第33話 闇巨人との激闘
「くそっ、なんでコイツが今出て来るんだよ……!!」
廃教会を突き破って現れたのは、巨大な魔人。名前は確か、
こいつはゲーム終盤、完全に悪の道に堕ちたティルティが使役し王都に解き放つ、作中最強クラスのボスだ。
ほぼ限界値まで育て上げた攻略対象達でさえ、数人がかりで一体を相手取るのがやっとの敵。
ラスボスであるティルティにヒロインが挑むため、一人を選んで同行させ、他のメンバーにはこのタイタンの対処を任せるっていう選択肢があって、ここでエンディングを迎えるキャラが決定するんだけど……選ぶキャラだけにかまけて他のキャラの育成をサボってると、ティルティを倒してもこのタイタンによって王都を滅ぼされるバッドエンドに直行するっていうふざけたイベントだった。
"真の裏ボス"、"こいつもしかしてティルティより強いんじゃね?"、"こんなのを貸し出したタイタンズとかいう組織何なんだよ"ってコメントが、攻略サイトに山ほど並んでいた記憶が頭を過る。
こんな化け物、今の俺に対処できるのか……?
『グオォォォォォ』
弱気になっていた俺の耳に、タイタンの咆哮が響いてくる。
顔を上げると、タイタンの口内へ漆黒の魔力がどんどん収束していて……。
「まずい……!! シルリア、伏せてろ!!」
「えっ……」
シルリアを置いて、俺はなりふり構わずタイタンへ突っ込む。
とはいえ、狙うのは本体じゃない。その大きすぎる足だ。
「魔神流剣術、二の型……《黒竜炎斬》!!」
振り上げた剣先に炎が灯り、斬撃と共に爆発する。
その衝撃でバランスを崩したタイタンは、そのまま後ろ向きに倒れていき──口に溜まった膨大な魔力を、空へ向かって解き放った。
「っ……さすがは、裏ボスってところか……!!」
空間さえも打ち破る漆黒の魔砲が、黒く染まっていた空に風穴を開けていた。
以前、俺も《天姫空閃》で似たようなことはやったけど、あれとは比べ物にならない大きさだ。
ゲームにおけるラスボス戦では、ティルティを撃破した段階でタイタンが生き残っていると、この一撃を王都に放たれ全てが無に帰してしまう。
……決して少なくない時間を過ごしたこの町が、消えてなくなる。
ティルティも衛兵と避難しているはずだけど、町の外まで出ているとは思えない。
あんなものが町に向けて放たれたら、ティルティが死ぬんだ。そんなこと、認められるか。
「お前は俺が、ここで斬る!!」
剣だけ、魔法なしの縛りプレイ。父さんくらいに剣を極めていればまだしも、今の俺にタイタンを倒すことなんて、客観的に見れば出来るわけがない。
でも、希望が全くないわけじゃないんだ。
俺の持ってる知識では、五年後にタイタンが初登場した段階で、「つい最近完成したばかり」って発言があったはず。
今の時点で出て来たこいつは、俺の知る最強のボスではなく、その"試作品"……かも、しれない。
それなら、倒せる目だってゼロじゃないだろう。
「いや……仮にゼロでも、関係ない」
静かに息を吐き、一人で呟く。
俺がここで勝てなかったら、ティルティが死ぬ。
ティルティだけじゃない、シルリアやライクだって……この町の人達が全員死ぬんだ。
なら、やるしかない。
無理でもやれ、みんなを守りたいなら……ぶった斬れ!!
