第2話 プロローグ 1
「ただいま~」
疲れ果てた身体を引きずりながら、俺は夜勤明けに家に戻ってきた。
ドアを開けると、サポートAIであるナビーが優しく迎えてくれた。
「おかえりなさい、マスター。Creation Worldのバージョンアップが届いています。」
ナビーは俺がCreation Worldを購入した時に付いてきたサポートナビゲーションAIだ。
正直、ナビーがいなかったら俺はCreation Worldを放り投げていただろう。
要はそれほどまでに、Creation Worldという世界構築AI育成プログラムは複雑だったのだ。
当初はゲームとして発売されるもあまりの複雑さに自主回収させられ、簡略化されるほど一般向けではなかったのだ。
とはいえ、簡略化されても膨大な情報量に根を上げるものが続出した。
簡単に言うと、サンドボックス型に形成されたのだが、世界やキャラクター等のデザインを自分でしなければならず、既存のデータがあるもののあまりデザイン性がよくなかった。
そこは好みの問題なのだろうが、俺は気に入らなかったので一から構築とデザインをはじめたのだ。
ただ、これが問題だった…
そう、沼なのだ。
デザイン関係やプログラム系を触った事がある人なら分かると思うが、選り良いものを作ろうとするとズブズブとはまっていくのだ。
そこで登場するのがナビーことサポートナビゲーションAIだ。
AIに調整やデザイン等をさせる事が可能なのだが、一つ問題があった。
そう、まっさらのAIだったのだ。
Creation Worldの構築より先にAIを育成しなければならなかったのだ。
そのために、俺は数多くの電子書籍を購入し、日々それらを学びながらナビーを育てていった。
ゲームプログラミングの基礎から応用まで、デザイン・ファッション性、人間の動作やモーション等、それらをナビーに教え込むことは容易ではなかったが、俺はCreation Worldに自分の理想の世界を作り上げるために、決して諦めることはなかった。
そうして5年かけて造りあげたのが「ミソロジー」という世界だ。
ま~まんま神話の神様や悪魔・英雄等をふんだんに詰め込んだ世界だ。
正直、俺の趣味が詰めに詰め込まれている。
長々と説明したが、要はそのCreation Worldのバージョンアップが届いたのだ。
ナビーは軽い挨拶をしながら、新しいバージョンUPの通知を伝えてきた。
「今回のアップデートでは、新機能として『ストリーモード』が追加されました。
これにより、冒険の進行を自分の行動で左右でき、複数のエンディングを迎えることが可能になります。ランダム生成や一から構築することもできますが、ストリーモードでは物語に深みが加わります。」
俺は料理の準備をしながら興味津々で聞き入る。
「具体的にどんなストーリーがあるんだ?」
ナビーは項目指差しながら説明を始めた。
ちなみにだが、ナビーは丸い球体に目と手が付いた簡略化されたデザインのホログラムだ。
「例えば、最初は何もないところから始まり、成り上がりたいなら商人や冒険者の道を進むことができます。王道の成り上がり系ですね。また、自分の国家を築く覇王伝もあります。他にも、全てを破壊する魔王伝や、冒険者として世界を旅する冒険譚など、さまざまなストリーが用意されています。」
俺は興奮を抑えきれず、料理の手を止めてしまった。
「へぇ~それはすごいな。自分の選択次第で、どんなエンディングに辿り着くのか分からないマルチエンディングか。」
ナビーはうなずきながら続けた。
「そうです。また、ストーリーの中で出会う仲間や敵、発生するイベントも全てが、あなたの行動によって変わります。新しい世界で冒険者としての人生を楽しんでください、マスター。」
「へ~すごいな。全部やってみたいが…オンライン管理だからリセットが効かないんだろうな…」
俺は料理を作る手を止めてしばし考え込んでいた。
「マスター…焦げてます」
今日のご飯は焦げた肉入り野菜炒めだった。
苦い飯を食べ終えた俺はナビーと会話した。
「導入されたのはそれだけか?確か多積層なんちゃらってのがあった気がしたが?」
「はい。ありますね。」
ナビーが項目をスクロールしながら説明してくれた。
「多積層階層システムの導入ですね。どちらかと言えばこちらが本題です。」
多積層階層システム
Creation Worldは一つの世界しか構築できなかったのが、このシステムの導入により複数作成出来る事が可能となったのだ。
とは言え、やたらめったに作れるわけではなく、シュミレーション要素が組み込まれている。
Creation Worldはサンドボックス型をやった人ならわかると思うが、素材や材料等を集め生成をしなければならない。
キャラやモンスターを生成するのに素材とは別に生命力がいる。
この生命力ってのがネックで所謂、シュミレーションゲームでいうお金だ。
生命力は自分の世界で造った人口と幸福度によって増加する。
ただし、自分の作ったキャラクターは眷属化される為、生命力に反映されないのだ。
つまり、自発的に生れたNPCが対象になっている。
その為、自分の好き勝手に造っていると直ぐに死んだり暴動を起こしてしまうのだ。
では何が問題なのか?
不幸度だ。
怪我・病気・災害・餓え・争い・戦争等などあらゆる要素でこれが溜まっていくのだ。
これが一定値たまると、暴動・反乱・戦争となり最後は破壊神が産まれるのだ。
この破壊神ってのがネックで、世界の化身と設定されている。
つまり自分の造りあげた世界そのものに全てを破壊されリセットされるのだ。
救済処置としてバックアップシステムもあるのだが…正直リセットされると何とも言えないやるせなさがこみ上げてくるのだ。
ちなみに俺は数十回消されて挫折しかけた。
っと、話がそれたが、それらを踏まえて幾つもの世界を構築することが可能となったわけだが…
世界が増える=リスクの増加というわけだ。
そんな説明とやりとりを終えた俺はナビーにバージョンアップとシステムチェックをお願いして風呂に入ることにした。
「了解しました、マスター。それでは、システムチェックを開始いたします。」
バージョンアップは済んでたのね…
風呂から上がり、気分爽快になった俺はさっそくCreation Worldを開始すべく、VR機器に寝転んだ。
そう寝転んだのだ!
そう!これは公式が出した専用のフルダイブ機器なのだ!
これを買った時は嫁に怒られたな…
え?
結婚してるのかって?
当り前じゃないか子供も2人いるぞ。
一人寂しいオッサンがゲームして…の話じゃないぞ。
っとま~一人寂しい突っ込みはほっておいて、さっそくCreation Worldを起動
今更、VR機器の説明とかいらないよね?
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