第10話 病の理由

 夕餉は何事もなかったかのように届けられ、シディアンはウェイリーとともに夕餉を食べる。シディアンが帝位継承の陰謀に巻き込まれたことを申し訳なく思っているのか、ウェイリーは黙ったまま箸を進めている。しばらく考えた末、シディアンは懐から音喰いの香炉を取り出すと、そっと卓子の上に置いた。

「そろそろ落ち込むのは止めなさい」

 シディアンの声でウェイリーの箸を進める手がぴたりと止まった。目を真っ赤にしたウェイリーは、先ほどからずっと己のことを責め続けているようだ。

「私を巻き込んだと気に病むのは理解するが、いい加減しょげ返るのは止めなさい。元より君の命が狙われていることは知っていたのだから」

「シディアン様が私の身を案じたがゆえに、側に置いてくださったことは本当に感謝しております。ですがこのまま犯人の手口が深刻な段階まできてしまったら、もしもシディアン様の持つ薬が奪われてしまったらと思うと不安でなりません。初めに全て話しておくべきだったと……」

「薬など皇城にいくらでもある。特に今回は、殿下に処方する薬の全てを皇城内のもので賄っているのだから、君がそこまで責任を感じる必要はない」

「ですが……もしも……。考えたくはありませんが、もしも犯人が慎王殿下だった場合、それこそ薬庫を狙うことだってあるのではないでしょうか……」

 よほど思い悩んでいたのか、一言口にすれば止め処なくぽろぽろと口から不安が零れ落ちる。初めて慎王と相対した際に見せた彼の強い眼差し。背筋を伸ばし、堂々とすれば皇子すら黙らせることができる男なのに――こうして縮こまり、泣きそうな顔で眉尻を下げているウェイリーは、あどけない少年のようでもあり、寒さに震える子犬のようにも思える。

 周りに声が漏れることはないのだが――シディアンは声を落とすと事も無げに言った。

「心配は無用。……ここだけの話、泰王殿下に処方しているのは薬とも言えぬほどのもの。しいてあげるなら『体力増強、健康補助』程度」

 ウェイリーの瞳が大きく見開かれ、真ん丸になる。とんでもないものを見たような驚愕の表情を浮かべ、大きく仰け反った。

「ええーっ!? そ、それは本当なのですか!?」

 ウェイリーの大きな声が部屋の中に響き渡る。音喰いの香炉を置いておいて良かったと心からシディアンは思った。

「声が煩い。そこまで驚くことではないだろう」

「お、驚きますよ! だって、シディアン様は泰王殿下の病を治すために来てくださったのでしょう? もし万が一太子殿下の病が治らなかったら……処方した薬は体力を回復させる効果のみであって病を治す効果はないなんて、そのような事実が誰かに知られてしまったら……!」

 ウェイリーは慌てて声を潜めるが、興奮しながら語っているせいかときおり声の調子が大きくなっている。泰王に与える薬の効果については、官医たちにもっともらしい効能を並べ立てて説明した。しかし実のところそれは建前であって、体力増強と健康補助以外の効果は一切無い。

「人聞きが悪いな。誰も病を治さぬ、治らぬとは言っておらぬだろう」

 真っ青な顔をしたウェイリーを横目で見ながら、シディアンは続ける。

「馬鹿正直にあの場で説明したら、太子殿下の命を狙う者の思う壺だろう。太子殿下の病……いや、病のような症状を治癒させるために、わざと薬で治療すると言ったのだ」

 実際のところ根本たる原因を絶ったとて、泰王の体力が持たなければ意味がない。その意味で言えば、健康補助を中心とした処方はとても意味のあることなのだ。

「では太子殿下は病ではないと……? まさか、呪詛の類でしょうか!?」

「近いが少し違う。太子殿下は父である皇帝陛下の業を背負わされたのだ」

「もしや……皇帝陛下がに原因が……あるのですか?」

 この青年は本当に勘が鋭いし理解が早い。なんの官職も持てなかったのは気の毒であるが、本来の実力を役立てる場所に配置されていたならば、恐らく有能な家臣となっていたことだろう。実に惜しいものだ、とシディアンは思った。

「今頃レイも動いているはずだが……元より今夜には殿下の病の原因を対処するつもりだったのだ。君も一緒に行ってみるか?」

 泰王は不治の病ではないし、そもそも病ですらない。

 そして呪いの類ともまた異なっている。

 ゆえに彼は夜、皇城にくり出すつもりなのだ。

 ――どうする?

