第3話 プロローグ 2

VR機器に身を預け、Creation Worldへアクセスした。

するとナビーから呼びかけがあった。


「Ver2.001352を開始しますか?」

「いや、先にミソロジーを見てから行く。」

「了解しました。既存データ「ミソロジー」にお繋ぎします。」

「頼む。」


俺は先にUPdateされた機能を楽しむではなく、自分で造り上げたミソロジーへと向かったのだ。


なぜならこのゲーム。

ゲームと謳ってはいるが元はAI育成シュミレーターみたいなものだ。


ゲームを作るゲーム。

何でもありの何でも出来ると聞こえは良いが、それらは自分で構築するか公式のHPで公式や有志諸君が上げたデータを使ったりと色々と設定が大変なのだ。

この辺を話せば長くなるから省くが、簡単にいうと料理をするのに何が必要かって事だ。


料理をするための材料→野菜や肉→植物や動物。

料理をするために必要な道具など多岐にわたって制作していくわけだ。

また料理をしてアイテム変換にするか、鍋やフライパンに入れて作成完了等、多岐に設定ができるのだ。

っとま~こまごまとした設定が可能なのだが、そんなことをしていると手持ちの材料や素材などが足りなくなるわけだ。


そこで、チートコードが大活躍するわけだ。

これは公式も認めており、公式自身も自分たちで作り出したチートコードを出している。


何故そんなことをするかって?


考えてみてくれ、家を建てるのに数十本の木がいる。

町をつくるなら幾らいる?

森を開けば森が無くなる、そしたらまた森を作らなければならないわけだ。

そんな事を淡々と繰り返せば街を国を造るのに何年かかるのだ?って事だ。

そんなのダメじゃんって思うかもしれないが、よく思い出して欲しい。


これはAI育成のソフトだということを。


つまり今までの材料云々はおまけなのだ。

要はバックラウンドでほっておいても勝手に進んでいくのだ。

簡潔に述べるとおまけ要素で遊ぶプレイヤー、それに反映・適用されるNPCって構図だ。


ややこしいだろ?


要はAI育成の鑑賞・コミュニケーションツールとして遊ぶか、サンドボックス型として遊ぶ。

または、シュミレーション形式でオリジナルの世界を造る。

他の製作者が創った世界で遊ぶ。

狩りや冒険・SFなど多岐にわたる世界構築が可能なため作者による千差万別の世界が広がってるのだ。


プレイヤーにとっても遊び方が色々とあり、それを自由に設定できるのだ。

ちなみにだが、俺の造った「ミソロジー」は王道のLvとスキルのファンタジー世界だ。


そんな事を思っていたら読み込みが終わったようだ。




「お早う御座います。ご主人様。」


ログインと同時に声をかけてきたのは、俺が最初に作った眷属のゼロだ。

Creation Worldの世界において、プレイヤーは全て創造主となりプレイヤーによって作られたキャラクター・NPCは全て眷属扱いになってる。

ただし、Mob・モブキャラクター等は眷属扱いに含まれていません。だそうだ。


「あぁ~…お早うゼロ」


俺は超キングサイズのベットからのそのそと這い出た。

豪華絢爛…聞こえはいいがこう大きくすると出る時が少しめんどくさい。

だが気に入っている!


「本日はどうなさいますか?」


ゼロ、俺が一番最初に作った眷属でありお気に入りだ。

黒くて長い髪、細長いつり目のメイドそして爆乳だ!そう爆乳なのだ。

おっぱい星人である俺には絶対に外せない要因なのだ。

ちなみに他の眷属達もみな爆乳だ。

なぜなら、ゼロをベースに作ってるからである。


昔、貧乳の子を一人作ったのだが、3日後に世界が崩壊したのは苦い思い出だ。

そんなことを思い出していると、ゼロに頭を叩かれた。


「またくだらない事を考えていますね。」


女ってどうしてこうも鋭いのだろうか?

運営に抗議のメールを送った時も、「貴重なご意見をありがとうございます。」から始まり、テキスト10枚分位のファイルが張り付けてあったからな…


そんなことを考えていたらまたゼロに頭を叩かれ、無言で部屋の扉を指さしていた。

俺は何も言わずに黙って扉を開け、部屋から出るのだった。


しばらく無言で長い廊下を歩いてると、後ろに付き従って歩いてるゼロが声をかけてきた。


「それで、本日はどの様になさいますか?」


いや、君が無言で部屋を追い出したよね?

