第16話 出会いと選択

「リンゴ」

「ゴリラ」

「ラッパ」

「パンツ」


森を出た俺達は、街道を見つけたので、神竜が住まう竜の谷に向かって歩いてた。

かれこれ5日間、特に何もなく歩き続けてる。


「吊り橋」

「しっかし、やる事何もないな。」

「無いなりに、こうして、しりとりをしてるではありませんか。」

「簡単に言うと、暇なんだよ。」

「余裕があるから、暇に感じるんでしょうね。」

「ネタが尽きたらどうする?」

「…る…る…ルンルンと鼻歌を歌えばよろしいかと?」

「とー…とっとと目的地に向かうのはどお?」

「お風呂に入りながら、のんびりと行きたいと言ったのは、ご主人様ですよ。」

「予定を変更して、さっさと向かうのは?」

「わ…は…は…走って行かれますか?」

「担いで飛んで貰うのはダメ?」

「目立ちたいのなら構いませんが?」

「が…がー!が…が…ガックシ。」

「しばらくしたら、休憩しませんか?」

「簡易拠点出せる場所ある?」

「る…るるるる・・・ルービックキューブ」

「ブタ」

「タヌキ」

「キツネ」

「ネコ」


「「はぁ~」」




俺とロゼは同時にため息を吐いた。

そう、暇なのだ‼

街道に出てからというもの、誰一人出会わず、魔物や盗賊なんかも出やしない。

村を見かけたが、歓迎されないだろうとスルーしてきたからな。

アニメやゲームなんかでは、魔物に襲われたり、襲われたり、襲われたり…


「ご主人様は、アニメ?やゲームに夢を見すぎです。」

「ロゼさんや…心の声読むの止めてもらっていい?」

「ご主人様は、顔に出過ぎです。」

「そんなに分かりやすい?」

「はい。」


俺達は、そんなどうでも良いやり取りをしながら街道を進んだ。


ある程度開けた場所についた俺達は、休憩するべく、街道から離れ小さな丘の上にきた。

正直、森と草原の景色ばかりだったので飽きていた。

俺が簡易拠点を造ろうとすると、ロゼはそれを断り、簡易キッチンとテーブルを出した。

ロゼが昼の準備をしてくれるのを、席に着き、煙草を吹かせながら待った。


昼食ができたので、俺とロゼは席に着き、昼食を始めた。

俺は、スクランブルエッグとパン。

パンの上に卵を置いて食べるのが好きだ。

対してロゼは、パンにバターを塗り、大量の蜂蜜も塗っている。

蜂蜜バターだっけ?甘そうだ…


一度ロゼに、そんなに甘いものを食べて大丈夫なのかと聞いた事がある。

ロゼは、笑ってない笑顔で「大丈夫です」っと答えていたが…俺は知っている。

ロゼの胸が一回り大きくなり、肉付きが良くなっている事を…

ロゼ曰く、ご主人様が揉みしだくから、だそうだが…それだけじゃないと思う。


俺とロゼは、この世界に来てから、手持ちの食材の味を始めて味わった。

それが良かったのか、ロゼは食べる楽しみを覚え、よく食べる。

この前の花妖精の蜂蜜も、俺に蜜と巣を渡し、アイテムボックスに保管して欲しいと頼まれた。

その時の表情が、真剣そのものだったので、俺は何も言わず黙ってアイテムボックスに入れた。

その時のロゼは、これで一杯食べられると喜んでいた。

そんな事を思い出しながら、ロゼの顔を見ながら、俺は昼食をとった。


相変わらず、ニコニコとロゼはパンを食べている。

甘いものが好きだな~…俺は無理だが。

別に嫌いとか苦手ってわけでは無い。

疲れた時や、欲しくなった時に食べれれば問題ない。

そんな事をロゼに言うとガックリとしてたが、蜂蜜等、好きに使って好きに食べて良いぞっと言うと喜んでた。

食べるのは良いが、太らないでくれ。


昼食を終えた俺達は、丘に腰を下ろし休憩していた。

俺は丘に寝転び、煙草を吸いながら空を見上げボーっとしている。

ロゼは、俺の隣に座り、ハチの巣をシャクシャクと食べていた。

甘い…蜂蜜の匂いが凄い…ってかよく食えるな…

そんな事を思いながら、ボーっと休憩していた。


街道で何かの物音がしたので、街道の方を見てみると、一台の馬車と5騎の騎馬騎士が街道を走り抜けていた。

俺とロゼはどうするっと顔を見合わせたが…放置した。

関わってもろくな事にならないだろうからな。


「それにしても暇だな…」

「ご主人様、旅とはそう言うものではございませんか?」

「そうなんだろうけど…何か起きないかな~」

「それは、「フラグ」っというやつですか?」

「…」