 シディアンの誘いを、ウェイリーは二つ返事で承諾した。


    * * *


「さすがに動きながら香炉は使えぬ。くれぐれもこの先は、みだりに大きな声を出すことがないように」

 特に客室の周り、そして宮殿の周りには襲撃者のせいで衛兵を増やして貰う羽目になった。声を出せば一瞬で見つかってしまうだろう。

 シディアンはウェイリーを抱え上げ、あらかじめ開けておいた格子戸からそっと周りの様子を探る。衛兵は確かに戸の周りに配置されてはいるが、警備としてはまだ緩い。衛兵の視線が逸れた一瞬の隙をついて瞬くより速く、一陣の風が吹き抜けたかのように飛び出した。

「……!」

 シディアンの腕の中、ウェイリーが己の口を押さえて眼下の光景を凝視する。皇城内のいかなる建物よりも高い場所から見下ろしているのだ。きっと彼が初めて目にする光景に違いない。

 ウェイリーを抱えたまま、夜幕に覆われた皇城の上空――広大な皇城全てが一望できるほどの高さを、滑るように駆け抜ける。緊張からかウェイリーがぎゅっと胸元を掴み、それが先日抱き上げられたばかりの自分の姿と重なって思え、嬉しさと悪戯心で辛抱堪らず、シディアンは口の端を僅かに上げた。

「シディアン様、我々はどこへ向かっているのですか?」

 不安げに尋ねたウェイリーに『静かに』と目くばせを送る。ほどなくして音も立てずに二人は瑠璃瓦の上に降り立つ。着いたと思ったのか腕の中からウェイリーが降りようとしたため「まだだ」と小声で呼び止めた。

「私は皇城のことには疎いから、君に聞きたい。あの大きな宮殿はなんだか知っているか?」

「あれは麗慶殿で、国を挙げての大きな儀式などを行う場所です」

「では、通常、皇帝が政務を行っていたのはどこだ?」

「ええと……陛下が政務を行っていたのは万宸殿が多いかと。他に大師様が執務を行われるのは……」

「それだけで十分だ、助かる」

 手短に答え、シディアンは再び跳躍を始めた。ひときわ高く聳え立つ鐘鼓楼の屋根の上。刻を奏上するにはまだ早く、辺りに人の気配はないようだ。周りの様子を入念に確認したあと、ようやくシディアンはウェイリーのことを降ろした。

「よし――この辺りなら喋っても大丈夫だ。ただし小声で」

 恐る恐る屋根の上に降り立ったウェイリーは、シディアンの腕にしがみ付いたまま辺りを見渡す。

「し、シディアン様、一体ここで何をなさるおつもりなのですか……?」

 上背があるぶん動き辛いのか、へっぴり腰で震えるウェイリーの姿は、少しばかり滑稽だ。笑いを堪えながらシディアンはウェイリーの腰を抱き寄せる。

「あそこを見なさい」

 指差したのは、かつて皇帝が御座していたであろう万宸殿の方角だ。暗闇の中、宮殿の上空を埋め尽くすように蠢くものがある。雲のようにも見えるが、遠くから見れば明らかに雲ではないことに気づくだろう。悍ましく蠢くそれらは一つではなく、簡単には数えられぬほど沢山、他の宮殿のほうまで広がっていた。

