来ない」


 必死に訴えかけて来るティルティに、俺は現実的な問題を告げる。


 ティルティの《空間転移テレポート》も……現時点で使えてるだけでもびっくりだけど、流石にこいつの魔の手から逃げ切れるほど連発は出来ないだろうし。


「だからって……いつも兄さんばかりが傷つく必要なんてないじゃないですか……! もう、剣だって折れたのに……!」


「それでも……俺がティルティを守りたいって思うから。我が儘な兄ちゃんでごめんな」


 ティルティの意思に反して戦おうとするのは、俺の意思だ。ティルティのためだなんて言い訳するつもりはない。


 たとえティルティに嫌われても、どこかで力及ばず死ぬことになっても、俺は最期までティルティのために運命に抗うって決めたんだ。それを変えるつもりはない。


「……ほんとですよ。兄さんはいつも、私の意見は無視してばかりで……」


「その……悪い。この埋め合わせは必ずするから、許してくれ」


 結局、ティルティとのデートも途中でめちゃくちゃになっちゃってるし……俺に出来るのは、必ず生きてやり直すって約束するくらいだ。


 でも、それじゃあ納得がいかなかったのか、ティルティはキッと顔を上げて俺を睨んで来る。


「ダメです。今埋め合わせをして貰います」


「えっ、今!? 今は流石に……」


「私も、兄さんと一緒に戦います。それを認めてくれないと許しません」


「……は?」


 あまりにも予想外過ぎる言葉に、俺はポカンと口を開けたまま固まってしまう。


 は? いや、え? 戦うって、ティルティが? ……いやいやいや。


「ティルティ、気持ちはありがたいけど、お前はまだ子供で……」


「兄さんだって子供です」


「そうだけど、でもお前はまだ魔法も未熟だし……」


「兄さんだって、いつも俺の剣はまだ未熟だって言っています」


「いやそうかもしれないけど、その……ええと……」


 どうしよう、俺の言動全てがブーメランになって、ティルティを説得する言葉が出て来ない。


 オロオロと戸惑う俺に、更に追撃するかのようにシルリアが口を開いた。


「ん、ティルティがいるなら、作戦がある。ちょうど、鍛冶屋もいるし」


「私……?」


 自分に話が振られるとは思っていなかったのか、フレイが意外そうに目を丸くする。


「償う気があるなら、付き合って」


「……分かったわ、何でもやる!! ソルドの力になれるなら!!」


 いやいや、今回折れた剣は、最初から習作だって分かった上で受け取った剣で、分かった上で戦いを挑みながら扱いきれなかったのは俺のせいだから、フレイが償うことなんて何もないんだけど。


 そんな俺の意見を口にする間もなく、女の子達だけで作戦会議が進行していった。


「私がソルドの翼になる。ティルティは運び屋。フレイは、剣を選んでティルティに」


「そういうことですか……分かりました」


「剣を選ぶ……? あ、そういうこと! 分かったわ、打つのはまだ全然かもしれないけど、目利きなら任せて!」


 えっ、ちょっと待って。ティルティとフレイ、今の説明でどんな作戦か理解したの? 俺全然なんだけど?


 戸惑うばかりの俺に、トドメとばかりにシルリアが告げる。


「ソルド……この町を、お願い」


「…………うん、任せろ」


 一人だけ理解出来ていないとはとても言えず、俺はそう頷く。


 そんな俺に、シルリアはいきなり抱き着いてきて──


 風の魔法で、大空へと舞い上がった。

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