ブラッククリスマス

夏空蝉丸

第1話

 これは、私が子供の頃、もう、十年以上前の話だ。私の世界は黒く塗りつぶされていて平らだった。


 うちは、自称中流家庭で金がなかった。正月も誕生日も祝うことが無かった。テレビで、「制服なんていらない。自由に服を選ばせろ」とか偉そうに言っている高校生を見て、こいつら毎日同じ服を着るしかない人間の気持ちなんか理解できないんだな。って思った。


 そんな家庭環境なのに、クリスマスだけは祝うことになっていた。何故なら、父がクリスチャンだったからだ。

 貧乏な父が困窮していた時、助けられた。その時以降、クリスチャンになった父だが、教会に行ったことなど一回もなかった。時折、食事の時に神に祈るだけ。だが、それも三日坊主。というか、思い立ったが吉日程度の信仰心だった。


 だから、そんな父がクリスマスだけ祝う。のが不思議だった。何故か、その日だけはいつもより食事が豪華だった。ケーキはないけれども、チキンはあった。シャンパンは無かったけど、コーラは出してくれた。夜中に寝ているうちにクリスマスプレゼントが置いてあった。


 疑問に思うこともあった。クリスマスを祝うのはおかしい。そう言いたくなったこともあった。だが、そんな余計なことを言うほど頭が悪くはなかった。だって、クリスマスが無くなったらプレゼントが貰えないじゃないか。一年に一回の楽しい日を自ら放棄する気なんか無かった。


 毎年、クリスマスが近づくにつれ、心がウキウキしていた。何をもらおうか。それで心がいっぱいになるのだ。だが、ある年、父が俺と姉に向かって言った。


「今年はブラッククリスマスだ」


 意味がわからなかった。ホワイトクリスマスってのは聞いたことがある。だが、ブラッククリスマスなんて聞いたことがない。でも、プレゼントが貰えればどうでもいいや。そう思っていたが、その次の言葉に俺と姉はがっくりと肩を落とす。


「今年は景気が悪いからプレゼントは無いからな」


 父は寂しそうに言った。

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