『ウオォォォォン!!』
自己暗示で無理やり覚悟を決めて顔を上げると、タイタンが俺に向かってその大きな腕を振り下ろしてくるところだった。
バックステップでそれを回避する……んだけど、サイズが違いすぎるせいでこんなちょっとした攻撃でも地面が揺れ、衝撃が伝わってくる。
全力で回避しないと、少し掠っただけで致命傷だよ、こんなの。
幸いなのは、動きが鈍いお陰で技を放つ隙には困らないだろうってところか。
「三の型……《天姫空閃》!!」
現状放てる最大威力の技を放ち、タイタンを両断しようと試みる。
ドロリとした泥濘にも似たその体は思っていたよりも柔らかく、斬撃はしっかりとその身に食い込んだ……けど、いざ内部まで切断しようとすると、今度は逆にそのヌメリとした感触に絡め取られるようにして威力が減衰し、表面を浅く削る以上の戦果は奪えなかった。
しかも、そんな浅い傷は一瞬で修復され、全く痛手になっていない。
「くっそ……厄介だな、これは……!!」
現状最強の技でもこの程度だと、正面から削りきるのは難しいな。
ならばどうするか、と考えを巡らせる中、タイタンはその足で俺を踏み潰さんと一歩踏み出す。
「……《氷狼一閃》!!」
それを目にした俺は、再び足へ向けて技を放つ。
切断するよりも、凍結させることに重きを置いて剣を振ると──狙い通り、凍り付いた軸足を滑らせ、派手に転倒した。
「《氷狼一閃》!!」
転んだことで、無防備にすぐ近くに晒されることになったタイタンの首へ、再び技を放つ。
弱点……かどうかは分からないけど、大抵の生物にとって急所になるその場所が凍り付いたのを確認し、立て続けに剣を振るった。
「《黒竜炎斬》!!」
ドロリとした体組織が剣を防ぐなら、それを凍りつかせれば通りが良くなるかもしれない。
そんな発想の下叩き込んだ炎の斬撃は、確かな手応えと共に大きくタイタンの体を削り取った。
「よし……!!」
当然、再生はしてる。
けど、ついさっきまで相手をしていた魔人達と違い、こいつの体にはしっかりと魔核があるんだ、そこまで刃を届かせれば倒せるはず。
後は俺が、こいつの再生が追い付かない速度で剣を振り続けるだけ……!!
「うおぉぉぉぉ!!」
タイタンの体を凍結させ、それを炎と共に砕く。
そうして穿たれた傷跡を凍結させて再生を妨害し、もう一度砕くことでより深くまで刃を通す。それを、タイタンの攻撃を掻い潜り、巨大な体を駆け上りながらやり続けなきゃならない。
正直、無理難題にも程があるけど……幸い、タイタンの動きは緩慢だし、やってやれないことはないだろう。
最初に使われた魔力砲撃だけは気を付けて、後は……俺の体力が、このふざけたサイズの巨人を削りきるまで耐えられるかどうかだけ……!!
『ウォォォォォ!!』
「っ!?」
延々と技を繰り出し続けていると、ここに来てタイタンが予想外の動きを見せた。
今までは、いくら動きが鈍かろうと俺を狙う動きを見せていたのに、ただめちゃくちゃに腕を伸ばして振り回し始めたのだ。
“攻撃”ですらない、ただ“当てる”ことだけを意識したかのようなその動きを、躱しきることは難しい。
当然、その分威力は落ちるだろうけど……魔法で身を守れない俺を殺すだけなら、十分過ぎる。
「このぉぉぉぉ!!」
迫り来る壁のような腕に対し、剣を盾にして強引に受け流す。
空中で、かなり無茶な姿勢で受けたこともあって、衝撃のあまり全身の骨が粉々になるかと思った。
ビシッ、と嫌な音が響いた気がしたけど、その正体を確かめる余裕もない。
何とか空中で技を放って体勢を整え、着地する。
剣を地面に突き刺して勢いを殺し、何とか無傷で凌ぐことが出来たけど……どうして、こんなに急に動きが変わった?
『ウゥゥ……コロス……ワタシヲ、コンナメニアワセタオマエハ……オマエダケハ、ゼッタイニ……!!』
「……俺、悪くないだろ、それ」
どうやら、俺がタイタンの体を削っていったことで、この巨人の核になったワルガーの意識が表に出てきたらしい。
あの巨人に対して、こんな小さな人間一人の声が届いたかどうかも分からないけど、とにかく俺を殺したくて仕方ないことだけは分かった。
『コロス……コロスコロスコロスコロス!!』
「っ、ヤバい!!」
タイタンが口内に魔力を収束し、例の砲撃を放とうとしてる。
これだけは阻止しなければと、俺は大急ぎで飛び掛った。
「《天姫空閃》!!」
全力の剣術で、タイタンの顎を斬り上げて砲撃の向き先を強引に変えるべく振りかぶる。
後先考えずに放ったその一撃は、狙い通りタイタンの攻撃を空へ逸らすことに成功するも──バキンッ、と。
これまでとは異なる、嫌な手応えが返ってきた。
「なっ……!?」
剣が、折れた。
無理な技の連発に、魔法もなしに盾代わりに使ったから、限界が来てもおかしくないけど……よりによって、このタイミングで……!!
『シネェェェェェ!!』
こうなることを予想していたのか、愉悦の笑みと共に全力の拳が迫ってくる。
それに対して、剣を失い、空中にいる俺にどうすることも出来ず──
俺の全身を、衝撃が襲った。
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