第2章 動き出した世界

第14話 プロローグ

痛ツツツ…

俺は目が覚めると二日酔いの頭痛に悩まされた。


昨晩、俺とロゼは、同じ初めてを歩もうって事になり、手持ちの食材やお酒等を使って大宴会を始めた。

俺もロゼも、ミソロジーの食材等の味は知らないからな。

いや、ロゼは知識だけはあるのか…

そんな訳で、二人で初めての味を楽しもうって事になったんだが…

これは酷いな…

見渡せば、部屋のあちこちに酒瓶やジュース等の瓶が転がっており、テーブルの上は料理の食べ残しや空き皿が積み上げられていた。


ロゼは…こりゃ~ダメだ…

ビーナスのワインを片手に持ち、大口を開けて寝ていた。


煙草に火を付けると、アイテムボックスから状態回復薬を取り出した。

アニメや物語なんかではこれで二日酔いが解消されてたが…効くかな?

俺は試しに飲んでみると、味は濃いポ〇リのようだ。

身体の中に何かが染み渡る感じがした。

って効かないのかよ!

次は万能薬…味はレモネードだな。

って、これもかよ!

万能薬も効かないとは、二日酔い恐るべし…

俺は、赤い薬を取り出した。

ファンタジー最強薬のエリクサー。

味は…カシスやベリー系をミックスしたフルーティーな味わい。

うん、何となく分かってた。

効かないだろうと予測してた…

けど、期待してたのも嘘じゃない…


俺は瓶を投げ捨てると、ソファーにもたれかかった。

煙草に火を付けフーと煙を吐いた。

頭痛でイライラしてるのが、更にイライラしてきた。

異世界恐るべし。

残るは、解毒薬と体力回復のポーション。

解毒薬は…多分同じだな。

一応飲んでみる。味は…甘いグリンティーかな。

俺は「はぁ~」とため息をついた。

体力回復のポーションを一気に飲み干す。

味は…炭酸のないソーダみたいな味だ。

身体の中に染み渡るような感じがし、疲れが取れていく。


「ふざけんな!」


俺はポーションの空き瓶を投げ捨てた。

二日酔いが治ってしまった。

俺はしばらく考えてから、「あぁ~」と納得してしまった。


要は、アルコール成分が毒と認識されていないのだろう。

だから、状態異常の回復薬等は効かなかったんだろう。

エリクサーは、元の状態に戻す薬。

正常な身体に、正常に戻す効果は無かったと…多分。

体力回復ポーションは、自然治癒効果を高める物。

つまり、肝臓の機能が低下してたのを治癒効果が高まった事で、アルコールの分解速度が速まったと…


「はぁ~風呂入ろ…」


なんかどっと疲れた俺は、その辺で服を脱ぎ散らかして温泉に入った。



温泉から上がってくると、今だロゼは口を開けて寝ていた。

俺は何も見なかった事にして、散らかった部屋を片付け始めた。

っといっても、アイテムボックスに入れるだけなんだが。

アイテムボックスに入れると、ゴミ・空き瓶・各種食器類に分けられた。

こうゆう時は便利だな。



片付け終わった俺は、暖炉に火をくべ、ロゼをソファーに寝かしつけ毛布をかけた。

俺もソファーに腰をかけ、煙草に火を付け吹かした。

暖炉の薪がパチパチと弾ける音を聞きながら、俺は静かな時間を過ごした。

煙草の火を消し、今だ寝ているロゼの頭を膝に乗せ、頭を撫でながら俺も眠りについた。



チュンチュンチュン。

鳥の鳴き声で、俺は目を覚ました。

今だ俺の膝の上…抱き着いて寝てるロゼの頭を叩いて起こす。


「痛った…」

「…」

「お早う御座います、ご主人様。」

「…あぁ~お早う。」


今だ、俺に抱き着いて寝てるロゼを無視して立ち上がり、ダイニングの椅子に座ってコーヒーを取り出し煙草に火を付けた。フー


「ご主人様、昨日は大変失礼致しました。」


ロゼが俺の横に来て、綺麗に頭を下げて謝罪する。


「…ロゼ。」

「はい。」

「…酒臭い。」

「「…」」

「酷‼」


風呂に入ってないのだろう。

俺に甘えて、抱き着いて来てくれるのは嬉しいが…酒臭い。

せめて、風呂に入ってからにして欲しかった。


「いいから、さっさと風呂に入ってこい。」


「…はい。失礼します。」


ロゼはそう言うなり、急いで温泉に駆けて行った。