「あ、あれは一体……」

 刹那、カッと紫の光が走り抜け、禍々しい集合体の一角を消し飛ばす。傍目に見れば暗雲から落ちた雷のように見えるかもしれない。しかし、紫の光は音もなく雲間を突き進み、重く上空にのしかかる黒雲を切り裂いた。キエェと僅かな声が幾つも聞こえたが、それらは雷鳴の中に書き消える。

「あそこでレイ(雷)が戦っている」

「レイさんが!?」

「そう。私だけでは手が足りないのでな。彼女にも夜な夜なあれらの退治を頼んでいる」

 『あれら』と呼ぶものがなんであるか、ウェイリーには分からないことに思い至ると、シディアンはもう一言付け加えた。

「あれは亡き皇帝に恨みを持つ者たちよ」

 それが何を意味しているのか気づいたようで、ウェイリーはシディアンを見上げ、物言いたげに口を開き、声を殺して息をのむ。彼は本当に勘が鋭く理解が早い――シディアンは、ときおり瞬く紫の光を見やりながら、その下にある万宸殿に目を向けた。

「崩御した皇帝は、誰も信じることができず、相当な人数の家臣たちを処刑したのだったな。彼等は鬼となり皇帝の元に押し寄せた。まず初めに――先帝が長きにわたり臥せっていたのは、彼等の恨みが強過ぎて怨念の影響を受けていたからだ。小さな恨みも山のように積もれば侮り難きもの。」

 皇帝はあまりにも多くの人々の命を奪い過ぎた、ということ。そして恨みの力は自らの身を亡ぼす切っ掛けとなった。自業自得とはいえ、悲惨な結果といえよう。ウェイリーは沈痛な面持ちで目の前に広がる光景を見つめている。

「すでに陛下もこの世におられないというのに。陛下が崩御されてもなお、彼等は陛下のことをまだ許すことができないのですね……」

 ――が、すぐにハッとしてシディアンのほうに向き直った。

「あの、それは皇帝陛下の話ですよね……? では太子殿下は……泰王殿下は?」

「見ての通り、皇帝が死してなお彼等は恨みを抱き続け、皇城から離れることもできず留まっている。泰王殿下は現在のところ、もっとも帝位を継承するに相応しいというのが世間の評判だ。皇帝を恨むだけでは飽き足らず、彼等は次の皇帝にも狙いを定めたというところだろうな」

「そんな、なぜなのです!?」

「それは……。桃莱国を滅ぼすためではないか」

 皇帝を恨むあまり、次の皇帝になる人物も彼等は恨んでいる。いっそ根絶やしにしてやりたいと考えているのかもしれない。だからこそ、虐殺とは無関係の泰王のことも、彼等は狙い始めたのだ。

「なんということでしょう! つまり我々がすべきことは――わっ!?」

 話の途中でシディアンは再びウェイリーを抱え上げ、瑠璃瓦から飛びあがる。間髪入れずに突っ込んで来たのは、先ほどレイと対峙していたはずの鬼。恐らくは様子を見物していたシディアンたちを、たまたま見つけて闇雲に襲い掛かってきたのだろう。元は下級の武官だったのか、簡素な鎧を纏っている。目は窪み手には鎖、首には痛々しい赤い線が残っていることから、何かしらの刑罰を受け処刑された者なのだろう。

「振り落とされぬよう、しっかり掴まっていなさい」

 シディアンがそう言うと、ウェイリーがぎゅっと首に縋りつく。その拍子に頬と頬が触れ合って、ウェイリーの頬の温かさにぎくりと身を固くした。考えるべきではないと分かっているのに、頭の中がウェイリーのことで一杯になりそうになる。慌ててシディアンは邪念を振り切って、鬼に対峙した。

 声にならぬ咆哮を上げ、鬼は空気を震わせ二人めがけて襲い掛かかる。鬼にも幾つか種類があって、理性の消し飛んだ者や生前の亡念に縛られた者、それに生前の記憶もしっかりして、理性的な会話の可能な者など様々だ。そしてまさに今、シディアンに襲い掛かった武官の鬼は理性の消し飛んだ者に属している。――それは話し合いでの解決は不可能という意味合いだ。シディアンは瓦の上にウェイリーを降ろし、彼が落ちぬよう片腕でしっかりと抱き抱え、残った片腕は真っ直ぐに伸ばし、その指を鬼へと差し向けた。

