炭鉱の街の、そして銭湯の看板娘・佳代子

7月12日、金曜日。この日も朝に鉄雄と佳代子は外出して、佳代子は銭湯に、鉄雄はそのまま炭鉱の仕事場に向かった。




「おはようございます!」




銭湯に着いた佳代子は、女将と男性に声をかけた。





「おう!おはよう!今日も宜しくな!」




男性が挨拶を返した後、女将が。




「あら!佳代子ちゃん、もうここの空気に慣れてきたようだね!」




「はい!もうだいぶ慣れてきたようです!・・・」




そう言った後、佳代子は番頭を男性と替わった。





「まあ!申し送りは無いわ、昨日と同じようにしてくれればいいさ!・・・じゃ!ワシはちょっと組合の用事で、行ってくるわ!・・・佳代子ちゃん、後宜しくな!」




そう言うと、佳代子と女将は・・・・




「行ってらっしゃい!」と・・・




それからしばらくして、夜勤明けの若い鉱夫達が風呂に入りに来た。




「佳代子ちゃん、おはよう!」




数人の鉱夫達は、佳代子に声をかけ、作業着を脱いで、風呂に入っていった、しかし、一人の若い鉱夫は、佳代子に近付いて・・・




「よ・・佳子ちやん・・・あっ!いや!か・・か・・佳代子さん、僕とお付き合いしてくれませんか?」




「えっ!・・ええっ!?」




その言葉に佳代子はタジタジに・・・そこに後ろから女将が・・・・




「コラ!・・・馬鹿なこと言うんじゃないよ、佳代子ちゃん怯えているだろ!この子は佳子ちゃんと違うんだから、あんたなんかと!・・・か・・・佳代子ちゃん、気にしなくていいからね、聞き流しておくんだよ!」




「い・・いや!俺は本気だよ!佳代子さん、どうか・・・」





「いいから!さっさと風呂入って、早く帰って寝な!・・・あっ!あんたは、今日、明け休みか?・・・とにかく、今の佳代子ちゃんはそれどころじゃないんだから、この子に手ぇ出すと私が許さないわよ!」




佳代子もタジタジしていたが、その反面、鉱夫の街の人達って、一つの家族のような繋がりがあるんだな・・・とも思ったりした。




その後も、若い鉱夫達が次から次へと、入浴して、佳代子に声をかけて去っていった。





そして、昼過ぎに、銭湯を閉め、掃除にかかり、女将は、途中抜け出して、昼食の支度を始めた・・・




「いただきまーす!」



「佳代子ちゃん、今日の事、気にしないでね・・・ホントに、若いもんは、佳代子ちゃんに、目くらんで・・・・」




それを聞いていた男性は。





「ハハハハハ・・・まあ!無理もないさ、死んだ佳子ちゃんも、若いもんに、かなり人気だったからな、佳代子ちゃんが来たときやあ!みんな大騒ぎだったからなあ!・・・佳子ちゃんは、この炭鉱の街の看板娘だったからなあ!」




「んっ!・・・もう!いやだよ、・・・ねえ!佳代子ちゃん・・・あっ!そうだ、これ、あなたが来たときの妙な衣装、軽く洗っておいたからね!」




「えっ!あっ!ありがとうございます!」




佳代子は、女将から、洋服の入った風呂敷を受け取った。




「ホントに、薄過ぎて、破れるんじゃないか?と思ったわ、あなたの時代の衣装って不思議ね!・・・薄くても丈夫なんだから・・・何の生地なの?」




「あっ!木綿だと思います!」




「へぇ!木綿にしては、ちょっと触感が違うわね!未来の衣装ってやっぱり不思議ね!・・ああ!佳代子ちゃんが今着てる着物、汗臭く無い?よかったら、洗濯してあげるから、その妙な衣装の方が着やすいんじゃないの?・・・別に着物でなくても良いわよ、あなたの着やすいので良いから!」




「あっ!はい!ありがとうございます、今日1日着物で、明日、この服を着ます!」




佳代子は、着ていた着物の臭いを嗅いで、女将に言った。




・・・その日の番頭も終わり報酬を貰い、佳代子は、また、炭鉱の方に向かった。




「おい!佳代子さんか?鉄雄はまだ仕事中だからな、どうだい?少し、この中を見てみるか?」



「えっ!?」




親方の言葉に、佳代子はやや驚いた、そしてすぐ側にいた作業員が・・・。



「親方、大丈夫っすか?佳代子ちゃんを、中に入れて!」




「なーに!心配するな。俺が付いているから、危ないとこまでは行かせねえよ。・・・まあ!佳代子さん、付いてきな!」



佳代子は、親方について行った。目の前でトロッコが走り回る。




「気を付けな!これで残土を運んで、あのぼた山に、捨てに行くんだよ!」




「は・・はあ!」




「まあ!慌ただしく動いているからな、危ない場所ばかりだ!」



「はあ!・・・」




二人は、抗口の手前まで来た。




「おっと!佳代子さん、ここまでだ、この先は危ないから、案内はここまでだな!・・・まあ!この田川の炭鉱はな、比較的安全な方だよ、だいぶ前に、小さな爆発があったが、死者はでなかったからな!不幸中の幸いって感じだったよ!」




「あっ!鉄雄さんから聞きました!・・・けが人だけだったと!」





「そ・・・そうか?・・まあ!石炭しか採れねえからな!・・・どっかの遠い鉱山で、たしか銅が採れるって聞いたことあるべ、羨ましいよ、ただな、聞いた話だと、毒物が川に流れてな、えらいことになったことを聞いたことあるな、そりゃ悲惨だったみたいだ!」




「あっ!それって!足尾銅山のことかも、教科書に載っていたの見たことある!・・」





佳代子は、学校の歴史の授業で栃木の足尾銅山の鋐毒事件のことを聞いたことが有った。




その後は、事務所に行き、一息入れた。




「鉄雄さんは、まだお仕事ですか?」



事務の女性に聞いた。




「そうね!まだまだ終わらないみたいよ!、昨日と一緒で、先に帰った方が良いわね!」



女性にそう言われると・・・




「あっ!は・・はい!そうした方が良いかもしれませんね・・・あっ!明日は土曜日ですよね?・・・鉄雄さんは、明日も?」



「ええ!鉄は、月曜日が休みなの!明日も明後日も、仕事だからね!佳代子さんも頑張ってね!」




「あっ!はい!・・・それじゃ、失礼します!」





「はーい!おつかれさま!・・・ホント、佳代子さん礼儀が良いわね・・・それじゃ、また明日ね!」




そう言われると、佳代子はこの日も、先に帰宅した。

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