第24話 医務室の一幕
呪具の力で魔人化した奴隷商人、ドゴラとの戦いは、倉庫周辺の住民によって衛兵に通報されていたようで、俺たちは無事保護された。
まあ、あれだけド派手な魔法が解き放たれて、俺もそれをぶった斬ったわけだし……そりゃあ、いくら人気のない場所だって言っても限度があるよな。
残念ながら、ドゴラは俺が消し飛ばしてしまったから死体すらなく、魔人化については俺とシルリアの証言しか証拠がない。
それでも、部下(?)の黒ずくめ達は捕らえたので、腹黒メガネことライク様なら元凶を捕らえるにもそう時間はかからないだろう。
……誰が元凶なのか知ってれば、俺が告げ口しても良かったんだけど。残念ながら、そこはゲームでも名前すら触れられてないから、ライクに頼るしかないのが歯がゆいけど。
そんなわけで、現在。
ダンジョン攻略を成し遂げ、その足で侯爵令嬢を救い出した俺は──
「ソルド、あなたがなぜ私に呼び出されたのか、分かるかしら?」
話を聞きつけるや否や、レンジャー領を飛び出し侯爵家にまで乗り込んできた母さんの前で、正座させられていた。
「ええと……相談もせずに従者になったことでしょうか……」
「それもだけれど、何より十歳でダンジョンに挑んだ挙句、誘拐されたティルティを救い出すためとはいえ、騎士も連れずに飛び出して賊と戦ったというところです」
「あ、はい……ご心配おかけして申し訳なく……」
母さんがめちゃくちゃ怒っているということは、わざわざ聞かずともよく伝わってくる。父さんにブチ切れて阿修羅と化してる時と同じ気配だもん。
だからもう、これは大人しく謝罪するしかないと、ひたすら頭を下げる。
そんな俺に、母さんはスっと手を向けて……びくりと震える俺の体を、優しく抱き締めた。
「全く……まだ子供なのに、そんな無茶ばかりして……」
「……怒らないの?」
「もちろん怒ってるわよ。でも、悪いことをしたわけじゃないのに、あまり怒るのも変な話じゃない? あなたのことが心配なだけよ」
「……ありがとう」
正直、普段から父さんが烈火のごとく怒られているのを見てるから、意外である。
そんな俺の気持ちが伝わったのか、母さんはにこりと笑いながら言った。
「もちろん、何度も繰り返すようならお父さんにやってるみたいに怒るからね? 反省しなさい?」
「……はい」
釘を刺されてしまった……。
これは、もっと強くなって母さんを安心させないとな、と思いながら、お説教が終わったこともあって母さんと一緒に移動する。
向かう先は、侯爵家の医務室。少し前まで父さんが入院していたその場所には、現在ティルティとシルリアが寝かされているのだ。
というわけで、ノックをしつつ医務室に入ると……病人らしい白衣を着たティルティが、いの一番に飛び込んできた。
「兄さん!!」
「わっと……ティルティ、体はもう大丈夫なのか?」
「はい、私は元々、大した怪我もありませんでしたから。……兄さんが守ってくれたんですよね? 本当に、ありがとうございます」
「お礼を言われるようなことじゃないよ。兄貴が妹を守るのは当然だろ?」
「それでもです。兄さんがいなければ、私もシルリアもどうなっていたことか……」
ぶるりと、抱きしめた腕の中でティルティの体が震えた。
ティルティは元々、あの奴隷商の“商品”として捕まってたからな……それを思い出したのかもしれない。
もう大丈夫だって安心させるように、何度も背中をポンポンと叩くと、ティルティは甘えるように俺の胸に頭をぐりぐりと押し付けた。
「ソルド、まずは無事で良かった、んだが……えーと、魔人を斬ったって、本当か?」
ティルティを宥めていると、俺が来るまでティルティの相手をしていたらしい父さんが質問してきた。
魔人が本当に現れたのかどうか、父さんも気になるのだろうか?
「本当だよ。呪具を使って、体が完全に魔獣みたいになるところをこの目で見たから」
ゲームのストーリーでは、ヒロインが学園に入学することになる今から四年後に裏で流通し始める代物なのに……こんなにも早く見ることになるなんて。
俺が介入したことで、変化が起きてるんだろうか? だとすれば、より一層気を引き締めて修行しなければならないな。
「そうか……剣で魔人を……剣で……いや、本当に……? でも、ソルドに魔力がないのは確かだし……ええ……」
「……?」
父さんが頭を抱え、一人で何かをブツブツと呟いてる。
魔人の出現は、父さんにとってもそんなに頭が痛い問題なんだろうか。
……いや、そりゃあそうだよな、ゲームでもあんなに大事件を起こしまくってたんだ、“剣聖”と呼ばれた父さんなら、これまで何度も魔人と戦った経験があるに違いない。
「父さん……いや、師匠。俺、今以上に強くならなきゃいけないって、今回の戦いで痛感しました。またご指導よろしくお願いします!!」
「………………お、おう、任せておけ!!」
たっぷり間を置きながら、父さんがドンと胸を叩く。
そんな父さんの様子を、いつもの様に母さんがジト目で睨んでいるのをそのままに……俺は、この部屋に来てからずっと気になっていたところへ踏み込むことにした。
「ええと……シルリア、大丈夫か?」
ティルティの隣のベッドで、シルリアは布団に包まり顔を隠していた。
その割には、話している最中にチラチラと俺の様子を窺い見ていたのは気付いていたので、声をかけたのだが……。
「…………!!」
なぜか顔を赤くして、ぴゅっと布団の中に潜り込んでしまう。
これでも一応、シルリアのピンチを救った身だ、好感度が上がることはあれど、下がるなんてこれっぽっちも考えていなかったので、ここまで露骨に拒絶されると結構ショックである。
「な、なあ、シルリア。俺、何かお前に悪いことしたか……?」
「……してない」
勇気を出して問い掛けると、シルリアはひょっこりと頭を布団から出し、横に振った。
それなら、取り敢えず大丈夫か……と胸を撫で下ろしたのも束の間。
シルリアは赤くなった顔のまま、口元を布団で隠しつつ言った。
「でも、その……今は、顔見れない……ごめん」
そして、またも布団に潜って拒絶の構えに入られる。
あまりのショックにズーン、と落ち込みながら、俺は家族の下に戻った。
「俺……シルリアに嫌われた……」
何でだろう? 特別仲良くしていたわけでもないけど、ティルティと仲良くしてたのもあって普通に会話する仲だったのに。
そんな俺に、家族はなぜか揃って溜め息を吐いた。
……なんで?
「ソルド……お前はやっぱり、俺の子だな。ちょっと安心したぞ」
「そんな事で安心しないで貰えるかしら? ソルド、女の子を泣かせたら承知しませんからね」
「兄さん……兄さんは私の兄さんですからね!!」
「……????」
意味が分からず首を傾げる俺に、家族全員またしても溜め息を溢す。
いや待って、本当に、どういうことなのか誰か説明して!?
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