「雷公点召、百邪を駆逐し退けよ!」

 迫る鬼に降り注ぐ紫電が弾け、白刃の輝きとなって視界を埋め尽くす。叫ぶ声も雷鳴にかき消され、瞬時に鬼は雷光の中に消え去った。

 あとに残るのは未だ万宸殿の上空で猛々しく明滅する紫の光のみ。シディアンがそっとウェイリーの肩を叩くと、硬く目を瞑っていたウェイリーはようやく目を開けた。

「先ほどの鬼、は……?」

「もう消えた。あとのことはレイに任せておけば大丈夫だろう」

 ウェイリーの視線は、黒雲のようなものと激しく衝突する雷霆に向けられる。

「レイさんお一人で、ですか?」

 彼はレイの仙源郷での姿を知っている。見た目だけなら大人しい侍従の少女。しかしシディアンは彼女の本来の姿を知っており、彼が心配するようなことは微塵もないのだ。

「彼女を心配する気持ちは有り難いが、戦うことこそ彼女の本分というもの。鬼如きに倒されるようなやわではないから、安心しなさい」

 気づけば黒雲はすでにずいぶん小さくなっている。先ほどは皇城の一角を埋め尽くすほどであったのにも関わらず、だ。彼女の仕事は想定以上に速かった。

「これで泰王殿下の病も治るということでしょうか?」

「恨みは根深い。一日で、というわけにはゆかぬが、何度か同じことを繰り返してゆけば完全に消え去るだろう。なにせ、恨む相手はすでにいないのだ」

「あの、一つ腑に落ちないことがあります。慎王殿下は全く病の様子はありませんでしたが、それは何故なのでしょうか?」

「ああ、それはな……」

 いけすかない慎王の顔を思い出し、シディアンは口の端を歪める。

「皇帝は残酷であったが、臣下の裏切りを常に気にする程肝っ玉は小さい。対して慎王は……、後先考えず剣を抜いては人に向けるような馬鹿であり、喜び勇んで戦に赴き、人を切っては血を浴びるような……まあ、これは私の勝手な想像だが。とにかく慎王は恐ろしい男。いかに死んだ怨念とはいえ、自分たちより恐ろしい男に向かっていくよりは、穏やかで弱そうな泰王を狙うのであろうよ」

「なんだか……理不尽な話ですね」

「鬼であろうと、怖いものは怖いのだ」

 ともあれ泰王の件に関しては心配は無用だと、ウェイリーに告げた。しかし、彼はまだ気になることがあるようで、そわそわと落ち着かない様子だ。

「どうした?」

 問われて意を決したのか、彼の落ち着かない視線はすぐに定まった。

「はい。私は確かに帝位を継ぐ者ではありません。ですが、陛下のお傍にずっといたのに、なぜ鬼たちは私のことを狙わなかったのでしょうか?」

「ああ、それは……」

 シディアンはウェイリーの背後に視線を移す。そこには一人の老人が浮かんでいた。穏やかな笑みを浮かべたその老人は、丸襟の立派な紫服を見につけている。恐らく彼は、処刑されたウェイリーの祖父――彼がウェイリーのことを守っていたのだろうとシディアンは考えた。

「恨みを持って人を害する者もいれば、守るために留まる者もいる、ということ」

 老人はウェイリーに微笑みかけ、シディアンに揖礼をすると、静かにその場から消えてゆく。シディアンはウェイリーにこのことを話すべきかと悩んだが、老人はすでに消えてしまったし、彼の顔を見てもウェイリーは気づかない様子であったので、細かい話は客室に戻ってからにしようと思った。


