第15話 妖精

俺達は、森の中を歩いていた…

どれくらい経っただろうか…

正直、歩きにくく鬱陶しくなってきた。

最初の頃は良かった。

少しテンションが上がってたからな。

だが…


「うぜぇ~」


覆い茂る草木、乱立して立つ樹木。

人の出入りが無く、整備されてない道を歩くのは面倒だった。


「正直、道なき道を歩くのがここまで苦痛だとは思いませんでした。」


俺の後ろを歩いて付いて来てるロゼもぼやく。

あぁぁぁぁ‼「飛斬‼」


イライラした俺は、刀に魔力を込めて斬撃を放った。


スバババババ…ドォーン‼

飛斬によって目の前の木々が斬り倒されていく。

ズゥーン‼


「ご主人様…」


「うるさい。何も言うな。」


斬り倒された木々達が積み重なり道を塞いでいた。

これが現実。

アニメや物語では、道が切り開かれるが、実際にやるとこうなるんだな…


「どうなさるおつもりですか?」

「アイテムボックスで回収すればいいだろ。」

「これら全てを、回収しながら歩くと。」

「…」

「…」

「ロゼさんや、空を飛んでいかないか?」

「私は問題ないのですが、ご主人様は無理では?」

「「…」」


この世界、飛行魔法が使えた。

ただ、ロゼは上手く制御できるのだが、俺が無理だった。

飛べば、ロケットの如く打ち上ってしまうし、空中で留まろうとすると、錐揉み状態でグルグルと回転してしまう。

ロゼ曰く、ご主人様から溢れている魔力量が多すぎる為、上手く制御してバランスを取らないと危険だそうだ。


「ロゼさんや…運んでくれませんか?」

「はぁ~…低空飛行でも構いませんでしょうか?」

「お任せします。どうか宜しくお願いします。」

「はい。」


俺はロゼに頼んで、空中から運んでもらう事となった。

何故、ロゼが低空飛行で行きたがるかと言うと。

ハチミツが欲しいらし。

俺の手持ちには、ハチミツが無いので、森を抜けるなら道中に探したいと言われ、許可をした。

つまり、低空飛行で飛ぶからハチミツを探せっと言う事だ。


ロゼに両脇を抱えられ、低空飛行で飛んでいるのだが…

さっきから、木の枝がバシバシと身体に当たって鬱陶しい…

始めの頃は、アイテムボックスに回収してたのだが、段々と面倒くさくなってきて止めた。


しばらく木の枝にバシバシと叩かれながら運んで貰っていると、急にロゼが止まり、着地した。

どうやら見つけたみたいだ。


「見つけたのか?」


「はい、あちらに」


ロゼが指刺す方に目をむけると、森の中にバカでかいハチの巣があった。

俺達は近づいて、改めて確認すると本当にバカでかかった。

森が急に切り開かれ、その中心にひと際大きな樹が立っていた。

その木の枝に、小屋ぐらいの大きさのハチの巣がぶら下がっていた。

怪しさ満開、まさにボス戦のフィールド様な場所だった。

ただ…


「なぁ~ロゼ」

「はい」

「あれ、蜜が採れるのか?」

「…試してみない事には…」


そう、目の前にあるバカでかいハチの巣は、ミツバチの巣では無く、スズメバチの巣みたいな見た目をしていた。

ロゼは「確かめてみます」っと言って飛んで行き、ハチの巣の下を切り落とした。

すると、黄色い透明な粘液がドロッと出て来た。

ロゼは空中に留まりながら、ハチミツを器用にアイテムボックスに回収し始めた。

俺は煙草に火を付け、下から見上げていた。


「今日は黒か…」


俺は煙をふーっと吐くと、ロゼの回収が終わるのを待つ事にした。


当然そんな事をしていれば、働きバチ達に襲われる。

ロゼは器用に、片手で剣を持ち切り払ってる。

俺は木の枝でペチペチと叩き堕としていた。


『お待ち下さい!』


唐突に俺達の頭の中に声が響いた。

俺は顔を上げ、ハチの巣を見ると、ハチの巣の前に光が集まり何かが出てくる気配がした。

すかさず飛び上がり、俺は出てくる物を斬ろうと、刀を抜いた。


『キャ!』


避けられた!

着地した俺は、もう一度飛び上がり、刀を縦に振った。


『キャァァァ!』


またしても避けられた。

着地した俺が見上げると、そこには3歳児ぐらいの大きさのバカでかいスズメバチが居た。


「女王蜂か。」


俺はそう言うと、飛斬の構えをとった。


『お待ち下さい‼私達は敵ではありません‼』


脳内に響く女性の声。


『私達は花妖精です‼』


花妖精…


この時、俺達は初めて理解出来た。

この世界の知識等は、ある程度認識しているのだが、この知識に穴があった。

この世界に来た時に、インストールされた様な記憶と共に、知識や情報も含まれてはいたんだが、いろいろと差異があったりする。

例えば、今の様に、この世界にの妖精が居る事は知っていた。

ただし、どんな形や姿、種類がいるかは分からないのだ。

俺達の居た世界や現実の世界にも妖精はいるし、妖精が居た話等もあった。

光の玉や人の形、蝶の羽が生えた小人等だ。

だから、この世界の妖精もそんな感じなのだろうと思っていた。

だが、初めて「花妖精」っという存在を認識してしまった事により、この世界の妖精の情報が流れて来た。

いわば、開けなかったフォルダーを認識した事によって開ける様になった感じだ。


俺は頭を押さえて、構えを解いた。

あぁ~やっぱりこの世界を創った奴はバカだ。

今だ情報の整理と理解に追いつけない…


『あの~…』


女王蜂が話かけてくるが、おれは空いてる手を突き出して「ちょっと待ってくれ」っと頼んだ。


この世界の妖精。

自然法則をぶっ壊して、存在している。

どうゆう意味かって?俺にも分からない…

要は、「妖精が居れば何でもOKだよねー」って事らしい。

妖精が自然法則を担ってる感じか…

いや、魔法が自然法則?


