第11話三馬鹿は親の脛を齧るようです

場所は王国の南。

海原に面した地方にある、

この俺、イルム・ヴールの父バラム・ヴールの治める領地にて。


「……と、言うことなんだよ父上っ!!」


「そうなんですよぉ、アイツ平民のクセにアルザラットなんか名乗って!」


「おじさまぁ……! ねぇーなんとかしてくださらなぃ?」


俺はあのいけ好かない平民風情であるアルマ・アルザラットの横暴を、父上に報告していた。


「俺たち3人が負けるわけないんだよ! あの野郎、イカサマか何かしたに決まってる!」


父上から送って頂い装備は、どれも王国所蔵級のモノばかりだった。

それを使ってなお勝てないなど、間違いなく姑息な手を使ったに違いない。


(アサシンの制約だが何だか知らないが……レベルは俺達のが上の筈だ。

途中までアイツは防戦一方だったし)


隠し持っていたアイテムを使ったか、観客の誰かに金を払ってコソコソと身体強化スキルを重ねさせていたのだきっと。


(アルマにできることは、俺もディルハムもアイテムを使えば簡単に再現できる……! イカサマだ! イカサマをしたに決まってるんだ!!)


……ただし、使うのは調合の難しい高級アイテムだ。父上の財力を持ってすれば湯水のように買えるから問題ないがな。

となると……奴は何らかの方法で……。

きっと薄汚い手段を使って手に入れたそれらを使い、イカサマをしたのだろう。


「おぉ、おぉ! 可哀想になイルム、ディルハム、ケティ! そんなけしからん平民が……いや、ムシケラがいるのか!」


「そうなんですよぉ! しかもアイツ、イルムのこと蹴っ飛ばしたんすよ? 貴族を足で蹴るなんて!」


今思い出しても腹が立つ。

衆目の前で俺に恥をかかせただけでなく、足で俺を蹴りやがった。

貴族の子息……!

それも、国王陛下から厚い信頼を受ける大伯爵たるバラム・ヴールの息子である俺をだぞ?


「なんだと!? えぇい、我が領内にそのような愚図がいるとは! 手討ちにしてくれる!!」


ふふふ……奴は思い知らねばならない。いったい誰に恥をかかせ、誰を怒らせたのかをな。

しかもだ!


奴が蹴りを入れたのは、王国所蔵級! 貴族の持ち物を傷つけただけでなく、国王陛下の顔に泥を塗るも同然ではないか!


「父上、なんとかしてくれよ。『掃滅戦』で手練れの冒険者たちが死んだ今、王国の希望である勇者パーティは俺たちなんだぜ?」


父上が、うむ!と大きく頷く。

やはり俺たちこそが勇者なのだ。


「さっそく親衛隊を率いて討ってくれよ」


「まぁ、まてイルム。親衛隊は出す。出すが……まずはゆっくりと嬲ってやるのも一興ではないか?」


流石は父上だ。

……たしかに、親衛隊共をけしかけて殺すのは簡単だろう。

だが、嬲り殺しにするほうがもっと爽快だ。晒し上げて、貴族に逆らう阿呆がどうなるか知らしめてやる!


「いいっすね! 俺も賛成ぇ!」


「さすがはおじさま!」


「では彼奴めを嬲る計画を立てねばな……。お前達、下がるがいい」


待っていろ、アルマ・アルザラット。貴様の命もこれまでだ。



「……えぇい、またアルザラットか……!!」


国王陛下が最も重用し、並の侯爵家では太刀打ち叶わぬこの大伯爵たるバラム・ヴールは、苛立っていた。


“アルザラット”の名を聞いただけでなく、忌々しいアサシンというジョブが途絶えていなかったことに、怒りを覚えずにはいられないのだ。


(アルマ・アルザラット……『掃滅戦』の死に損ないめ!)