「先ほどの馬車を追いますか?」

「何故?」

「暇つぶしにはなるかと。」

「…」

「行ってみるか…」

「はい。」


俺達は、とりあえず馬車が走り抜けていった街道を進んだ。

しばらく進むと、森の近くで激しい剣戟音と叫び声が聞こえてきた。

俺達は近づき、近くの岩に腰を下ろしてそれを眺めた。


「さ~やってまいりましたロゼさん」

「何がでしょう?」

「異世界バトルです。」

「そうですね、先ほどの馬車と護衛の騎士4名、対する暗殺者でしょうか、13名いえ、森に居るのを含めて18名ですね。」

「詳しい解説ありがとうございます。」

「いえ、しかし…」

「しかし?何かありましたか?」

「いえ、護衛の騎士達は何故、盾を所持していないのですか?」

「え?」

「護衛ならば、盾を所持して守りに徹するべきです。力量差があるなら要らないかもしれませんが、そうでないなら盾で守りつつ、確実に攻撃を当てるべきです。」

「そういや、異世界ものってみんな盾使ってないよな?なぜ?」

「いえ、それを聞いているのですが?」

「見栄え?」

「馬鹿ですか?」

「力量?」

「騎士じゃないですよね?」

「…」

「あ、護衛が一人遣られましたね。」

「暗殺者は残り10名だな。」

「森の方を含まなければですが。」

「動く気がないから、監視じゃないか?」

「その様ですね。」


俺達はそんなどうでも良い事をしゃべりながら見ていた。

正直、つまらなかったからだ。

剣で攻撃してのヒット&アウェーを繰り返してたからだ。

それも高速戦闘とかなら見ごたえはあっただろうが、普通のモッサリとした戦闘だった。

これで分かった事は、この世界の人間達は対して強くないって事だ。

俺達の様に、ゾンビアタックが出来る訳じゃないからな。


そんな事を考えていたら、護衛から援護要請がきた。


「済まない旅の方、出来れば援護して貰えないだろうか?謝礼はする‼」


馬車の前に立ち、先頭で剣を振るってる騎士からの援護要請だ。

おそらく、彼女がリーダーで一番強いのだろう。

俺とロゼは顔を見合わせて、どうするっと考えた。


「頼む!馬車を守ってくれるだけで良いんだ‼」


今だ、こちらに悲願してくる女騎士。

それに気づいた暗殺者が2名こちらに向かって来た。

俺は「はぁ~」とため息を吐くとロゼに支持を出した。


「俺は手前の二人をやる。残りは任せた。」

「畏まりました。」

「死にたくなかったら馬車まで下がれ!」


俺は護衛の騎士たちに向かって叫んだ。


「ロゼ。」


「はい。」


ロゼは返事をすると、つま先で地面を2回叩いた。

すると、騎士と暗殺者の間から大きな土の棘が無数に生えた。


アーススパイクの魔法だ。

棘は次々と暗殺者を貫き、一瞬にして8名の暗殺者を串刺しにした。


こちらに向かってた二人は、一瞬何事かと振り返った。

俺はその瞬間、間合いをつめて二人の首を撥ねた。


残りの森にいる者達をロゼに任せて、俺は騎士の方に向かって歩いた。

今だ、ロゼの魔法に呆けてる騎士達に声を掛けた。


「全て片付けた。報酬を貰いにきた。」


俺の方を見た騎士達は、初めはの方は呆けていたが、俺がエルフ族だと分かると舌打ちした。

俺は眉間に皺を寄せ、相手の出方を待った。


「隊長!御下がり下さい‼」


一人の女騎士が叫ぶ。

女騎士は、へたり込んでたところ、一気に立ち上がり剣を構えて、俺の前に立った。


俺は煙草に火を付けフーっと吐くと「いいのか?」っと聞いた。


「黙れ罪人‼貴様もこいつらの仲間だろ‼」


女騎士は剣を突きつけて、俺が襲撃者達の仲間だと叫ぶ。


まぁ~こうなる事は予測出来ていたし、分かっていた。

馬車を襲った暗殺者達は、エルフ、獣人の奴隷だ。

おそらく、森に隠れていた奴らに買われて使い捨ての道具にされたのだろう。

襲撃を成功させれば、処分すればいい。

失敗しても証拠は出て来ない。

そんなところか。


俺は、「はぁ~」っと大きなため息を吐くと、刀を構え、身を屈め、一気に下から上えと斬り上げた。

そのまま残身を残し、刀を振るい血糊を飛ばす、半身を引き刀を納刀する。チン


「美しい動作ですね。」


「見よう見真似の動作だけどな。」


別に俺は、剣術や居合術をならっていたわけでは無い。

Creation Worldに居合の動作や刀の振り方等を取り込むためにいろいろと勉強しただけ。