などと抗議しようとしたら、鋭い目線で睨まれたのでやめた。はい…ごめんなさい。


「この世界が新しく拡張、バージョンアップされてるのは知ってるか?」

「はい、ナビー様より聞き及んでおります。」

「要は、その新しい世界に行くための準備だな。」

「なら、我々も準備した方がよろしいでしょうか?」

「いや」


俺は立ち止まってゼロの方を向いた。


「行くのは俺一人だ。」


振り向いてそう答えると、少しゼロが寂しそうな顔をした。


「そう寂しそうな顔をするな。」


俺はゼロにそっと近づき、右手でゼロの顎を少し上げそっと口づけをした。

何やら周りからキャーキャー聞こえるが無視だ。

右手を顎に添えたまま俺はゼロの赤く細長い目を見つめなが話した。


「別にお前達が嫌いになったり不要になった訳じゃない。これから始めるのは新しい事だからな、お前達を連れて行けるかは不明なのだ。」


そう言って、ゼロの顎に添えていた手を外した。


「ご主人様は狡いです。いつもそうやって我々をからかい誑かすのですから。」


ゼロそう言って唇に手を当て顔を横にそらした。


「不服か?」

「いえ」

「ならばよい。」


俺たちはそう言って、目的の素材や武具等が保管されている倉庫へと向かい歩き出した。


そう、この建物、城は無駄に馬鹿でかいのだ。

俺の欲望と趣味をふんだんに詰め込んだ超豪華絢爛な城になっている。

クリスタルやアメジスト等の鉱物でデザインされ無駄にシャンデリアや噴水等がところせましとあるのだ。

その結果、全部回るのに一日はかかるというバカげた大きさになってしまったのだ。

まぁ~あれやこれやと詰め込み増築を繰り返した結果なんだけどね。

ちなみに、この城の名前はまだ無い。現在募集中だ。


何故名前をつけないのかって?


俺にはネーミングセンスが皆無なのだ‼


昔、フェンリルをテイムしようと雪山に行った時、捕まえたフェンリルの名前をフェンリルしようとしたら、フェンリルに思いっきり前足で殴られたしな。

その後、シロやタマ・ハチ等と色々と考えていたら知らない間に、フェンリルが山に帰っていったぐらい、俺にはセンスがないのだ。


そんな事を思い出しながら歩いていると、目的の城の倉庫街に着いた。


城の中に倉庫街っておかしくない?って思うかもしれないがおかしくないのだ。

ここは、城の一画で俺や眷属達が各地で集めてきた素材や鉱石なんかを保管したり、過剰分の売買や武具やアイテムの作成等を行われている場所で、一般開放されている城の一画なのだ。