この世界には菌や微生物は存在しておらず、醗酵や熟成も無い。

ワイン等は、変換魔法で物質変換を行う事で作ってる。

腐敗は、時間経過で徐々にではなく、何日か後に一気に腐る。

腐った物たちはどうなるのかと言うと、妖精が分解するか分解魔法で肥料に変える。


では、妖精とは…魔力体だ。

世界樹から溢れ出る魔力によって産まれるのが精霊。

その精霊が既存の生物に憑依?融合?する事によって妖精へと進化する。

つまり何が言いたいかと言うと、ゲーム世界を現実世界にしたらこうなりましたって感じ。

要は、矛盾や穴だらけで、そこを精霊や妖精で埋めてる感じか?

よく分からん。


俺は「あぁ~」と声を出して頭をかかえた。


『大丈夫ですか?』


目の前の女王蜂が大きな口をガチガチ鳴らしながら話かけてくる。

見た目と声のギャップがエグイ…

見た目が子供サイズのスズメバチ。

大きく鋭い口に6っ本のデカイ脚、蜂の針は…小太刀サイズ。

そして蜂独特の羽音…

恐怖しか感じない。


だが、脳内に響く声は、綺麗な女性の声だ。

正直、頭が痛い。

「あぁ~すまない。」っと、とりあえず返事を返した。


『大丈夫なら良いのですが…』

「現実と理解に苦しんでるだけだ…」

『はぁ~』


見た目と声のギャップに理解が追い付かない…

ダメだ…考えるのは止そう…


「済まない、俺達は魔物の巣と勘違いして、お前達の家を襲ってしまったんだな。済まなかった。」


勘違いとはいえ、今だ蜂蜜を採り続けてるロゼを無視して謝罪ををした。


『いえ、もともと放棄する予定だったのでそれは良いのですが…』


『眷属が減ってしまったので、出来れば魔力か魔石を、少し分けて頂けないでしょうか?』


「魔石は無いから、これでも良いか?」


手持ちに魔石が無かったので、代わりに神核結晶を渡した。


『っちょ!』


受け取った女王蜂がうろたえた。


『こんな高純度な物は頂けません!』


「これなら一杯あるから、詫びだ。持っていけ。」


俺は追加で3つ放り投げた。

女王蜂は「あ!あ!あ!」っと器用に6つの脚を使ってキャッチした。


流石に量が多かったのか、返そうとしてきた。

俺はやんわりとそれを断った。


『なら、せめて何かお礼をさせて下さい。』


「蜂蜜を採ってしまってるから、礼は良いんだが。」


俺はそう言いながらロゼを見た。

ロゼは器用にハチの巣を高速回転させて、残りの蜂蜜を絞りだしていた。

器用な奴め。


俺につられて巣を見上げた女王蜂は、ビックリしてるのか、渡した神核結晶を落とした。

蜂だから表情が分からないが…


「なら、妖精酒を作ってくれないか?」


『え?あ…え?あ…はい。』


女王蜂は戸惑いながらも了承してくれた。多分。


『ただ…蜂蜜が無いと』


女王蜂は口をガチガチ鳴らしながら答えた。

俺はロゼを呼び、蜂蜜をわけてくれるよう頼んだ。

ロゼは、「はい」と返事をし、ハチの巣を持って降りて来た。


俺は、蜂蜜を空き瓶に詰めて5本ほど女王蜂に渡した。

受け取った女王蜂は「始めます」と言い、魔法を発動した。

俺達はその魔法をよく見ていた。

おそらく、錬金術に近いのだろう。

何となくそんな感じがした。


女王蜂から、妖精酒を受け取って出発しようとしたら、ロゼがハチの巣を指刺した。


「いらないなら、あれ貰ってよろしいでしょうか?」


『え?えぇ~かまいませんが』


了承を得たロゼは、ウキウキしながらハチの巣の解体にのりだした。

俺は「はぁ~」とため息をつくと、煙草に火をつけて待つことにした。

女王蜂には悪いと思い、そっと神核結晶を渡すと、女王蜂も何も言わずに受け取った。

蜂だけに表情は分からないが。


解体を終えたロゼと俺は、女王蜂に礼を言い、俺はロゼに担がれて森を後にした。






『行きましたね。』


「あぁ~」


そう声を発して土の中から出て来たのは、超巨大なミミズだった。


『どうして出て来なかったのですか?』


「出ていくと殺される気がした。」


男の渋い声が答えた。

女王蜂は「はぁ~」とため息を履く動作をとると、さっさと巣立ちの準備を始めた。


「行くのか?」

『えぇ、水も困ってるだろうから。』

「かの地には水が居たんだったな。」

『これを渡すので、あなたも手伝いなさい。』


女王蜂は大きなミミズに神核結晶を1個渡した。


「良いのか?」

『えぇ、その為に渡されたと思うので。』

「では、遠慮なく頂く。」


巨大なミミズは神核結晶を、体内に取り込んだ。


『これで森も賑やかに戻るのかしら』


「かの者達が森に居たのは永い、暫くは静かなままだろう」


そう言いながら、蜂とミミズも森の奥へと消えて行った。


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