動画をみたり、自分の好みにアレンジしただけだから、真剣にやってた人には失礼にはなるだろうな。


「居合術や剣術と違って殺陣に近い、演武っと言った方が分かりやすいか。」


俺はそう言いながら、斬った女騎士の脇腹を柄で突いた。

女騎士はズルリっと縦に割れて倒れると、切り口から血をポコポコ吹いた。

アニメやゲームなんかでは、斬ると血がブシャーっと出るが…

最初に血を吹いただけで、あまり飛び散らないんだな…


「なるほど、見世物に近いと言う事ですね。」


「こうゆう時には効果あるだろ。」


ロゼは、俺の拙い居合術の動作を美しいと言ってくれた。

正直、ちょっと嬉しかった。

自分で、アレが良いコレが良いと、試行錯誤して作ったからな。

それを評価してもらえるのは嬉しい。


「き…貴様ぁ‼何故斬ったぁぁぁ‼」


残った二人の騎士が立ち上がり、剣を構えて叫んだ。


「はぁ~…何故もクソも、人に剣を向け罪人呼ばわりしたんだぞ?」


「貴様ぁぁぁぁ‼」


剣を上段に構えて残った女騎士二人が突っ込んでくる。


俺は、一人目を半身を回転させ、上段切りを躱すと回転の勢いを利用して、後頭部に裏拳を入れる。

そのまま、二人目も半身を引いて躱し、足を掛けて体制を崩し、そのまま片手で後ろから押し込んでこかす。

倒れた女騎士の背を踏みつけ、髪を掴み首を持ち上げて、首を切り落とす。

斬った首を、一人目の女騎士に放り投げ、刀を納刀する。

良い動作訓練になる。

ロゼ相手だと出来ないからな…

しかし、人を斬っても何とも思わないし何も感じない…

斬った嫌悪感も無い…

首を撥ねるのもそうだ、首切りには技術や力がいる。

それが、豆腐を切るようにスパスパ斬れる。

ここに来て、俺が…俺自身が変わったのか…変えられたのか…

そんな事を考えてしまった。

いや、止そう。

俺は、思考を切り替えて、弾き飛ばした女騎士の方を見た。


女騎士は、後頭部をさすりながら、俺達の方に振り返り、自分の剣を探して辺りを見回した。

自分の近くに、先ほどの女騎士の顔がある事に気づくと「ッヒ」っと悲鳴を上げて後ずさった。

俺は、騎士が剣を手放すなよと思いながら、歩いて近づき、剣を取ろうと必死に手を伸ばしてる女騎士の前で剣を拾い上げる。

女騎士は、「っあ」っと声を漏らしながら俺を見て、顔を青ざめた。


「よぉ~隊長さんよ。救援要請をしておきながら、襲い掛かるとはぁ~どうゆう了見だい?」


俺は女騎士の顔の前に剣を突き立てると、しゃがんで顔を覗き込んで話した。

素でヤ〇〇口調になってしまったのは内緒だ。

それを聞いていたロゼは「ップ」っと笑っていた。


女騎士は青ざめた顔で歯をガチガチとならし震えていた。

俺は「ん?」っと聞いてみるが、女騎士は「イヤ…ヤメテ…おねがい…」っと繰り返すだけで会話にならない。

俺は、「はぁ~」とため息を吐くと、剣を抜き、上段に構えた。




「お待ち下さい‼お嬢様‼」


俺達は声のする馬車の方を見ると、ドレスを着た少女とメイドが飛び出して来た。

どうやら少女が飛び出し、メイドが必死に止めようとしているようだ。

少女はメイドを振り切って、俺達の前に来た。

見た目は10歳前後ってところかな。


「あなた達いい加減にして‼」


俺の頭の中に???が浮かんだ。

何言ってるのこの子?


「彼女達が、あなた達を襲った事は謝罪するは!報酬ならここにある!これで護衛を開放して下さる‼」


少女は、報酬の入った革袋を俺に突き付けた。


「ロゼ。」


「畏まりました。」


俺はロゼに取りに行かせた。

ロゼは、少女から革袋を受け取ると、俺に渡してくれた。

中身を確認してみると…ヒーフーミーヨー…金貨30枚ってところか。

俺は、それを確認すると笑ってしまった。


「アハハハ…‼良かったな隊長さん。お前の命の値段は金貨30枚程度だそうだぞ。そこらに転がってる奴隷以下だとさ。」


俺は声を出して笑った。

騎士を笑い、少女を笑い…そして、煽った。

金貨30枚入った革袋を少女に投げ返すと、俺はアイテムボックスから金貨100入った革袋を取り出し、少女に放り投げた。


「それに金貨100枚入ってる。合わせて130枚だ。それで、こいつを買ってやるよ。」


ちなみに、何故、俺が金貨を持ってるかと言うと。

最初の頃に、コンソール機能を試したのを覚えているだろうか?