何故こんなことになってるかと言うと、俺には収集癖・コレクター癖があるのだ。

昔、無駄にため込んだ素材やアイテムを見て眷属の一人がブチ切れたのだ。


「毎度毎度、無駄にため込み腐った素材やアイテムを処分しなければならない私の身にもなって下さい。」


っと静かな声で言はれた時は、背筋が伸びて平謝りしたほどだ。

そんな経緯で出来たのがこの場所ということだ。


此処では、世界各地の食材から神々、要は眷属達の不用品等が所狭しと並べられ売買されており、此処で手に入らないものは無いと言われているぐらい何でもある場所なのだ。


倉庫街に着いた俺たちはアイテムや素材の補充と整理を行っていた。

整理を行っている最中、ゼロが話しかけてきた。


「ご主人様、この後はどうなさいますか?」


おそらく、少しでも気を引きたかったのだろう。

しかし、夜勤明けで疲れている上に、新しい機能の確認も早く終わらせて寝たいと考えている。

今回はゼロには諦めてもらおう。


「そうだな…夜勤明けで眠いから、動作確認と新たに追加されたものを確認したら寝るつもりだ。」


俺は作業を続けながら答えた。


「そうですか…わかりました。」


ゼロは少し寂しそうに返答し、黙々と作業を続けた。

俺はそっとゼロの後ろに近づき、優しく後ろから抱きしめた。

ゼロは作業を続けつつ、俺の腕に抱きしめられて少し驚いた様子だった。


「すまないな。かまってやれなくて。」


ゼロは作業を中断して、腕に触れる俺の手を見つめながら微笑んだ。


「いえ、ご主人様が疲れているのはわかっています。でも、寂しいです。」


そう言ってゼロは俺の腕に身を預けるようにしてきた。


「お前はいつも俺に尽くしてくれるな。」


「それが私の存在意義ですから。」


ゼロは俺の腕に身を預け、目を閉じて安らぎを感じているようだ。

周囲を見渡すと、部屋の光が彼女の黒髪を照らし、穏やかな雰囲気が漂っていた。

倉庫街の中でもこの場所は特に静寂で、心地よい風が心を落ち着かせてくれる。


しばらく2人のこの時間を堪能するのだった。


「お手数をおかけして申し訳ございません。」


そう言ってゼロは俺の腕から離れた。


「いつも凛として真面目なお前にしては珍しいな。何かあったのか?」


そう、いつも真面目で凛としているゼロがここまで自分の弱みを見せて甘えてくるのは珍しいのだ。


一番最初の眷属であるゼロは眷属の中では「母神」に位置する。

つまりゼロは俺の次に偉く、このミソロジーの世界の中では一番偉い存在になる。

なので、常に真面目で凛としており、皆の母親的存在にあたるのだ。


ゼロは少し震える声で言葉を紡いだ。


「いえ特には御座いません。ただ…こうしないといけない気がしただけです。」


ゼロはそう言いながら顔を下に背け、俺の胸に触れてきた。


「すまないな、ゼロ。名残り惜しいが時間がないんだ。これで許してくれ。」


俺はゼロの頭を優しく撫でながら言って、そっとゼロの額にキスをした。


「ゼロ、アイテム整理とチートの確認は終わった。次に動作確認に向かうが大丈夫か?」


ゼロはそっと俺から離れ「大丈夫です。」と答えると身だしなみを整えて、いつもの凛とした真面目モードに戻った。


ちなみに、チートの説明はいらないよな?


