第6話
巨大な闘技場の武舞台の上に、二人の男子生徒が向かい合うように立つ。
一人は瞳に闘志を宿す銀髪の少年。それと相対するは濁った青の瞳に黒い感情を宿した金髪の少年。
一人は拳を構え、一人は剣を構える。
魔力を扱える者同士の闘いに武器の差はあまり関係ない。
魔術を上手く扱える側、魔力を効率的に運用できる側、魔法という切り札の使い方の上手い側が勝つのだ。
ただ、この試合に限りそのルールは適用されない。
銀髪の少年メシアは魔法も魔術も使えないからだ。唯一使える魔力操作だけで少なくとも冒険者で言うところの準二級以上の強さがある。
対する第二王子のアークは魔術も魔法も高練度で使えるだろう。
噂では剣の扱いも心得ているとか。
側から見て実力は互角だ。勝負を決めるのは己の手札の扱い方次第。
どちらが勝ってもおかしくない。
Sクラス同士の戦いを見られると集まった客が息を呑む中、ついに試合が始まった。
初めに動いたのはアーク。
いくつもの剣を出現させ、それをメシアに射出する。
対するメシアは、それを紙一重で避けて行き、アーク目掛けて突進していく。
「甘い」
「ちっ」
アークが黙ってそれを見ている訳がない。剣を射出しながら自分自身も切り掛かった。
すぐにメシアの周りを剣が囲い込み、アークが使う火の魔術と剣術による追撃が始まる。
旋回する剣達がメシアを刺し貫かんと迫り、アークの剣術と魔術によりメシアは着々と追い詰められていく。
魔力操作を用いた身体強化の練度はメシアの方が上。だが何十本もの剣を避けながら、アークの追撃をいなすのは容易ではない。
「……手数が足りん」
軍服の少女が呟いた通り、メシアには手数が足りなかった。魔術か魔法、そのどちらかが使えたのなら状況も変わったのだろう。
それでもメシアは諦めていないようだ。迫る剣をうまく受け流しながら必死に活路を見出そうとしている。
「焦っているな」
少女がアークを見ながらそう言った。
そうだ、アークは焦っている。
これまで見たことがなかった、自分と互角に戦える相手。これまで戦ったことのある格上でも格下でもない、同格。
幾重もの斬撃を浴びせているのに、全てが躱わされ受け流される。
極め付けに、この状況であっても未だ折れる気配のないメシアの闘志。
アークはそのどうしようもないほどに熱い闘志に、理解出来ないその心に、恐怖していた。
「くそっ、なんで当たらねぇんだ!」
理解したくない光景に、焦りが募る。
焦りが多くなれば攻撃は精密さが欠け荒くなり、致命的な隙となる。
「はっ!」
「!?———ぐっ」
僅かな隙をついたメシアの攻撃を、アークは手に持つ剣の腹で受け止めることで防いだ。だが衝撃まで耐え切ることはできず、そのまま吹き飛ばされる。
結果メシアを囲んでいた剣が攻撃の手を止め、代わりにアークを受け止めるように動き、衝撃を殺すことに成功した。
「仕切り直しだ」
「ちっ」
両者共に、再び向かい合う。
最初とは違いどちらも少なからず消耗しており、勝敗はすぐに決まるだろう。
観客として集まっている一般の生徒はどちらが勝つのかまったく想像できない。
なまじ実力のある生徒は消耗の少ないアークが勝つと予想する。
そして、最上位に位置する生徒は既に確信していた。
「20秒か」
「ですわね」
それぞれがそれぞれの感想を抱きながら、試合を見守る。
「終わらせるか」
「そうだな」
向かい合う二人もまた、次の攻防で終わらせる気だ。
メシアは拳にありったけの魔力を込め、それを腰に据える。
アークは火の魔術を発動し、手に待つ持つ剣へと炎が収束していく。体は突きの構え。高純度の炎を一気に射出する気だ。
この一撃で、勝敗が決まる。
今両者にある思いは一つだけ。
目の前の敵に、勝つ!
「ふんっ!」
「はあっ!」
両者の必殺の一撃がぶつかり、余波が観客席まで届く。高い魔力のぶつかり合いがやみ、粉塵が巻き上がる。
巻き上がった粉塵が晴れ、勝者の姿が現れる。
「俺の、勝ちだっ!」
観客が湧き立ち、勝者を讃える拍手が送られる。それを一身に受け、勝者であるメシアは大きな声でそう宣言した。
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