    *


 衛兵に見つからぬよう再びこっそりと客室に戻り、シディアンはウェイリーに先ほどのことを語って聞かせた。確かにウェイリーは皇帝の側仕えを長らく勤めていたが、処刑された彼の祖父が彼のことを守っていたこと、それに彼自身が被害者でもあり、恨む対象には入っていなかったのだろうと。

「そうでしたか……祖父が私のことを、守ってくださっていたんですね……」

 シディアンの話を感慨深げに聞きながらも、ウェイリーの料理を作る手は止なっていない。この客室に調理場が備え付けられているわけではないのだが、ウェイリーは刃物も使わず、火桶を使って湯を沸かし何やら煮込んでいる様子だ。

 客室に戻りがてらウェイリーは、御厨に立ち寄って残り物の食材を幾つか持ち出した。驚いて止めようとしたところ、彼は幼い頃より残り物を使って自らの手で食事を作るよう言いつけられていたそうだ。そのため彼はいつも夜半時になると人目を忍び、御厨で働く顔見知りの厨師たちが用意してくれた、余り物の野菜などを持ち出していたという。

(本当に彼は皇帝の側仕えでありながら、扱いは奴隷と変わりなかったのだな……)

 利発な彼のことだ、不当な扱いを受けている事実には、とうの昔に気づいていることだろう。死んだ皇帝のどす黒い悪意を見たような気がして、シディアンは身を震わせた。

「ところで、先ほどから何を作っているのだ?」

 そんなシディアンの恐れなど露知らず、ウェイリーは鼻歌交じりに料理を続けている。問いかけたことでようやく料理の手を止め、ウェイリーは嬉しそうに振り返った。

「はい。夜食としてお粥を拵えております!」

「粥?」

「はい! できました!」

 ウェイリーは器と匙を載せた盆を、シディアンの前に置く。微かに鼻腔をくすぐったる甘い香りに、思わずシディアンは器に顔を寄せる。

「これは真君粥といいまして、粥は粥ですが氷糖と杏の果肉を入れて煮込んでいるので、少し甘いと思います」

「真君粥、か。ずいぶんとたいそうな名前だな」

 見た目は白と黄琉璃の……まるで卵を割ったような色合いだ。しかし不思議とその色合いは上品で、甘い香りも優しく感じられる。神仙を連想させる即席の夜食を、すでに仙籍を失った自分が口にすると思うと滑稽だ。自嘲しつつも粥を口に運ぶと、味わい深さに驚いた。

「お口に合いますでしょうか……?」

 心配そうな心持ちで、向かいに座るウェイリーが見ている。

「その、本来はシディアン様に余り物で作った食事をお出しするのは、とても失礼だと思ったのですが、でも……」

「美味しい」

 シディアンの言葉に、ウェイリーの顔がぱっと華やぐ。

「君が仙源郷で作ってくれた夕餉を思い出した。……遠い昔のことのように感じられるが、ほんの数日前のことなのだな。……皇城に来てから、様々な料理を出されたが、正直に言えば君の料理が恋しかった」

 自分でも驚くほど素直な気持ちがぽろぽろと口をついて出てしまった。言い終えてから少々喋り過ぎたとも思い、恥ずかしさも覚える。それでも、目の前のウェイリーがこの上なく幸せそうな顔をしているので、まあ良いか、とさえ思ってしまう。

「わ、私も仙源郷でのことが忘れられなくて……それで、夜食にかこつけて料理を作って差し上げたかったのです。迷惑ではないかとずっと不安でしたが……」

「迷惑などではない。……むしろ、う」

「う?」

 言葉を詰まらせたシディアンは、聞き返されてその続きを言うことを躊躇した。改めて言うとなんだか恥ずかしいと思ったからだ。しかし結局ウェイリーに迫られて、とうとう言葉の続きを言う羽目になってしまった。

「う……嬉しかった」

 とても恥ずかしい。こんなことなら初めからサラっと言ってしまえば良かった――と思っても後の祭り。無駄に恥ずかしさだけが上乗せされてしまったような気がする。

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