銭湯での一時(ひととき)

その日の昼過ぎ・・・女将は・・・




「やっと!お客さん全員帰られたわ!・・・それじゃあ、一旦閉めて、掃除をしましょうか?・・・佳代子ちゃん、手伝ってくれる?」




「あっ!は・・はい!」




そして、暖簾を外して閉め、風呂掃除が始まった。




佳代子は、やや大きめの束子で床を掃除、女将と男性は、お湯の入れ換えなどしていた。




約1時間かかって掃除は終わり・・・。




「佳代子ちゃん!お疲れ様。ちょっと遅くなったけど、お昼に・・・」




「は・・はい!」





女将は、掃除が終わる30分程前に抜け出して、昼食の準備にかかっていた。





昼食は、麦ご飯に味噌汁、魚の塩焼きに高菜等だった。




「佳代子ちゃん、ゴメンね、粗末な物ばかりで、・・・炭鉱のご飯って、まあ!こんなものなんだけどね!・・・佳代子ちゃんの時代は、もっと豪華で美味しそうなんでしょ?」




「あっ!いえ!、とんでもないです・・・今の方が美味しそうです、いつも油っ濃い物や、防腐剤など入った物ばかりで、・・・まだ此方の方が、美味しいと思います・・・あっ!いただきます!」




「ぼ・・・ぼうふざい?何だべ、それ!」





「あっ!食べ物が腐らないように、長持ち出来るようにするための・・・薬みたいなものです!」





「ヒャー!食べ物に薬なんか入っているのかい、腐らないように・・だって?・・何か、おっかないわね。・・・・後、普段何を食べているんだい?」




女将は驚いた後、再び佳代子に聞いた。




「ハンバーグとか、・・・スパゲティー、あと、カレー・・・ピザ、焼飯、餃子なんかが多いですね・・・」




佳代子が答えたが・・・




「う~ん!何かよく分からないよ!ほとんど、外国の食べもんじゃね!・・えっ?・・・ぴ・・・ピザ???、何だい?それ!」



「あっ!スミマセン、分からないものばかりで・・・あ・・後、すき焼きなんかも・・・」





「ああ!すき焼きは聞いたことあるわ!牛肉や野菜、豆腐など入れて、炊いて食べるんでしょう?・・・でも、なんですき焼きって言うのかしらね?」




それを聞いていた男性は・・・




「すき焼きってのは、畑仕事で使う[鋤]って道具があるだろう・・・農家の人たちゃあ、その鋤の上で、牛肉など焼いて食ってたんだよ・・・畑仕事の合間でも、手軽に食えるようにと、鋤を食器代わりにしていたんだとよ!・・・まあ!俺たちゃあ、なかなか食えねえ代物だろうよ、佳代子さんの時代には、手軽に食えるとは、良い時代になってんだな、羨ましいよ!」




「へえ!、それで鋤焼きなのね、佳代子ちゃん、知っていた?」




「あっ!いえ、全く知らなくて、好きなものを焼くのかと・・・!、私の時代は、牛肉が好きな人がかなり居ましたから・・・。」




「いいわね!あなたの時代には、もう牛肉が沢山食べれるんだね!・・・アー!私も佳代子ちゃんの時代に産まれたかったわ!」





いろんな話をしながら昼食を摂り終えた、そして、食器などを洗い終えたのち。・・・






「佳代子ちゃん、今日はもう上がって良いわよ。これ、今日の報酬ね・・・お疲れ様。」



女将は、僅かながらの紙幣を佳代子に持たせた。





「はい!、ありがとうございます・・・お疲れ様です!」




その後、佳代子は鉄雄の仕事場に行った。




炭鉱場に向かった佳代子、もう、臭いに慣れたのだろうか?やや、平気な顔になっていた。





「失礼します!」





事務所にはいると。




「あらっ!佳子ちゃ・・・じゃなくて!佳代子ちゃん、今まで番頭をやっていたんだってね!」




事務の女性が声をかけてきた。




「佳代子ちゃん、その顔は、もうこの街に慣れてきたようだね!」





「は・・はい!お陰さまで。・・・でも、まだ、自分が未来から、ここに来てしまった事が信じられないですが、この街も良いとこですね!」





しばらくして、鉄雄が事務所に入ってきた。どうやら、書類の提出、そして、一服するためだった、まだまだ仕事は終わらなさそうだった。




「おう!佳代子さん、来てたのか?ああ!まだ上がるまで時間がかかりそうだよ!・・・だから、先に帰っておきな!・・・番頭は、上手くいったか?・・・・若い連中が、結構居たからな、佳代子さん、かなりモテたんじゃないのかな?」




「あっ!・・は・・はい!若い人達からかなり声をかけて来て、・・・ちょっとヒヤッとしましたが・・・たくましくって良い人達ですね!」




「そうか!・・・まあ!、あんまり気にしない方が良いぞ!いろんな奴が居るが、まあ!聞き流しておけ!」



「はあ!・・・」




佳代子は、その後一人で帰宅した。




「ただいま!戻りました!」




「おや!佳代子ちゃん、お帰り!」




「ああ!おじさま、まだお仕事続けているようで、遅くなると・・・」




「ああ!大丈夫だよ!心配しなくて!いつもの事だから、おそらく、一風呂浴びて帰ってくるから!・・・ああ!それは自分で持っておきな!初めての稼ぎだろ?」




佳代子は銭湯での報酬のお札を渡そうとした。・・・いままで、冬休みや春休みなどにアルバイトをしてきて、初めてではなかったのだが・・・。



夜に、鉄雄も仕事を終え、銭湯で一風呂浴びて帰ってきた。




晩御飯も、3人で茶托を囲んで一緒に摂ることに・・・その日の長い夜も終わった・・・。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る