突然、見慣れない場所に。

窓から、部屋のスリッパを履いて外に出た佳代子。



昭和山だと思っていた、どす黒い不思議な山に向かって歩いて行くと、目の前を、トロッコ列車が通過した。




「おい!、そこのお嬢さん、そんなところにいると危ないよ、・・・なんだ?見かけねえお嬢さんだな!それになんだ?その格好は?」




従業員らしき男に声をかけられ、佳代子は「ハッ!」とした。




彼女は、黒っぽいハーフパンツに、グレーのTシャツ、それに、スリッパだった。



「えっ?・・・あ・・・あの、ここはどこですか?」



「はあ?・・・何だい、あんた、自分がどこに居るのか分からないのか??・・・ここは、伊田町だよ。」



「い・・・いた・・まち??」




「分かんねえかな!福岡県、田川郡、伊田町だ!・・・あんた!いったい何処から来たんだ?」




「ふ・・ふ・・福岡???なんで?・・・・・・あっ!・・・わ・・私は、大阪、大正・・区・・・小林・・・!」



「はあ?大阪?なんか聞いたこと有るなあ!それになんだ?大正だって・・・?今は、大正じゃないぞ!今は昭和だ!昭和10年だ!・・あと、小林と言ったな、なぜ、ワシの名前を知っているんだ?ワシの名前は小林なんだがな!・・・あんた!さっきから何を言ってるんだ、大丈夫か?」




それを聞いた佳代子は、唖然としてしまった、どうやら、100年近く前の福岡にタイムスリップしていた。




「おーい!誰か来てくれないか?・・・この若い姉ちゃん、ちょっとおかしいんだ!」




小林と言う作業員が、大声で他の作業員を呼んだ。




「なんだ!なんだ!・・・どうした!・・・おい!その若い姉ちゃん・・・どっから来たんだ?なんでこんな所にいるんだ?あぶねえだろ!・・・しかも妙な格好だな・・・おめえの娘か?」



一服をしていた従業員が、数人集まってきて、佳代子を睨み付けるように、眺めた。




「知らねえよ!突然どっかから現れて、フラフラ歩いて来たんだもの、俺ビックリしてんだ、危なすぎだ・・・誰か、彼女を保護してやってくれねえか?。少し変だぞ!」



「親方!親方!」



一人の作業員が、親方を呼んだ。




「なんだ?・・おい!その若い女、なんでこんな所にいるんだよ、危ねえから、早く追い出せよ!」



親方は、やや怒鳴るように言った・・・それに対し、小林は・・・。




「それがさあ、なんだかおかしいんだ、自分がどこに居るのか分からないみたいで・・・記憶喪失なんじゃねえのかな?・・・」




「とにかくだ、早くどこかへ連れてけ!」




親方が言うと・・・。



「はあ!・・とりあえず事務所に来て貰おうか、お嬢さん・・・、それにしても、妙な格好だな!」




そう言って、小林は、彼女の手を引き、事務所の中に招き入れた。













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