「はぁ~」


俺は煙草の火を消し、コーヒーを飲み干すと、キッチンに向かった。


軽めの朝食と思い、ベーコンエッグを作り始めた。

そういや、一番最初に作った料理もこれだったな。

始めの頃の事を思い出しながら、胡椒を控えめにしパンも焼いて、テーブルに並べる。

コーヒーを入れなおして、テーブルに並べ終わった頃、ロゼが温泉から出て来た。

申し訳なさそうにこちらを見ていたが、黙って席に促し、朝食をとった。


「「いただきます。」」


「ご主人様。」

「なんだ?」

「美味しいのですが…微妙ですね。」

「良いから黙って食え。」

「はい。」


相変わらず、俺の料理は微妙だった…美味いんだけど…

言い訳をするなら、今までロゼが料理をしてくれていた。

だから、適切な味付けが分からなかった。


「さて、ロゼ。」


朝食を終えた俺達は、コーヒーを飲みながら一息ついていた。


「そろそろ旅に出ようと思うから、準備を頼む。」

「何処かお行きになられるので?」

「あぁ~生命神にな…」

「それは…」

「不服か?」

「いえ。」


俺もそろそろ動こうと思ってた。

何時までもここでダラダラと過ごすのも良いが、動かないと終われない気がした。


「ご主人様が旅に出られても、あまり良い事は無いと思いまして…」

「あまりどころか、絶対ないと思うがな…」

「でしたら!」

「まぁ~此処でのんびりと暮らすのも悪くは無いんだが、動かないと終われない気がしてな…」

「それは…」

「ロゼも気づいているんだろ?」

「…はい。」


この世界は停滞している。

生命神が世界樹に居る事によって平穏は保たれているが、崩壊は緩やかに進んでいる。

後、数百年もすれば、生命神も消えて無くなり、一気に加速するとは思うが…永い。

なら、一度自分の目で確かめようと思う。

気に入らなければ加速させれば良いのだから。


「どうせ、消えて無くなる世界だ。素材やアイテム、技術回収と思えば良いんじゃないか?」


「分かりました。準備いたします。」


ロゼは頭を下げると、荷物を纏め始めた。



準備を終えた俺達は森の前に立っていた。

自分が造ったとはいえ、村みたいになってる…


「ご主人様、建物とかは置いて行かれるので?」


ロゼがそんな事を聞いてきた。


「いや。」


此処には、いろいろな思いが詰まってる。

良いものも悪いものも…

それに…放置して置いて行くのは、約束が違うからな。


「ロゼ、魔法を使うから、少し俺を掴んで踏ん張ってて貰えないか?」


「分かりました。」


俺は、自分たちが住んでいた場所を起点に重力魔法を使った。


「グラビティーホール」


グラビティーホールは、対象物質を起点としそこに高重力場を作る事によって、周りの物を吸い込み、圧縮する魔法だ。

要は、ブラックホールの原理だったかな?


グラビティーホールによって、俺達が居た場所は次々と吸い込まれていき、周りの家も崩れ、吸い込まれていった。


家の残骸、地面の土が盛り上がり吸い込まれていく。

そして、地下に入れて置いた人形たち…

俺達はそれを黙って見ていた。


全てを飲み込んだグラビティーホールの中心には、黒く輝く物があった。


俺はそれを急いで取にいく。

空中でキャッチした俺はそれを確認した。


黒く輝く歪な結晶

俺達の思い出と罪と後悔の結晶。

俺は、それをペンダントに加工し、首から下げた。


それを見ていたロゼは何も言わない。

俺はロゼの頭をポンポンと叩いて「行くか。」っと言った。

ロゼは「はい。」と返事をし、二人並んで森の中に入っていった。


「そういえばご主人様、これから何方に向かわれるので?」

「あぁ~神竜に会いに行こうかと…」

「肉の補充ですね。」

「…それもあるが…まぁ~いいか」


ニコニコと楽しそうにしているロゼの顔を見ると、何も言えなくなった。






こうして俺達が動き出した事によって、この廃棄された世界の運命の歯車が動きだした。

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