実は、コンソール…使えていたんだ。

俺が入力したコマンドは金貨を出すコマンドでは無くて、所持金を増やすコマンド。

つまり、アイテムボックスに直接放り込まれていたんだ。

アイテムを整理している時に、金貨が入っている事に気づいて、ナニコレ?ってなってたんだが…

コンソールの事を思い出して、「あ!」ってなった訳だ。


俺はクツクツと笑いながら少女を見た。

少女は「っく」っと声を漏らすと、俺を睨んで叫んだ。


「そんな事出来る訳無いでしょ‼」


「ならどうするよ。」


「それは…」


少女は言い淀む…

俺はチラッとメイドを見ると、メイドは苦虫を嚙み潰した様な顔をしていた。


「ま…街に戻ったら、追加の報酬を出すは‼足りなければ、お父様にお願いして…」


少女が話しているのを、俺は手で制止させてメイドを見た。


「そこの世間知らずに説明してやれよ。」


メイドは、眉をピクッと動かすと、俺達に頭を下げ少女に話始めた。


「お嬢様、この方はエルフです。」

「見れば分かるは…」

「この方達を街に連れていく事は出来ません。」

「何故?事の成り行きを話せば大丈夫ではないの?」

「えぇ…街に入る事は可能です。」

「なら何故よ!」

「エルフは罪人です。「世界樹を焼いた罪人」として忌み嫌われております。」


そう、俺は罪人として嫌われている。

街に入ろうものなら、衛兵に捕まるだろう。

仮に捕まらなかっても、剣を突き付けたれ追い出されれば良い方だ。

ましてや、教会関係者に目を付けられれば大変な事になる。


「それぐらいは知っているはよ。」

「なら、創造して下さい。あの方達が街に入ればどうなるかを。」

「罵声…石が飛んでくるとか…」

「それだけではありません。ゴロツキや教会関係者に見つかれば襲われます。」

「それは…」

「あの方達はそれを口実に確実に暴れます。そうなればどうなるか。」

「…」

「連れて来た私達が責任を問われます。暴れなくても私達は、あの方達を庇護する事もできません。」

「見捨てろと言うの…」

「はい。家名に傷が付きますので。」

「…」


パチパチパチ、俺は拍手した。


「流石、一番最初に俺達を警戒していただけはある。」


メイドは顔を歪め、少女は「え!」って顔をしている。


「そのメイドはな、俺達に気付いていながら救援を出さなかったんだよ。分かるか?」


「…」


「こうなる事を理解していたからさ。」


メイドは顔を歪め、少女と女騎士はメイドをみていた。


「俺と護衛の騎士達が揉める。最悪、お嬢様を使って仲裁に入ればってところか。」


「…ええ。」


メイドは苦虫を嚙み潰した様に顔を歪め、返事をした。


「さて、お嬢様。交渉の再開だ。どうするよ?」

「どうするって…」

「そこの金貨で俺にこの騎士を売る、もしくは見捨てる、騎士の謝罪に何を差し出すかだ。」

「それは…」

「なら、私が行きます。」


メイドが少女の前に出て、自分が身代わりになると告げた。


「駄目だ。それを決めるのはお前じゃない。お前の雇い主だ。」


メイドは顔を歪めると、少女を説得しだした。


「良いですかお嬢様。」

「駄目よ‼」

「よく聞いて下さい。」

