第31話 不死の魔人

 ふざけた再生力を持つ魔人の集団が、いきなり町中に出現した。


 前触れも何もなく、いきなり地上げ屋が呪具を取り出すもんだから本当にびっくりしたよ。


 犯人は、呪具を適当にばら蒔いたりでもしたんだろうか? 何のために?


 分からないけど……今は目の前の敵に対処しないと。


「《氷狼一閃》!!」


「ぐアァ!?」


 魔人の一人を居合で斬り伏せ、凍結させる。


 焼こうが真っ二つにしようが再生するふざけた連中だ、俺に出来ることと言ったら、氷漬けにして一時的に動きを封じ込めるだけ。


 鍛冶屋の前に出た魔人も、ひとまずこうして氷漬けにした後、ティルティの魔法で地面に埋めて当分は身動きが取れないようにして貰った。


 ここでも同じようにすれば、こいつらは一旦封じ込められるけど……数が多いし、時間が経てば絶対に這い出て来る。本当に厄介な!


「アインさん達は衛兵と一緒に避難誘導しつつ撤退してください。ここは俺が押さえますから」


「一人でこの数を相手にするつもりなのか!? いくらなんでも無茶だろう!」


「確かに、俺の腕じゃあまだこいつらの“不死”の再生能力を突破出来ませんが、一体一体は黒竜とは比べるまでもなく弱いので、時間稼ぎくらいは何とかなります。その間に、ライクに情報を伝えて対抗手段を練ってください」


「そ、そうか……ソルドからしたら弱いのか、そいつら……」


 なぜかアインさんがドン引きしている気配がしたけど、今はそれに構っている余裕がない。


 弱いと言っても、ゲーム終盤のモブ敵クラス。

 序盤でいえば中ボスより少し弱い程度の相手を、一度にこれほど相手しようっていうんだ。大抵の人は、もっと強いボス一体の方が楽だと口を揃えて言うだろう。


 正直、俺も同じ思いだ。

 いくら弱くても、こいつら十体同時に相手するくらいなら、黒竜と再戦する方が遥かに気が楽だね。


 でも、やるしかない。

 やらないと、ティルティが危ないんだから。


 さっきの魔人を埋めた後、衛兵隊と一緒に避難させたティルティが安全な場所に辿り着くまでは……俺がこいつら全員を引き付けて、時間を稼ぐ!!


「うおぉぉぉ!!」


 右から飛びかかってきた魔人の胴を横薙ぎにし、背後から迫る鉤爪を踵で蹴り上げて防御。

 左右から同時に放たれた魔法を《氷狼一閃》で斬り払うと、突如足元から生えた魔人の腕が俺の足を掴み、身動きを封じてきた。


 どこのゾンビパニックホラーのやり口だよ、この野郎!


「ぅがァァァァ!!」


 人とも魔獣とも言いきれない奇怪な雄叫びに反応して顔を上げれば、上空の魔人が極大の《炎球ファイアボール》を俺に向かってぶん投げてきた。


 仲間の魔人が不死であることを前提にした、全てを巻き込む範囲攻撃。


 ひとまず、地面に埋まった足下の魔人に剣を突き立てて自由を取り戻した俺は、大急ぎで切り札の技を放つ。


「《天姫空閃》!!」


 少し溜めが必要なのと、何でもかんでも“斬り過ぎる”せいでちょっと使い勝手の悪い技だけど、この規模の魔法を防ぐにはこれしかない。


 時空ごと斬り裂くこの技が、迫る魔法と空にいる魔人をまとめて真っ二つにして……すぐに、魔人は肉片から元の異形へと再生していく。


「くそっ……本当にキリがないな……!!」


 少し肩で息をしながら、俺は現状の手詰まり感を嘆く。


 状況は違えど、こういう無限湧きの敵はゲームにもいた。


 ただ、この手の再生能力を無効化出来るのって、ヒロインの持つ聖属性の魔法だけなんだよな。


 それも剣で再現出来たら、と思うけど……“それ”は今の俺にはまだ無理だと、剣に言われている気がする。


 空間支配の闇属性魔法よりも、魔人殺しの聖属性魔法の方が難易度は高いらしい。まあ、そうでなければ“ヒロイン”になれるわけないか。


「《氷狼一閃》!!」


「グぎゃア!?」


 一体ずつ、魔人を斬り伏せ凍結させる。


 けど、何度もやってると連中も俺の狙いを見抜いたのか、何と氷漬けになった仲間を攻撃し始めた。


 氷が砕け、中の魔人も粉々になるけど、それを魔人の再生力で補って活動を再開する。


 なんとまあ頭の良いやり方だこと。今の俺にとっては、一番やられたくない行動だよ、くそったれ。


「……ソルド!!」


「っ、お前は……シルリア!? どうしてここに!」


 八方塞がりで困り果てていた俺のところに、シルリアが文字通り“飛んで”来た。


 予想外の事態に驚く俺へ、シルリアは矢継ぎ早に言葉を発する。


「魔人の親玉、向こうにいるって、お兄が!! 倒して!!」


「ライクが?」


 相変わらず言葉が少ないシルリアだけど、概ね言いたいことは分かった。


 そうか、やっぱりライクも、この事態を収拾するために戦ってたんだな。

 それで、どういう思考を経てそうなったかは分からないけど、この魔人達を操る親玉の存在に気づき、その居場所を突き止めたと。


 ……確かに、こいつらを操る親玉がいると考えれば、元は無関係な人間達だったはずの魔人が、言語すら失いながらやけに完璧な連携を見せていたことにも納得がいく。


 一体一体は弱い割に不死の再生能力を持っているのも、その親玉が何か仕掛けをしているのかもしれない。


「分かった、その場所まで案内してくれ」


「ん、こっち……!?」


「がアァ!!」


 シルリアが空を飛んだまま先行しようとすると、そんな彼女を狙って魔人が襲いかかった。


 咄嗟のことで回避もままならず、ぐっと身を強ばらせるシルリア。そこへ、魔人の鉤爪が容赦なく迫る。


 ……そうはさせるか。


「《天姫空閃》!!」


 時空を斬り裂くこの技を、最初に繰り出した時のやり方──自分の移動のために使う。


 上手くシルリアの隣まで転移した俺は、その小さな体を抱き寄せつつ、剣で魔人を斬り裂いた。


 悲鳴と共に、地面へと落ちていく魔人。当然のごとく再生するだろうけど、ひとまずシルリアのことは守れたな。


「気を付けろよ、あいつらは平気で空も飛ぶぞ」


「……ん」


 なぜか顔を赤くしながら頷くシルリアに、どこか怪我でもしたかと尋ねるが、勢いよく首を振って否定された。


 よく分からん、と思いつつ──俺はシルリアの案内で、魔人達の親玉がいるであろう場所へ向かうのだった。

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