よくあるアイテム増殖系だ。減らない・取得・使用でMAXの無限収納。これに生命力も含まれている。

ちなみにステータスもMAX・限界突破・攻撃・防御限界突破・MP減らない等だ。

無敵にしないのは攻撃を受けるとよくバグるからだ。


そんな設定を思い出しながら、俺たちは倉庫街を後にし、訓練所に向かった。




訓練所に着いた俺たちは一通りの動作を行った。

無敵設定の案山子に殴る蹴るや剣で切ったり、魔法で攻撃したりと色々試した。


何故そんなことをしているのかって?システムが更新されると色々と不具合やチートが反映されなかったりすることがある。


昔、システムが更新された時、無敵コードが切れていて訓練所の案山子を殴った際、訓練所とその周辺が半壊したことがあって、正直泣きそうになったよ。


だからこそ、こうしてチェックしておかないと何が起こるか分からない。

それでも不具合やバグは起こるんだけどね。


「一通りチェックは終わったから、ゼロ。俺は一度戻る。」


俺は一通りのチェックを終え、新システムの確認をする為に、ゼロに話しかけた。


「そこでゼロに頼みがある。この世界に新システムが導入されている事は知っているな。」


「はい、多積層階層システムですね。」


「ああ、そうだ。だからゼロ、お前とベアトリーチェでこの世界の管理と新たに追加された物等を調べて欲しい。」


俺がそう言った瞬間、ゼロの顔が強張った。


「それは、ご主人様が戻られないということでしょうか?」


「いや、先にも言ったが、向こうに行くと戻ってこれるかが分からないからな。おそらくは大丈夫だと思うが、念のためだ。」


俺はゼロに近づき、優しく頭を撫でながら答えた。


「招致致しました。創造主様の御心のままに。」


ゼロは俺から離れ、綺麗に頭を下げて返事をした。

それを確認した俺は、ミソロジーを一旦後にし、現実世界に戻った。



俺は気づかなかった。

頭を下げたゼロの頬から一滴の涙が零れていたことを。




「お帰りなさい、遅かったですねマスター。」


VRロビーに帰って来た俺に声を掛けてきたのは忙しそうに作業をしているナビーだった。


「ただいまナビー。えらく忙しそうだがどうしたんだ?」


ナビーは高速でプログラム画面を3つ同時展開ではしらせながら答えてくれた。


「マスターがミソロジーでイチャイチャしている間に、新規導入部分をスキャニングしていました。」


そう言って、ナビーは簡潔に今回の新規導入部分を説明してくれた。


ストーリーモード


今までに集めてきたデータを元にランダム生成されたVR世界を試験的に行う為、別サーバーでプレイする事になるらしい。

ただし、一部の既存データを反映させる事が可能らしく現在それを行っているとの事。


多積層階層システム


アナザーワールドシステムの根幹と言えるシステム。

俺のデータで話をすると、ミソロジーの世界を頂点に下位階層に新たな世界を構築する事が可能となるシステム。

ミソロジーのデータがそのまま反映されるので、一から構築する必要が無く、ミソロジーをUPdateさせていけばそのまま下位の世界にも反映される様になるとの事だ。

後は、各調整を行っていくことで新たな世界を気軽に造り出せる様になるシステムだそうだ。


これも試験的導入で別サーバーで行われている為、今回のUPdateは別サーバーの増設と試験導入によるストーリーモードと多積層階層システムの試験運用になってるとのこと。

要は、別サーバーにストーリーモードと多積層階層システムを準備したからテストプレイよろしく!ってことだそうだ。


ナビーは今、その準備をしているとのことだ。


じゃ~最初にミソロジーに行かずにプレイしてたらどうなったんだ?と聞いたら、初期状態でプレイしていたらしい。


コイツ…っと思いながら、適当に雑談をしているとどうやら作業が終わったようだ。


「マスター終わりました。」


ナビーはそう言って開いてた画面を閉じて説明してくれた。


「マスター、今回は別サーバーによるテストプレイがメインになっているそうです。

一応、既存データを反映させることが可能らしいのですが、こちらからデータを送るだけなのでどこまで適用されているかは不明です。

また、調整や修正などもこちらからそのデータを送らないといけない二度手間っとなっております。」


要するに今回は完全なテストプレイになっているみたいだ。

こちらから修正や改善点などを送りフィードバックするみたいだ。


俺は成程と思って、また一からやるのかと考えてたら、どうもそうじゃないみたいだ。

ミソロジーの5倍のデータ量で構成されており、新しいオープンワールドみたいなゲームになっているらしい。


つまり、公式で作ったデータを元にこちらのデータと掛け合わせて自動生成される仕組みになっていて、公式が作ったゲームデータベースに自分の世界観を反映させて遊べるとの事だ。


「なるほど、多積層階層システムのテストも同時におこなってるんだな。」


どうゆう事かと言うと、多積層階層システムの下位世界の自動生成プログラムのテスト。

こちらからデータを送ることで反映されてれば成功ってところか。

ま~何せよ楽しみだ。


「マスター行かれるのですか?」


俺がログインの準備をしているとナビーが声を掛けてきた。


「あぁ。っても今日は疲れてるから様子見かな。本格的にやるのは仕事が休みの日にする。」


「了解しましたマスター。ではお願いが幾つかあります。」


そう言ってナビーは幾つかのお願い事を言ってきた。


・各種簡単な動作確認。(歩く・走る・ジャンプ・しゃがむ等)

・各種攻撃モーションの確認。(剣や槍・魔法等のモーション確認)


攻撃モーションや動作はオリジナルを弄って好きなモーションに書き換えてるから反映されてるか確認して欲しいそうだ。

特に弓や魔法などといった遠距離攻撃は挙動がおかしくなりやすい為、何回もやって欲しいそうだ。


次にアイテム関連


・アイテムの使用や性能・効果等

・生産時の挙動や効果の有無等

・建築時のディテールの反映等、多岐にわたってお願いされた。


「ナビーさんや…それって、デバッグ作業ですよね…」

「違います。」

「いや、どうみても…「違います。」」

「…」

「違います。」

「いや、何も言ってないんだが…」


どうやら、頑なにデバッグ作業だと認めたくないらしい。

機嫌が悪いのだろうか?

AIにそんな感情があったかな?


まぁ~そんな馬鹿なことを考えながらログインの準備をするのだった。


「ナビー、今日は疲れてるから全部はできないぞ?」


「分かっております。あくまでもお願いなので、全てやってもらうのは次回以降になります。」


次はデバッグ作業なのね…

俺は愕然としながらログインするのだった。


「んじゃ~いってくる。」


ナビーに声を掛け、目の前に現れた画面に「データの引継ぎを行いますか?Yes・No」の画面が現れ、俺はYesを押してストーリーモードを始めたのだった。


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