めがね最強伝説

さくらみお

第1話


 みなさん、はじめまして!

 私、西園寺かおる、15歳よ。


 身長168センチ、体重は……秘密!

 スリーサイズは上から99・55・88のすこ〜しワガママボディ。


 今日からセレブのご子息やご令嬢御用達の学園・高嶺の華高校に入学した高校一年生なんだ!



 ……なんだけど。


 まさかの登校初日から大寝坊!

 起きた時間が授業が始まる30分前だった。


 も~!!

 目覚まし時計が老朽化でぶっ壊れてるなんて、ほんと信じられなーい!!


 急いで新しい制服を着て、髪を梳かして、鞄を持って出かけようとして……あ、いっけない!


 一番大切なめがねを忘れるところだった!!


 目立つ七つのそばかすを隠す、私の大事な大事な瓶底めがね。


 装着すれば、ほら完璧☆


 あ、いっけない!

 姿見の鏡でポーズ決めてかっこつけている場合じゃなかったわ。遅刻、遅刻!


 私が遅刻しているだなんて、全く気が付かなった天然のママからジャムトーストを貰うとそれを咥えて、外へと飛び出した。



 ◆



 高嶺の花高校はお家から徒歩30分。


 でも、山の上にあるから大抵の生徒はバス通学。

 セレブな生徒達はお家の運転手さん付きの高級車。


 だから私が必死にトーストを咥えながら山道を猛ダッシュしている脇を、高級車がビュンビュンと追い抜かして行く。


 う、羨ましい~!!


 私って名前は上流階級みたいだけど、ごくごく普通の一般庶民だもんね。



 でも、きっと。

 きっとね。



 受験勉強を頑張って、ちょっと無理して入ったこの学校で、私は運命の人に出会うと思うの!!


 絶対に!!



 ――そんな夢みていた時だった。




 キキキキキキー!!

 ドンッッ!!!!



