第7話 鍛冶屋にやって来ました
父さんと俺、そしてティルティの三人で、鍛冶屋へ向かう。
と言っても、レンジャー男爵領なんて小さな村一つだし、こんなところで鍛冶屋なんて開く酔狂な人間がいるわけがない。精々、農具の修理をしてくれる器用なお爺ちゃんくらい?
だから、剣を手に入れたければもっと大きな町に行くしかない。
「……というわけで、ここがレンジャー家が仕える大貴族、ハルトマン侯爵家の治める町、ガストだ」
「お~」
そんな紹介をされながら、家族三人馬車に揺られて辿り着いたのは、大きな港町だった。
レンジャー家の治める村より少し南側にあって、主に他国との貿易を担ってる町らしい。
すごいぶっちゃけると、レンジャー家の村がこのガストの衛星都市? っていうか、この都市を維持するための穀物なんかを生産するための村みたいなんだよね。
そして……このハルトマン侯爵家っていうのは、俺も前世の知識で名前を知っている貴族の一つだ。
何せこの家には、ノブファンの攻略対象の一人であり、ヒロインと一緒に悪役令嬢ティルティを断罪する男がいるんだから。
「とはいえまあ、今回は関わることもないか……」
「兄さん、どうかしましたか?」
「いや、何でもない。世の中こんな大都会もあるんだなぁって、ちょっと驚いてただけだよ」
誤魔化すように言ったけど、この言葉も本心ではある。
レンジャー男爵領じゃ、建物なんて俺達の住む屋敷がギリギリ二階建てなことを除けば小さな掘っ立て小屋みたいな家ばかり。
ところが、ここは整然と建ち並ぶ家一つ一つが二階建て、三階建てなんてのも当たり前で、しっかりと区画整理された道は石畳によって舗装されているため、馬車に乗っていても全然揺れない。
道行く人にも活気があり、中には魔法を使って商売をするような人もいる。
魔法使いなんて、ティルティ以外に一人も見たことなかったのになぁ……都会って金も資源も人材も何でも揃ってて強すぎるぞ。
「なら、私がレンジャー領を大都会にしてみせます!」
「ティルティが?」
「はい、たくさん勉強して、レンジャー領をいっぱい盛り立ててみせます! そうしたら、私も兄さん達のお役に立てますよね?」
ふんすっ、と鼻息を荒くしながら、ティルティがやる気を漲らせる。
……ゲームでは、「私の夢? そんなものあるわけないじゃない、私が望むのはただ一つ、あなた達の断末魔だけよ!!」なんて叫ぶ子と同一人物だなんて信じられないな。
本当に、何とか守ってあげたいもんだ。
「兄さん? 私、何か変なこと言いましたか……?」
「いや、ティルティは立派だなって感動してただけだよ。そのまま素直に育ってくれな」
「????」
首を傾げるティルティを撫でてやると、ふにゃりと笑みを浮かべて擦り寄ってくる。なんだこの可愛い生き物。
そんな感じで、父さんの存在を忘れるくらい兄妹二人で仲良く過ごしていると、やがて目的地へと辿り着いた。
「着いたぞ、ここが侯爵様から紹介を受けた鍛冶屋だ」
一目見ただけで立派と分かる外装の、如何にも貴族御用達って感じのお店だ。
中に入ると、壁一面に色んな剣が立てかけられている。
「おお〜、すげ〜」
父さんが本物の剣を振るところさえまだ見た事ないから、実の所この世界の剣を見るのはこれが初めてだ。
小ぶりなナイフみたいなやつから、俺の身長より大きな大剣みたいなやつ、キラキラと光る宝石みたいなやつから、無骨な鈍色を放つ如何にもな名剣まで、色んなのがある。
そんな店内の光景に目を奪われてきょろきょろする俺を、父さんとティルティが微笑ましそうに見つめていた。
……ちょっと恥ずかしい。
「いらっしゃいませ、どのような剣をお求めでしょうか?」
そんな風に剣を眺めていると、店員と思しき男の人が店の奥からやって来た。
ピシッとした燕尾服にも似た服に身を包み、礼儀正しく応対する様は、それこそ高級レストランのウェイターか何かと勘違いしそうだ。
如何にも頑固そうな、ドワーフみたいな職人が出てくるのかと思ってたから、ちょっと意外だ。
でもよく考えてみたら、貴族御用達の店なんだし、そりゃあ接客の時はキチッとしてるか。
「ハルトマン侯爵の紹介を受けて来たんだ、息子の剣を用意して貰おうと思ってな」
「かしこまりました。そうですね、そのくらいの年齢の方でしたら、このくらいの……」
父さんの説明を受けて、店員さんは小振りなナイフみたいなのを選ぼうとする。しかも、見た目重視であんまり剣って感じがしない。
うーん……。
「そういうのじゃなくて、もっと実戦重視の大きめで丈夫な奴がいいです」
「じ、実戦?」
「はい、思い切り振っても壊れないようなやつが」
俺が未だに《氷狼一閃》を習得出来ない理由の一つに、木剣の強度不足もあるんだよな。あんまり速く振り過ぎると、木剣の方が耐えきれずに折れてしまう。
まあ、父さんは木剣でさえ折ることなくあのレベルの剣技を披露してみせたんだから、言い訳にしかならないんだが……今は武器の性能で下駄を履いてでも、早く強くなりたい。
「ふんっ、何が実戦よ、バカバカしい」
「ん……?」
不意に、俺を罵倒する声が聞こえてきた。
目を向ければ、そこにいたのは俺と同年代か……少し歳上? の赤髪の少女。
店員さんと違って、こっちは如何にも作業中ですと言わんばかりの前掛けをして、手には小さな金槌を握っている。
そんな子が、俺を指さして思い切り叫んだ。
「どうせアンタも、剣なんてキラキラしたカッコイイお飾りくらいにしか思ってないんでしょ! だったらどんなのでも一緒じゃない、大人しくパパの言うこと聞いてなさいよ!」
「こ、こら、フレイ、お客様になんてことを……!! すみません、この子はまだ幼い子供でして、どうかお許しを……!」
「何よ、パパだって言ってたじゃない、貴族どもはどいつもこいつも、剣をアクセサリーか何かだと思ってるって!」
「フレイ!!」
おおう、いきなり目の前で親子喧嘩? が勃発してしまった。
けどそうか、この二人は本気で“剣”に向き合ってるから、戦いの道具から工芸品に成り下がった今の貴族達の剣の扱いが気に入らないわけか。
……いいじゃん、気に入った。
「俺は剣をアクセサリーなんて思ってない、家族を守るための俺の相棒……いや、“半身”だと思ってる。これから買うのは、文字通り命を預けるための武器だ、そこは勘違いしないで欲しいな」
もう敬語はいらないだろうと、俺は堂々と来店理由を告げる。
それに少しばかりびっくりした様子の親子だけど、娘さん……フレイは、負けじと言い返してきた。
「ふ、ふん……口でならなんとでも言えるわよ。そこまで言うなら、証拠見せなさいよ、証拠!」
「いいよ。ここって、剣の試し斬りが出来る場所はある?」
売り言葉に買い言葉って状態だけど、問題は無い。
まだまだ、技の一つも修められてない未熟者ではあるけど……俺がどれだけ本気で剣に向き合ってるかくらい、ひと振りで分からせてみせる。
いくら未熟者の剣だろうと、それすら出来なきゃ剣を握る資格はない。
「見せてやるよ、俺の“魔神流剣術”を」
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