第21話 MPが5あがった!
7月最後の月曜日、時刻21時12分
試合は驚くべき展開を迎える。
6回の表に5点を失った横浜スターズは、7回の裏に3点、8回の裏に4点を積み重ね逆転。
一転して2点を追う立場となったトラーズだったが、9回の表に3ランホームランが飛び出し8対7と再逆転。
この大逆転劇に興奮さめやらぬグラウンド向こうのトラーズ応援席とは対照的な1塁側でコーヒーを売り歩いていた俺。
無気力状態で下を向く横浜スターズファンから一向に声がかからず、一息つこうと移動した通路の隅で手にしたスマホの『メッセージ:1件』という表示に気付き、そっと『再生ボタン』を押す。
『もしもし、
あいも変わらず主語のない
ただ、『とんでもないこと』のせいか、メッセージの声には焦りが感じられる。
「今度は何が起こったんだ……」
俺は再び休憩所に向かった。
◇
『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた扉の横にある機械に、自分のセキュリティーカードをかざし『ピッ』という音と共にノアノブを回す。
本日3回目の訪問となる休憩所という名の会議室前通路。
入口には門番のようにボールを手にこちらをにらむ茉依。
そして、その少し後ろには、またもや壁を背中につけ、
「俺だ。だから、にらむのは止めてくれ。怖いぞ」
「早馬……、もっと早く来なさいよ。待ってる方は気が気じゃなかったんだから!」
少し怒った表情を浮かべた後、すぐに顔を
「『気が気じゃなかった』だなんて、それも『とんでもないこと』が起こったからなのか?」
「そうよ、居ても立っても居られないほどの『とんでもないこと』が発生したの。何が起こったのかは見てもらった方が早いわね。オフェーリアちゃん、恥ずかしいと思うけど立ち上がって早馬に見せてくれる?」
「はい……茉依さん。早馬さん、何度も急に呼び出してしまってごめんなさい」
申し訳なさそうな顔でゆっくりと立ち上がり、こちらを向くオフェーリア。
「早馬、見ての通りオフェーリアちゃんに『とんでもないこと』が発生したの。あんたなら言わなくても分かるわよね。何が起こったのか……」
その姿を見た瞬間、俺の全身に
「この、まごうごとなく
「さすが早馬。またも
確かにケアされているらしく、オフェーリアが着る著しく胸が大きく
聞こえないよう心の中で『ガッデム』とつぶやいた俺は、さっそく
「しかし……、なぜ再びノーブラに?」
「すいません、急にレベルアップして魔力の上限が増えてしまったんです。そうしたら、さっき買ってきていただいた下着でも入らなくなってしまいまして……」
「れ、レベルアップ!?」
「まさか、今日レベルアップするとは……なんか、すいません」
腕を組み、照れくさそうに話すオフェーリア。
組んだ腕の上には、二つの立派なお胸がずっしりと乗っかっている。
「事情は理解したが……急にレベルアップするなんて
「はい……。さっきまでトラーズ応援席でビールを売ってたんですが、お客様に買って頂いた直後にトラーズの選手がまた打ったんです。それを見ていた他の方が『やっぱ、勝利の女神であるお姉さんからビール
ポーズを変えず俺の質問に答えるオフェーリア。
俺の視線も変わらず増量されたお胸にくぎ付けだ。
「その後、トラーズ応援席全体が急に『わっしょいわっしょい』と大きな声で歌いはじめたので
「早馬、
『
「とりあえず状況は分かった。で、俺は何を?」
「早馬、ミッションよ。もう一度、駅前のショッピングセンターに行ってオフェーリアちゃんのブラジャー買ってきなさい」
「え、また俺が、か?」
「そう、またあんたが、よ。あたりまえじゃない。ザリガニが大きくなってロブスターになったとしても
脱皮したてのロブスター……。
ザリガニと違って触ったことがないけど、ロブスターだって脱皮したてはきっとヨワヨワなのだろう。
「わかった。しょうがない俺が行こう。じゃあ、オフェーリア、また
「お願いします」
正面と、横から『狩り』を行いサイズを測る。
それにしても、本人同意の上で一日に3回も『おっぱい狩り』ができるとは、なんてウルトラハッピーデーなのだろう。
これで、ラッキーアイテムがブラジャーなら、俺の今日の
下着と一緒にロト7でも買ってしまおうか。
「
「はい、すぐにはレベルアップしないと思います」
「じゃあ早馬、頼んだわよ。ミッションスタート!」
俺はオフェーリアのロブスターを
◇
7月最後の月曜日、時刻21時32分
「今戻ったぞ!!」
本日4回目の休憩所。
通路入口そばには、またもボールを手にこちらをにらむ茉依。
そして、その少し後ろにはオフェーリアが壁を背中につけ、ノーブラな胸を隠すように膝を深く抱え体育座りしている。
「早馬、早かったじゃない」
来所者が俺である事を確認した茉依は表情を通常時に戻し、握りしめたボールをウエストポーチにしまう。
「ちゃんと合うサイズあったのね。大きいサイズだから店頭に在庫があるか心配だったのよ」
俺の手元の紙袋を見て、ほっと一安心といった表情を浮かべる茉依。
「ああ、俺が『ブラジャーをください!』と言ったら、店員が『またですか?』って顔してたけど、ちゃんと対応してくれたぞ。ただ、購入サイズを伝えたらさっき以上に気になったらしく『今度はどなたが使用されるのですか?』って言うので、しょうがないから『祖母のです』って答えたら『本当ですか?垂れてないんですか!?』って。でも、すぐ売ってくれたよ」
俺の『ザ・ノンフィクション(大型ブラジャー購入編)』話を苦笑いしながら聞く茉依とオフェーリア。
「じゃあ、これから
俺の手から紙袋を
『ステイ!』って、やはり犬扱いだ。
鉄製の真っ白な扉をひたすら眺めていると、紙袋の開く音、商品袋を
完全に犬だ。
「早馬さん、ありがとうございます。買ってきていただいた下着、またもやぴったりでした!本当にすごいです。
お胸を引く重力と、脱皮したてのロブスター状態から脱し、目を
ちなみに、この能力に感無量と言ってくれる女性が現れたことに俺も感無量だ。
「そうか、それは良かった。今ここでオフェーリアの確認ができたってことは、あとはもう試合終了後に集合すればいいよな?」
「そうね、試合が終了したら集合して、一緒に帰りましょう」
茉依の提案にうなづく俺と、オフェーリア。
「了解だ。じゃあ、俺は最後のひと
俺は茉依とオフェーリアに手を振りながら、休憩所を後にした。
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