 森林で見通しが悪い交差点で私は高級車に轢かれた。

 転がり木に激突した私。

 真っ青な顔した運転手が降りてきた。


「うわああああ!! だ、大丈夫ですかーーー!?」

「いったーい! も〜! どこ見てんのよーー!」


 車にぶつかって、お尻をぶつけた私(無傷)。

 心配し、青ざめる運転手の背後から、同じ学校の制服を着た男子が現れた。


「おい、じい、心配することは無いぞ! ぶつかって来たのは、そっちだろ!?」

「しかし、坊っちゃん……!」


 坊っちゃん、と呼ばれた彫りの深いイケメン男子は私をジロリと睨みつけた。


「……た、確かに前を見ていなかった私も悪かったわ。けれど! こっちは生身で、あんた達はロールス・ロイスよ!?!?」

「坊っちゃん、このお方の言う通りで……」


「ん?……お前、一年か?」


 私のジャケットについた校章バッチを見て、イケメン坊っちゃんは言った。


「そ、そうよっ! だから、何!?」

「ああ〜……だから、俺様のこと知らねーのか?」


 ニヤニヤと笑う坊っちゃんは、突然、私の咥えたトーストを口から無理やり引っこ抜くと、そのまま地面に落とした。


 唖然とする私の目の前で、彼のつやつやの革靴がトーストをグリグリと踏みつけた。


「あ、ああああーーっ!! なにするのよ?!」

「俺様は、この学校の生徒には何しても良いんだよ!」


「はあ!? あんた一体、何様なの!?」

「俺様は神宮寺つばさ、高二だ」


「神宮寺……つばさ??」


 神宮寺つばさと名乗った男はふっと口を歪め、


「世界を股に掛ける神宮寺グループの御曹司だ。その俺様を敵に回したこと、後悔するんだな! じい、行くぞ!!」

「は、はい! あの、申し訳ありません。申し訳ありません。何かありましたら、こちらに……」


 と、じいと呼ばれた運転手は、私に名刺をくれた。


 それは一日にCMや広告を見ない日は無いくらい、誰もが知る神宮寺グループの名刺だった。

 茫然とする私に排気ガスを振りまいて、神宮寺つばさは去って行った。



「……え? うそ、ほんとうに、神宮寺グループの御曹司なの……??」



 遥か遠くから、学校のチャイムの鳴る音がした。



 ――西園寺かおる、登校初日から遅刻する。




 ◆





 やっとこさ辿り着いた高嶺の華高校は、戦場と化していた。



「――へ?」



 私の下駄箱に張られた赤い札……。

 なんだか既視感が。



 ――ああ、これ、なんか昔読んだ少女漫画でこんな展開あったな。




「また会ったな、西園寺かおる!」



 振り向けば、たくさんの生徒を引き連れた神宮寺つばさが立っていた。


「……これ、あんたがやったの?」

「それは俺様に歯向かった罰だ!」


 すると、神宮寺つばさの背後に立っていた生徒がごみ箱の中身をこちらへぶちまけた。


 とっさの事で、避け切れなかった私はごみを顔から被ってしまい、その場にへたり込んでしまった。


 ごみだらけになった私を見てあざ笑う生徒たち。

 そんな惨めな私を嬉しそうに見下す神宮寺つばさ。


 すると神宮寺つばさの隣にいたイケメンが三人、私の元へとやって来て、ジロジロと顔を見た。


「こいつ、今時瓶底めがねとか、終わってるぞ!」

「取ってやれ!」


「あ、ちょっと、ヤダっ、止めて、止めてっ!!」


 茶髪のイケメンが、抵抗する私の大事な大事なめがねを奪った。

 そして、ニヤケながら私の素顔を見て、


「うっ!」


 と唸った。


「な、なんだと……!?」

「こ、こいつは……、まさか?!」


 周囲の生徒もめがねを取った私を見て、動揺し始めた。


「な、なんだ? お前ら、一体どうした?」


 ちょうど茶髪のイケメンで死角となって私の顔が見えなかった神宮寺つばさがこちらへと歩み寄って来た。

 そして、私の顔を見るなり、「うっ!」と唸り、すーっと顔が青ざめた。


「その頬の七つのそばかす……!」


「北斗七星の形をした、そのそばかすは……!」


「お前……伝説の……!」


「…………ええ、その通りよ!!

 この私、西園寺かおる(性別上・男)は先日、全世界を隕石落下という、ディープインパクトから救った救世主よっ!!」


 自慢のバスト99の胸筋を膨らませ、フロントダブルセップスのポーズで爽快に笑った。


「あ……ああ……ま、まさか、お前が、あの世界最強の男だと?!」


 怯え、その場に腰を抜かす神宮寺つばさ。

 そんな彼に歩み寄り、私は縮こまった彼を見下ろしながら言った。


「神宮寺くん、私は無益な争いは好まないわ。今までの事はお互いに水に流して、これからの学校生活は仲良くやりましょうよ!」


「は、は、は、はい……!」

「うふふ、良い返事ね!」


 私は微笑み、彼の肩をバンバンと叩いた。

 すると、少し力み過ぎたのか、神宮寺つばさはぶっ飛んで、壁に激突した。


「あ、ごめんなさい〜!! 大丈夫ですか〜?」


 壁にめり込んだ彼を救出する。

 イケメンの彼の前歯が二本欠けてしまったが、私のトーストを潰した件と相殺という事でチャラにして貰った。




 ――ま、そんな訳で。


 入学早々、ハラハラドキドキしたけれど、私は平穏に学校生活を送っている。



 仲良しのお友達もたくさん出来て、アオハルを満喫中!



「あ〜! でもでも! 早く運命の人現れないかなぁ〜!」

「かおるちゃんってば、いつもそればっかり!」


「だってえ! 強くて逞しい白馬の王子様って女子の憧れじゃない〜?」

「ね〜、神宮寺つばさくんはー?」

「ダメダメ! ロールス・ロイスより弱いんじゃ、全くお話にならないわっ!」



 どっと笑い合う女の子達。



 ウフフ。

 神宮寺くん、きっと教室でくしゃみをしているわね☆



 ☆おしまい☆


 

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