「嫌よ‼」


バチン‼メイドが少女の頬を叩いた。


「アンナ!あなたもよく聞きなさい。」


どうやら、この女騎士隊長はアンナという名前らしい。


「事の顛末は、あなた方護衛の浅はかさが原因です。」


「しかし…メイド長…」


あのメイド、メイド長なんだ。


「本来ならばアンナ、あなたの命をもって償い、幾何かのかの謝罪金をもって、あの方々に慈悲を請わなければなりません。」


「はい…」


「幸いにもあの方々は、お嬢様にも私にも興味がないご様子。なので、命を取られる事はないでしょう。」


なるほど…このメイド長、お嬢様やアンナって騎士隊長に話してるんじゃなく、俺に釘を刺しにきたか。


「ですからアンナ、自分の馬にお嬢様を乗せ、急いで街に、領主様の下に帰りなさい。

幸いにも、この方々が襲撃者を全滅させてくれております。

恐らくはまだ、私達が生きている事を知られていないはずです。

その隙に戻りなさい。良いですね。」


「嫌よ‼マリア…マリアはどうなるのよ!」


メイド長は首を左右に振った。


あのメイド長、マリアって名前なんだ。


未だ、嫌々する少女をメイド長のマリアはバシン!っと頬を叩いた。


「聞き分けて下さい‼これはお嬢様の仕事です。」


嫌々する少女を叱りつけるメイド長。


「これはお嬢様にしか出来ない事なんです。」


メイド長のマリアは、少女を優しく抱きしめ話し、少女の顔をじっと見つめた。


「お嬢様、どうか正しきご判断をお願いします。」


メイド長はそう言って、少女の頭を撫でて立ち上がった。


「なぁ~ロゼさんや…俺、めっちゃ悪人にされてない?」

「え?違うのですか?」

「いや…そう演じてたけどさ…」

「演技だったのですか?素だと思っておりましたが。」

「それ…酷くない?」

「ご主人様なら大丈夫ですよ。」


俺とロゼはヒソヒソと話していた。


「お嬢様、よろしいですか?」


「えぇ…もう大丈夫よ…」


メイド長の問いかけに、少女は覚悟を決めたみたいだ。


「アンナ…アンナの代わりにマリアでお願い…残った馬車とかは好きにしていいから…」


少女は泣きながらお願いしてきた。


「だが断る‼」


「何故ですか‼」


鬼畜ですね…ロゼがボソッと嘆いたが、聞かなかった事にした。


「何故も…そこのメイド長に、うまく転がされてる様で気に食わん。」


「「…」」


バシン‼ロゼに頭をしばかれた。


「ロゼ…」

「何時まで遊んでいるのですか?」

「…」

「興が覚めたならそれで良いではないですか?お金も人も要らないのですから。」

「…はい。」


ロゼに怒られ、俺は女騎士を開放した。

とはいえ、タダというのはな…


少女とメイド長は、目をパチパチさせていた。


「ロゼ」

「はい。ピィィィィー」


ロゼが指笛を吹くと、女騎士達が使っていた馬が駆け寄って来た。


「馬2匹で手打ちにしてやる。いいな。」


少女とメイド長はポカーンとしながらコクコクと首を縦に動かし肯いた。



俺達はそれを確認すると、急いで馬に乗り逃げる様に去った。

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