第27話処刑場に殴り込むアサシン中編

(………ここか)


場所は、エリーニュス侯爵がかつて築いた城。その跡地。

所有者がいなくなって打ち捨てられたその場所は、廃城となって久しい。


(……いるな。……ヴール伯爵の親衛隊員ってやつか)


この場所には、直ぐに辿り着くことができた。……ノエルのお陰だ。

彼女がくれた指輪。

自身の魔力を注いだ指輪のお陰で、魔力探知スキルで場所を割り出せた。もしこれがなかったら、時間が掛かっていただろう。

……肌身離さず持っていて、正解だった。


(数は……4人か。あと6人ほどが大扉の周辺にいるな)


索敵スキルを使い、周辺にいる敵の数を確認する。

戦力はさっき殴り飛ばした親衛隊員たちと同程度だとは思うが……頭を冷やして落ち着いていこう。


(スキル発動……《背教者のステップⅣ》……!)


魔力の消費を抑えるために、透明化スキルは使わずアサシンのジョブスキルを使用した。

効果は、自身から出る音を完全に消すというものだ。それ以上の効果はないが、その分魔力消費も少ない。


幸い、廃城の跡地は樹木が生い茂り、一種の森のようになっている。

透明化せずとも、紛れながら進めばいい。

木々の間に隠れ、枝葉の上に飛び乗りながら進む。


(枝葉が揺れるのにも気づかないか。……あるのは腕っぷしだけで、それ以外は疎かと見える)


あるいは余裕から来る傲慢さ故に、周りに気がつ無いかだ。

……飼い犬は飼い主に似るという。

ヴール伯爵も、高が知れる。


(仕留めるか。カイたちを連れ帰る時、邪魔になるしな)


正面から制圧することはできる。

だが、纏っている鎧も気になる。

装飾と内包している魔力の量からするに、王国所蔵級以上だろう。


それを、10人分。

どうやって用意したのだ……?

この王国にある遺跡や神殿跡地は、ほとんど掘り尽くされている。

ダンジョンの深部にでも潜らない限り、見つけることは難しい。


(投げナイフを投げて、撹乱して……ん?)


「それで? なぜお前は親衛隊に?」


「あ? ははは、ムシケラを何匹かな」


「殺したのか?」


「いやぁ? 燃やして駆除しただけだぜ!」


「はっはっは! 駆除か! そいつぁいい!」


2人の親衛隊員が、談笑を始める。

その談笑に、やがてここを見回っている他の2人も参加する。

……俺は耳を傾けて、その内容を聞く。


「お前の方はどうなんだよ」

「私か? 私は魔道士でね。少しばかり過激な魔法の実験でネズミを死なせてしまったのさ」

「へっ! テメェらなんざくだらねぇな。……俺はな……ガキを。つっても、行きずりの女が勝手に産みやがったガキでな?」

「ガキを殺したのか! すげぇな!」

「へへっ、ダンジョンに置き去りにしてやったのさ。ガキを殺したのはモンスターさ! ぎゃはは!」

「おいおい!? ガキなんか食わしたら、モンスターが腹壊すじゃねぇか!! わははなは!」


親衛隊員たちが笑う。

大笑いしながら、自身の“武勇伝”を語っている。……なるほどな。

口ぶりからするに……殺人や重犯罪を犯した騎士階級たちであったか。

無罪放免にする代わりに、親衛隊として取り立てたと。


「まったく、伯爵様々だぜ。領地も残してもらえたしな」

「ふふふ、私は実験を許可状まで頂けた。これで魔道を極められる……!」

「人殺して逆に出世ってな!」

「ばっか、親衛隊として“飼われてる”んだから出世じゃねぇだろ」

「ぎゃははは! 伯爵様の犬だぜ!? 最高の犬さ!!」


お前たちの言っていることが、すべて妄言なのか真実なのか。

俺には判断のしようがない。

だが、人を殺めたと“宣言”した。


なら、遠慮はしない。

命は奪わないが、二度と悪事を働けなくしてやる。


「な、投げナイフ!? 敵か!? まさか、アルマとかいうやつか!?」


投げナイフを一本取り出して、奴らの足元に投げる。


「どこだ!? どこにいる!? 姿を見せない、薄ぎたない暗殺者がぁっ!!」


……暗殺者なんだから、コソコソやるに決まってるだろう?


親衛隊員の魔道士は、魔法スキルを発動させようとしている。

……全員その場に固まり、迎撃姿勢だ。4人の影法師は、重なり合っている。


(暗殺/拷問スキル発動。……《シェオルの拷影Ⅳ》、自己弱体スキル発動……《慈悲の手心Ⅳ》)


読み通りだ。

姿を見せない相手に対しては、正しい反応。その辺りはよく訓練されている。


「なっ!? か、影から手が!? ば、化け物か……うぁぁぁぁぁぁぁあ!?」


影を通して親衛隊員たちの間に入り、剣を携えいた3人を影の中に引きずり込む。

影の中にいる限り死にはしない。

丸一日その中にいろ。日数は減らしてやった。

何も無く、誰も居ない……全身を蟲が這うような感触しか感じられない真っ暗闇の中でな。


「ひっ……ひぃぃぃ!? ま、魔法スキル発ぉぼぐぉ…………ぎっ!?」


魔道士のワンドを片手で圧し折り、空いたもう片方で顎を抑え締め上げる。


「大した魔力量だな、魔道士。よく魔力を鍛えた」


「ぶぁ……ぁふぁ……ふぇっ……!」


「暗殺/拷問スキル発動。《ギンピー・マジックⅣ》」


魔道士を離してやる。踵を返して、大扉の方に向かう。

この場所はもう制圧し終わった。

……後は、残りの6人を始末するだけだ。そうしたらイルム。


お前には色々と問い質さなくてはならん。


「ぶぅぉっ……ぎっ……ふ、ふんっ! 馬鹿がっ!! ワンドが無くては魔法スキルとが撃てぬと思ったのか!? 魔法スキル発動ぉっ!!  《火爆龍の轟炎渦Ⅳ》っ!! 死ねぇっ!!」


「…………」


背後で魔力が逆巻いたが、振り返る必要はない。

お前は二度と魔法スキルを使えない。……いや、魔法スキルそのものは使える。


「喰らえ………ぇっ……ぇぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? 痛ぎぃいぃぃ……!?」


(………調子に乗って高位の魔法スキルなど使うからだ。………しばらくのたうち回っていろ)


俺が魔道士に使ったのは、暗殺者が用いる拷問スキルの一つ。応用することで、毒殺に見せかけて他者を殺すことも可能なものだ。

……スキル名は《ギンピー・マジックⅣ》。

相手の魔力に『棘』を付与する。

魔法スキルを。……魔力を使った量が多いほど、全身に激痛が走るのだ。


「ぎぇ……ぁぁぁぉ………がぁあぁぁぁぁあ………だ、だずげ………」


ちらと後ろを振り返った。


「そのうち引く。我慢しろ」


俺が言ってやれるのは、それだけだ。

……そこで反省していろ。



大扉の前に辿り着いた。

端的に言うと、俺は“イライラ”していた。……学の無い俺が知っている言葉で表すなら、この一言だ。

苛立ち、とか。

ムカつき、とか。

そんか言葉とはかけ離れて、個人的な怒りがドロドロと煮詰まっている。


「むっ!? なんだ貴様は!!」

「侵入者だと?」

「イルム様が言っていた、アルマ・アルザラットではないか?」

「だとすれば、迎えに行かせた奴らは?」

「俺が知るか! おい、貴様! 名を名乗れ!」

「ふんっ! アルマとやらであるならそれど良し。そうでなければ……剣の試し斬りに使うまでよ」


感覚強化スキルで捉えた音があった。

……大扉の向こう側から、響く悲鳴。人の身体を蹴るブーツの音。

耳障りな嘲笑。

……カイの悔しげな声。

ノエルの啜り泣き。

リリアの怯えた嗚咽。

ホノの苦しげな呻き。

ヴラムの爺さんとダタラの歯ぎしり。

………俺をイライラさせるには、十分過ぎた。


「………」


持っていた武器をすべて捨てる。


「なんだぁ? 投げナイフを捨てた?」

「頭がおかしいのか」

「おいおい、短剣も何も武器を全部捨てやがったぞ」

「何をしているんだ?」

「何でもいい! 一番槍は俺だぁ!!」

「おい、待て! イルム様の獲物だぞ!?」


「ふははは! イルム様と剣を交わすに足るか確かめてやーーー」


「ーーー!!」


振り下ろされた剣を、横薙ぎの拳で叩き折った。親衛隊員の後頭部に手を回して、膝蹴りを顔面に叩き込む。頭蓋をぶち砕く勢いで叩き込んだが、顔面が変形するくらいで済ませてやる。


貴様ら下衆の命など、“奪う価値“もない。

武器は捨て置く。……引き抜いたら、殺しかねない。


「なっ……!? 攻撃の動きが見えなかった……!?」

「イルム様が言ってたろう! 奴は卑劣なイカサマを使うとな……!」

「貴様ぁっ!! 我ら騎士階級にぃ! 許せぬぅっ!!」

「お前たち!? ……ちぃっ、イルム様に罰されても知らんぞ……!」

「愚民ごときに舐められるくらいなら、罰された方がマシだぁっ!!」


鎧の効果で自己回復すること等は、先ほど壊した鎧の破片を調べて識っている。

……その程度の能力しかないのなら、申し訳ないが俺の敵ではない。


敵と認識してやる価値もないのだ。


「ぐわぁっ………!? は、離ーーー」


飛び掛かってきた親衛隊員たち。

その一人の頭を掴み、地面に叩き付けた。頭蓋を揺らし、脳を揺らす。

意識を飛ばしてやった。


「我は槍のーーー!! うわぁっ……!?」


「槍の……なんだよ?」


「ぎっ……!?」


くだらねぇ前口上なんざ聞いていられるか。

槍の鋒を掌で抑えて、そのまま握り壊した。薄手の手袋でしか覆っていない俺の手を。……刺し貫くことすらできねぇのかお前は。


「背後ががら空き……ぐゔぉぁっ………!?」


がら空きだから何だってんだよ……?

わざわざ言わないと攻撃もできねぇのか。後ろに肘打ちを食らわせる。

怯んだところを、そのまま掴んで投げ飛ばした。


「に、逃げろ!!」

「大扉!! 早く開……ひぃっ!?」


「どこ行く気だ?」


残り2人。

掴んで引き摺り回して叩きつける。


(許せない)


カイたちが痛めつけられたこと。

ヴラムの爺さんとダタラを巻き込んだこと。どれも俺をイライラさせるが。


「ーーーーっ!!」


何よりもイライラさせて、許せないのは。


「し、親衛隊員……!? な、なんだ!? 誰に投げ飛ばされ……」


カイを。

ノエルを。

リリアを。

ホノを。


「ーーーイルム」


俺を信頼して、“師匠”と慕ってくれた皆を。


「ひっ…………ぁぁ……!?」


お使いなんかに行かせて、こんな目に合わせてしまった自分がっ……!!


「質問に答えろ」


ーーー許せない。


「ーーーお前、皆に何をした?」


なぁ、イルム、ディルハム、ケティ。

……お前たち、五体満足で帰れると思うなよ?

両脚と両腕。失うならどっちがいいか、選ばせてやる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る