第4話

今日は待ちに待ったクラス対抗戦の日だ。俺を含めたEクラスの生徒全員が闘志を燃やしている。

そりゃそうだ。この大会で良い結果を残したらクラスが上がるんだからな。正直Eクラスの奴らはみんなピリピリしてたから、俺もさっさとクラスを上げて抜け出したいところだ。


「それでは、詳しいルールの説明を致します」


空中に映像が魔術で浮かび上がり、ルールが説明される。


「まず皆さんには私共が用意した特別なフィールドに移動してもらいます。皆さんはそのフィールド内で戦ってください。フィールド内で致死量のダメージを受けた場合こちらに自動で転送されます。フィールド内で負った怪我はフィールド内で完結されますのでご安心ください。より多くこちらに生徒を転送したクラスの勝利です。また、個人記録で優れた結果を残した生徒にはそれ相応の報酬があります。説明は以上です。では皆さん、頑張ってください」


説明が終わるのと同時に俺達は白い光に呑み込まれた。

気が付けば先程までいた校庭ではなく森にあることがわかった。

なるほどな。これが用意されたフィールドか。よし、頑張るぞ!

お、さっそく人がいるな。最初はあいつにしよう。


「はぁ!」

「ぐはっ!?」


俺の拳を受けた生徒は一瞬で光になって消えた。おそらく脱落したのだろう。相手が何クラスの生徒かわからなかったけど、とりあえず倒しまくれば問題ない。

確か先生がEクラスの生徒は協力しても意味がないからみんな別の場者に飛ばすとか言ってたし、ここら一帯には俺以外にEクラスの奴らは居ないわけだ。

気兼ねなく暴れられるぜ。


「おらぁ!」

「ぎゃっ」

「くらえ!」

「うわぁ!」

「そらよ!」

「はぶしゅっ」

「てい!」

「ピギャーーー!」


それから俺は暴れまくった。何人もの生徒を屠り、ポイントを稼いでいった。


「なんでEクラスの奴に、この僕が……」

「相手が悪かったんだよ」

「貴様、何をした」

「何も?」

「嘘…だ。僕に気付かれずに魔法を使ったに違い、ない」

「何言ってんだよ。俺は魔法も魔術も使えないぞ?」

「は?」


アホ面のままBクラスの生徒は光に呑まれ消えて行った。これでちょうど50人目だ。

それにしても、何をそんなに驚いていたんだろう。

確かにこの世界の人間はみんな自分の魔法を持っているし、魔術も当たり前のように使える。

ただ俺にはそれができなかった。みんなが魔法や魔術を使えるのに俺だけ使えなかった。

悔しかったし、親に当たったりもしたさ。

でも夢を叶えるのにそんな物は匙でしかないと気付いたんだ。

俺の夢は最強になること。最強になって世界を平和にして、大好きな家族達を守ることだ。

魔法や魔術が使えないからってなんだ。

技と魔力操作による身体強化さえあれば十分最強になれる。

この学園でも魔法と魔術が使えないことでEクラスに入れられたが、それなら今回の大会で結果を残してSクラスまで上がってやるよ。

学園に入る前から鍛えていたおかげで生徒は弱く感じるし、魔法と魔術は殴れば解決できる。

やはり俺のやり方は正しかった。魔法や魔術が使えなくても最強になれるんだ。

よし、目標の再確認もできたし、どんどん倒していくか。

そうやって意気込んでいた、その時だった。


目の前に一閃の光が降ってきたかと思えば、即座に轟音が鳴り響く。

凄まじい量の魔力の奔流と共に、一人の少女が姿を現した。

白磁の肌とは相反する珍しい黒の髪。美しく整った顔はピクリとも動かず、宝石のような黄金の瞳は恐ろしいほどに冷え切っている。

軍服風の制服を見に纏う姿は凛々しくも儚く感じられる。

名前も知らないそいつは凍えてしまいそうな程冷たい瞳を俺に向けてくる。

これが二度目の邂逅だ。

啖呵を切った手前、これでビビってはいけないな。


「よう、また会ったな。Sクラス」

「二人が向かわなかった方向で騒ぎが起きていると思い来てみれば、貴様だったか」

「なんだ、がっかりしたか?」

「いや。予想通りだ」


瞬間、俺はSクラスの生徒目掛けて突っ込んだ。拳を握り、今できる最高をぶつける。

余波だけで周りの木々がへし折れ、地面が荒れる強力な一撃だ。これを受けたら普通ただではすまない。


———だが


「ふむ。まあまあだな」

「はっ、まじか」


軽々と、なんて事もないように片手で受け止められた。

自信なくすな。これでも俺の本気だったんだぜ?

こんな華奢な体のどこにそんな力があるんだか。

魔力操作による身体強化?

だとしたら練度がバケモンだ。俺のアイデンティティも完全に焼失だな。


——だが、それでこそおもしろい!


身を捻り蹴りを放つ。もう片方の手で止められた。


「こっちはどうかな!」

「……」


蹴りを放った方とは違う足で再度蹴りを放つ。

さすがに対応し切れなかったのか、それともただ面倒だったのか。彼女は後方に飛び退き、俺と距離を取った。

正直言うと、状況は芳しくない。

今の攻防でわかったが、魔力操作の練度は彼女の方が上だ。まだ技の方はわからないが、期待はできないだろうな。

それに、もし俺が技で上回っていたとしてもあいつには魔法と魔術がある。先程目の前に落ちた雷は間違いなく彼女の仕業だ。

あの練度の身体強化に加え先程の雷。こりゃ厳しい戦いになりそうだ。


「来ないのか? なら」


押しつぶされそうなほどの威圧と殺気。


「こちらから行くぞ」


嫌な予感に身を任せ、急いでその場から飛び退く。


「ぐっ…」


次の瞬間、恐ろしいほどの風圧が俺を吹き飛ばした。

一瞬だけ彼女が蹴りを放つのが見えた。

ったくなんて威力だ。周りの木が全部吹き飛びやがった。まともに受けてたら死んでたな。

ただ骨が何本か折れたから、ノーダメってわけでもないが。


「なんだ、死ななかったのか」

「俺は頑丈なんでね。そう簡単には死なねぇよ」


ただの虚勢だ。彼女の攻撃一発で俺は退場してしまう。

さてどうするべきか。

さっきの一撃で消耗した様子もないし、おそらく彼女からしたら大したものでもないのだろう。

俺が避けれたのなんてただのまぐれだ。次避けれる自信なんてない。今の俺じゃあ勝てるビジョンが思い浮かばない。


「先程から、なぜ魔法も魔術も使おうとしない? 貴様程魔力操作の精度が高ければ魔術も自在に操れるはずだが?」


どの口が言ってんだか。あんたも俺相手に魔法も魔術も使ってないだろうが。


「生憎、俺は生まれつき魔法も魔術も使えないんだよ。やらないんじゃなくてできないんだ。あんたと違ってな」

「なるほど。……呪いか」

「なんだと?」

「いや、何でもない。さて、終わりにしよう」

「おいおい、何勝手に終わらせようとしてんだよ。勝負はこれか——ごふっ………は?」


突然口から血が溢れ、なにが起こったのかわからず下を見る。

細い腕が、俺の体から生えていた。


「言っただろう? 終わりだ」

「がっ……」


腕が引き抜かれ、地面に崩れ落ちる。


「これから伸びるだろう。鍛錬を怠るなよ」


光に呑まれていく中で、聞こえたのはそんな言葉だった。

はっ、当たり前だ。

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