『掃滅戦』を生き延びた後、しばし奴は姿を消していた。

他の生き延びた冒険者ともども、故郷で隠遁しているものと思い捨て置いたのがまずかったな。見つけ出して殺しておけばよかった。


(……ちぃっ……過ぎたことを悔やんでも仕方あるまいか。問題は……彼奴をどう殺すかだ)


愚息の話を聞くに、どうにも彼奴めは手品師まがいのことができるらしい。

決闘の際に姑息な方法を使ったのだろう。


(………だがまぁ……まだ脅威ではあるまい。どうせ彼奴めは第12階層には降りられぬ)


彼奴のレベルは少なく見積もってもレベル50。大げさに見積もればレベル60と少しが関の山だろう。


(我が計画……露呈するのはまずい。

万が一に備えて、第12階層の警備を増やすか。……イルムたちにくれてやった装備の“模倣レベル”も上げねばならん)


「バラム様、失礼いたします」

「失礼いたします」

「バラム様、ご機嫌いかがでしょうか……」


ノック音の後、我がヴール家専属の術師たちが入ってくる。

……今の儂は機嫌が悪い。吉報でなければ許さぬぞ。

一族郎党皆殺しにしてやる。


「なんだ!!」


「は……はっ……! 計画の経過報告に参りました。〈偽神武具〉の精度向上は順調に進んでおります。ですが、〈ダンジョン・マスター計画〉はーーー」


“精度向上は順調”。

その言葉を聞いて、近くにあった灰皿を儂は掴む。掴み、無能共に投げつけた。


「精度向上は順調だと!? 貴様ら打ち首にしてやろうか!!」


「ひ……ひぃっ………!?」


「たかだか一匹の薄汚い冒険者に負けたのだぞイルムたちは!! それで精度向上は順調!? ……もういい、貴様ら全員死刑だ。替えはきく!! おい!! 親衛隊!!」


「そ、そんな!? お待ち下さいバラム様!!」

「お、お許しください!!」

「い、嫌だ!! 死にたくないっ……!! 助けて……!!」


親衛隊たちを呼び、連れて行かせた。一族諸共死罪だ。

人材などいくらでも替えがきく。


「……ふんっ!」


……〈偽神武具〉。

この儂が秘密裏に主導している、巨万の富をもたらすと共に、強力な軍事力を生みだすビジネスだ。

ダンジョンがもたらす莫大な利益に加え、このビジネスが成功すれば……この王国において儂に勝る者はいなくなる。


「バラム様、術師たちの処分完了いたしました」


「うむ。いつも通りに処理しろ」


「はっ。ダンジョン内での調査中に不慮の事故、ですね」


………7年前。

『掃滅戦』の初期に死に損ない共が持ち帰ったダンジョンアイテムの中に、王国所蔵級の武具を越えるものが幾つもあった。

既存の武具を遥かに超える、神々の武具が如き逸品が。

……儂はそれらを幾らか盗み出し、秘密裏に保管しておいたのだ。


(イルム……あの愚か者は精度を高めるための試験役としては最適だ。死ぬならそれで構わん。子など幾らでも作れる)


それらをこの7年もの間、持てる権力の全てと金を費やして集めた術師たちや、賢者たちを駆使して解析してきた。

この世にある魔道技術のすべてを用いたのだ!!


そしてついに。

王国所蔵級に匹敵する能力を持った武具として複製・量産できた。

……まだ完全な複製とはいえないが、既に各国に秘密裏に流している。


(ダンジョン・マスター計画も成功させられれば……ついに我が野望が叶う!!)


この王国の転覆!

貴族? 伯爵の地位?

そんなもので満足する儂ではない!

全てを手に入れる。

そのために邪魔者は全て消してきた。

……アルマ・アルザラットよ。

忌々しい“アルザラット”の名を騙る愚か者め。このバラム・ヴールに邪魔立てするなら、貴様も消してやる!


(我が親衛隊は皆レベル40を超える精鋭! それに〈偽神武具〉を持たせれば……レベル50以上に匹敵する。貴様をパーティメンバーと分断して、嬲り殺してやるわ!)


ふくくく……パーティメンバーと分断され、一人孤立してじわじわと嬲られる……これほど恐ろしいこともあるまい!

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