第38話 魔術を弾くなんて……
影魔術についてわかったこと。
影で人の形を作れる。
影と同化し移動できる。
最初の
つまり、同時に影で操りつつ、戦うことも可能。今まで捕まえられなかったのもなんとなく理解できる。そして、拘束するのは難しいことも即座に理解した。
が、このオークションで何か目的があるのか、逃げる気配はない。
ディンは両手で魔銃を持ち、魔弾を連射。
魔壁で防御されるも、片足を上げて引き寄せ。
ルゥが前のめりになり態勢を崩したところで右手の武器を持ち替え。
雷電警棒。
一瞬で距離を詰め、それをルゥへ振り下ろす。
直撃したが、また溶けて崩れていく。
背後に気配を感じ、背中に意識を向けて反発魔術。
振り返ると、後方へよろけるルゥを確認。
両手の武器を魔銃に持ち替え。
魔弾連射。魔弾をタッチの差でかわし、ルゥはジャンプする。
宙に浮いたルゥに自然と視線が上を向く。
魔銃を狙い構えるが、シーザが叫ぶ。
「馬鹿! 正面だ」
宙にいるルゥは分身。地面から唐突に現れ、正面に立つのは本物のルゥ。
両手と視線が完全に上を向き、無防備な状態。
がら空きの腹部に強烈なルゥの突きが刺さる。
「影突き」
黒い魔力を帯びた拳は腹部にのめりこみ、本来ならあばら骨を複数折れるほどの衝撃だ。
が、ディンはぎょろりと目玉をルゥに向け、目の合ったルゥは一瞬たじろぐ。
その直後、ルゥの頭部に衝撃。ディンが魔銃でそのまま殴打した。
「ぐっ!」
ルゥは距離を取るためバックステップするも、ディンは即座に魔弾を連射。
上にジャンプしていた影の分身が本体のルゥの前に立ちはだかり、魔弾を受け止める。
魔銃で殴られた本体のルゥは、わずかに血が流れるこめかみを手で抑えながら呆然としていた。
影突きのダメージが全くなく、反撃されたことが信じられないのだろう。
「俺も役に立つもんだろ」
「シーザじゃなくて、服の方な」
まったく使いどころのない魔術に思われたシーザの変身魔術。
これを魔道具に変えたのはキクだ。
――確かにシーザの魔術は唾を吐きたくなるゴミだ。でも、軽くて物理攻撃をガードするなら、魔道具化すると面白い
そう言ってわずか二日で試作品を完成させた。もともとゼゼ魔術師団の団員は防御に優れた魔防服を着ているが、その内側にシーザのふわふわを仕込んでいた。
一定以上の衝撃で服の中にあるふわふわが膨れ上がって身体を守る。試作品段階でこれだけ質の高いものを生み出すとは、やはりキクは一流だ。
「気になってたけど、さっきからそのふわふわ何?」
「ペットみたいなも――」
言いかけたところでルゥは手に持つ閃光弾を投げた。
光が視線を遮る。
身構えるが、ルゥは後方へ走っていた。
「話してる途中に閃光弾は卑怯だぞ!」
「お前が言うの?」
天幕用ポールが並ぶ細い四階通路はぐるりと一周できるようになっている。
ディンも即座にその背中を追いつつ、魔弾を連射。
ルゥは魔壁を展開してガードしつつ、速度を落とさず走る。
ぐるりと半周したところでルゥはこちらを振り返った。
(場所の移動に何の意味が?)
そう思った瞬間、気づく。
先ほどまでは天幕用ポールが延々と並んでいたが、そこだけは日よけの天幕が張られていた。客席の一部を覆うための天幕だ。
ルゥの立つ四階通路部分にも影が落ち、そこにルゥは立っていた。
「影が多ければ、分身もその分大量に作ることができる」
そう言って、四体の分身が地面から現れ、こちらに襲いかかる。
ディンは爆炎花を投げて、一瞬で吹き飛ばす。
が、またすぐにルゥは四体の分身を出した。
クロユリとして逃げた時も四体と一人だったことをディンは思い出す。
(大量といったのはブラフ。最大でも四体までしか出せないとみた)
と即座に分析。
ディンは跳躍して襲ってくる二体を魔弾で撃墜。突っ込んでくる二体に片手で反発魔術。
近づかせず、態勢を崩したところでゆっくりと魔弾を浴びせる。瞬間、首筋に衝撃。
「重要なのは四体しか出せないと思わせること」
後ろに五体目……死角からの手刀。
普通なら意識が飛ぶ攻撃だ。
が、膨大な魔力でおおわれているユナの身体は魔壁なしでもガード力は高い。
飛びそうな意識をこらえ、態勢を崩しながらも、片手で後方の一体を引き寄せ。
頭を掴み、軸足を半回転させ、反発。
四階通路から二階の観客席まで突き落とした。
が、態勢は崩れたままで、視界がわずかに揺れている。
そこを狙い定めたかのように正面にいる本体のルゥがこちらに向かって構えていた。
ここまでの形がルゥの指し手。
「暗黒弾」
凝縮した黒い弾が一直線に向かってくる。避けれない。
――ユナは斬撃、魔術など万物を弾くことができた
ふとよぎったアランの言葉。
反射的に左手を出し、構える。
反発魔術。
手に接触した瞬間、暗黒弾が反発する。
「えっ!」
想像外だったか、構える体勢も取れず、暗黒弾がルゥに直撃。救いは同属性魔術であり、わずかながら魔力を前方に集中させて威力を殺せたことだ。
「魔術を弾くなんて……」
ルゥは膝をつきそうになるのをこらえる。が、足に力が入っていないところをディンは見逃さない。
引き寄せ。
ルゥの身体が持ち上がり一気に引っ張り上げられる。
日陰から日向へ。
目の前まで強引に引き寄せ、ディンは雷電警棒を右手に振りかぶっていた。
正に振りかぶる瞬間、ルゥが奥の手を繰り出す。
「影刺し」
長い影の針でディンの影を刺した。
「くっ!」
振りかぶる態勢でディンは固まり、動きが取れなくなる。影を刺すことで対象の動きを止める術式。といってもわずか一呼吸の時間だ。
しかし、その一呼吸分は一流との戦いでは命とりとなる。
動きの取れないディンにルゥはゼロ距離で構える。
「暗黒弾――」
射出される前に、ルゥの手を覆いそのまま身体を覆ったのは白くふわふわの塊。
あっという間に身体にまといルゥは見動きが取れなくなる。
「えっ! 何!」
「私だ! 伝説の勇者一行のシーザ様だ!」
シーザのふわふわはキングサイズのベッドまで大きくなることが可能。
激しい攻防の決着は、まったく関係のないシーザの手によりついた。
「はあ。はあ」
両手を地面について、ディンは何度も荒い呼吸をする。ルゥはシーザのふわふわに身体中覆われて完全拘束された状態だ。
「そのふわふわは魔術を使うと、自動的に首が締まるようになっている」
そんな便利機能はついていないが、とりあえずはったりをかました。
シーザはびっくりして口をあんぐり開けている。
「まさかシーザ様がおられるとは……」
「びっくりしたか? この姿になれるのはシークレットだ」
「はい。色々びっくり。ユナもこんなに強いなんて」
無表情で言葉にも感情の色がついてないが本音で語ってるように聞こえた。
呼吸が落ち着いてから、ルゥに尋ねる。
「で? ルゥはなんで魔王の血が必要なの? なんで盗賊なんてやってるの?」
「そもそもが誤解……話を聞いて欲しい」
言葉が止まったのは爆発音が中心部から聞こえたからだ。
それは最悪の事件が始まる音だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます