リベンチマッチ。

スライムに負けた俺はピナ先生の魔法授業を受け、この世界の魔法について教わった。

最初は魔法の事を何も知らなくて、俺に魔法がホントに扱えるのかと未知の物を恐れる疑心感の様な拒絶があった。


それでもピナの協力もあり、俺にも魔法が使えるようになった。

魔法の面白さが分かり始めたおれは・・・今・・・


「魔法、面白くねぇ」


魔法に飽きていた。


理由は簡単・・・魔法操るが難しすぎた。

魔力を炎に変える事これを【魔力変化】と言うそうだ、魔力変化で魔法を使う事は出来た。

けど、魔法を操る【魔力操作】が出来ないでいた。


「・・・なんで、出来ないんだろうね?」

「俺が聞きたい。」


魔力を火へ変える魔力変化が出来たから、すぐに火の玉ファイヤーボールも出来ると思ったけど・・・難しすぎる。


あれから30分間ずっと練習を続けたが、一向に成長が無かった。火を出す事は出来てもその火を球体に変えて飛ばす事が出来なかった。

ピナはずっとイメージが大事としか言ってこない。


イメージと言っても・・・火の玉を飛ばすイメージが全然できない。

だって、俺にとって火は不可測な物なのだから。

そんな火を操るイメージが出来ない。


魔力を火に変えるのだって、俺はライターのイメージで火を出している。

ライターから火の玉が飛び出すイメージが付くか?

俺は無理だ。


「ナツ、集めた木に火を着

つけて頂戴。」

「あぁ、いいぞ」


火が枯れ木に移り燃え始める・・・焚火だな。


ピナは異空間収納で取り出したポットに近くの川で汲んで来た水を入れ、沸騰させる。

沸騰した熱湯に茶葉を入れお茶を作るとそのまま小さなマグカップに出来たお茶を入れ、くつろぎ始めた。


ピナの奴、絶対に飽きているな。


「おい・・・」

「勘違いしないでほしんだけど、別に飽きてるわけじゃないわよ。ただ少し退屈なだけよ。」

「それを飽きたと言うんだよ。」

「えへへ、バレた?」

「なんで、嬉しそうなんだよ?」


正論を言われて少し不機嫌な顔をするかと思ったけど、俺の予想とは対に嬉しそうに微笑むピナ。


なんか、楽しそうだな?

・・・・でも何だろう、この感情。


実はピナと初めて会ってからというもの、俺の心の何処かでピナに対して自分でも分からない愛情の様な感情があった。

それにピナのこの嬉しそうな笑顔がなぜか・・・懐かしく感じる。


「別に~・・ナツも一回休憩しようよ。お茶ナツの分もあるわよ。」

「・・・いや、でも」


俺はいち早く魔王を討伐して、元の世界に帰って雪菜を安心させてあげたいんだ。

今の俺に休んでる暇は。


「根を詰めすぎてもうまく行かないわ、元の世界に早く帰りたい気持ちも分かるけど休憩するのも大切よ。一回休んだら私がもう一度見てあげるから一回休憩しよう。ね?」


確かに一理あるな。

焦る気持ちが先走り過ぎてもいい事は無いしな。

よし、少しだけ休憩をして見るか。一度リラックスしたら魔法が出せるかもしれないしな。終わったらもう一度見て貰おう。


「わかった、一杯だけな」



「よし、じゃあピナ先生が劣等生のナツ君の面倒を見てあげるわ。」

「よろしくお願いします。」


休憩を挟み、心身ともに少し回復した所で再び魔法の練習を開始した。


「ところでナツはどんなイメージで魔法を使おうと思っている?」

「どんなイメージ・・・そのイメージが曖昧だから悩んでるんだよ。」

「なるほどね。」

「ちなみにピナはどんなイメージなんだ?」

「私はほぼ無意識よ!」

「はい?」

「いちいち、火を使って、丸めて、飛ばしてなんて考えるの面倒じゃない。だから適当に火の玉が飛んでいくイメージで・・・打つ。たぶん寝ながらでも出来るわ。」


そうだ・・忘れていたけどコイツは魔法の天才だ。生まれてから様々な魔法を操る事が出来るんだ。

俺はピナのイメージを参考にしようと思ったけど、凡人に天才の感性は理解できない。


まさか、こんなにも実感するとは。


「でもね、他の人は予備呪文を使っているわ?」

「予備呪文?」

「そう、魔法は基本的にイメージできれば呪文が無くても操る事が出来るわ。極限を言うと無言でも魔法は出せるわ。ほら。」


ピナは今度は手から小さな石の塊を出し、的に命中させる。

俺と話す方に集中して魔法は片手間に扱ってるように見えた。


「じゃあ、なんでピナは魔法名を叫ぶんだ?」

「かっこいいから」


聞くんじゃなかった。


「で、予備呪文ていうのは魔法のイメージを高める為の自分だけの詠唱の様な物かしら?例えば火の玉ファイヤーボールなら、【火よ、私の力となり、火の弾丸となり、敵を撃ち抜け。火の玉ファイヤーボール!!】みたいな?」

「なるほど予備呪文か・・・てことはこのさっき俺が空中から地面に激突しそうになった時に【草、愚かな人間を守れ草の盾リーフブレーカ】って言ってたけどあれも予備呪文か?」

「そうね。」

「ピナの場合だと予備呪文が要らないと思うけど、なんであの時は言ったんだ?ピナも少し慌ててイメージが難しかったのか?それとも難しい魔法だったのか?」

「あぁ~、あれはただナツをからかっただけ。」


なんとなく、そんな気はしていたよ!


「じゃあ、ナツも予備呪文で魔法を出してみましょう。」

「予備呪文は何でもいいんだな?」

「えぇ、好きに自分がイメージしやすい様にしなさい。コツとしては体内の魔力を体外に放出するイメージね。」

「体外へ放出?」

「そうそう。ほらナツも何か体内にある物を体外に放出した事ない?感情でも汗でも、何でもいいわ。」


体内にある物を体の外に出す?

感情で言ったら、怒りや、喜びだが、感情と魔法の結びつかないから多分ダメだ。

他には汗、涙、・・・これも駄目だ、全部無意識にやってる事だ。

こう、意識的に体に溜まった何かを体外に出す。それを火の玉ファイヤーボールと結びつける。

なるほど・・・わかったぞ。


「ピナ、俺分かったよ。」

「おぉ、いいね!今なら出せそう?魔法?」

「あぁ、魔法はな・・・ウンコだ!」

「そうそう!ウン・・・・へ?なんて?」


魔法は排便と一緒だ。

体内にあるのがウンコか魔力かの違いだ。

だから手から火球のウンコを排便するイメージで


「火の玉よ!我の体外へと排便したまえ・・・火の玉ファイヤーボール


俺の手から、ポンっと火の玉が勢いよく飛び出す。飛んだ火球が岩の的に命中した。


あぁ~なんて清々しい気持ちなんだろう。今まで体に溜まっていた物がようやく排出された気分でどこかスッキリしている。


「魔法ぅ、気持ちいい!!」

「・・・・ナツさん、少しの間は私に近寄らないで下さい、お願いします」


なんでだろ、魔法が操る事が出来てピナが一番喜んでくれると思ったのに、なぜか魔法が操れるようになる前より・・・いや、初めて会った時よりも距離を感じるんだが?


「なんで敬語なんだよ、ピナ?」


俺はピナに魔法を放った手を近づけるとゴキブリを見るように怯え、拒絶する。


「いやぁぁ!!こっち来ないで!汚い!!」


汚い?ピナは何を言っているんだ?


「どうした、ピナ急に?」

「いいから!!手を拭けぇぇぇ!!」

「手を拭けって?まさか、本当に俺が手からウンコを出したと思ってるのか?」


確かにウンコを出すイメージを下がそれはあくまでもイメージで実際に出たのは純潔の火だ。全く汚くない物なのに、そんなに嫌がるか?


「出たのは火の玉ファイヤーボールだって分かってるけど、、イメージで無理なの!!なんか臭い。」

「臭い訳ないだろ!!一回嗅いでみろ!」


俺は再びピナに手を近づける。


「ぎゃあぁぁ!!無理――、臭い!!」

「・・・嗅でない癖にいうなよ。」


このままだと話が進まないので不本意だが一度川に行き手を奇麗に洗い戻ってきた。


「・・・ナツ、今後はあの予備呪文は唱えないでね。」

「じゃあ、俺魔法使えないだろ。」

「・・・もう、使えなくていいよ。」


何だろ。

普通に悲しい。


「まぁ、どうしても使う時は心の中で唱えてね。」

「分かりました。」


そんな器用な事が出来るか分からないけど善処はしよう。


と。魔法を覚えた?タイミングで茂みの方で物音が聞こえた。

そちらの方を振り向くと俺の宿敵のスライムがいた。

ご都合的にも程がある。


「ピナ、スライムだ!」

「げぇ、タイミング最悪」

「俺、リベンジするよ。覚えた新しい魔法で。」

「え!魔法使うの・・・」


嫌そうな顔でこちらを見て来る。


「当り前だ!魔法を使わないでどうやって倒すんだ?」

「・・・予備詠唱は心の中で唱えてね。私は一時的に心の声を聴こえなく魔法を使うから拒絶魔法ノイズアウト

「どんだけ嫌なんだよ!!」

「さぁ、見とくからあとは勝手にやって。」


今はピナの事はほっといてスライムとのリベンジマッチに集中しよう。


「よう、スライム。ここで会うのも100年ぶりだな。」

「一時半ぶりぐらいよ。」

「ここで会えたのも何かの偶然だな。」

「いえ、ここらはスライムの生息地帯だから必然ね。」

「俺が覚えた新しい魔法でお前を倒し、リベンジを果たしてやる。」

「本当に魔法を使うの?」

「さっきからやかましい!!」


全く、こっちがいい気分になっているんだから邪魔をしないでもらいたい。

ピナは黙って俺がスライムを瞬殺する所を見届けてもらいたい。


「ふふ、すまないな。スライム!さぁ、存分にやり合おうぜ!」


敵のスライムを睨み臨戦態勢に入る。

お相手もやる気溢れるように体を震わせている。


先に仕掛けたのは俺だった。


前回は先手をスライムに譲ったが今回はこちらが先手だ!

もう、油断はしない。集中して魔法を放ちスライムに勝つだけだ。


「これでもくらいなスライム!!・・・・・・・・・・(火の玉よ!我の体外へと排便しまえ)火の玉ファイヤーボール!!」


スライムに向かい全力で魔法を唱えた。・・・しかし魔法が出てこなかった。

先程と全く一緒の様にやったのだが何故か。魔法が一切ぜる気配がなかった。

俺は冷や汗が止まらなかった。


「・・・ピナ、なぜか魔法が使えないんだけど。」

「多分だけど。魔力切れね!」

「魔力切れ!!でも俺魔法はまだ1回しか使ってないぞ、俺の魔力量なら、少なくても5回は打てるはずだよな?」

「でもナツ、練習中にずっと魔力で火を着けてたじゃない。」


確かに、火の玉ファイヤーボールの練習中ずっと、魔力を火に変化していたがあれだけでも魔力って無くなるのか?


火の玉ファイヤーボールを打った時に何かスッキリした感覚は無かった?」

「言われてみれば、そんな感覚はした」

「それ、魔力切れの合図。」


俺らの会話を聞いたスライムは俺に勝ち目がないのを分かると再び俺の顔に飛びつき始めた。

俺は抵抗す事も出来ずに再びスライムの攻撃を受けた


「ごぎゃばあぁぁごぼぼぼあごぉぉぉ」


これが異世界に来ての2度目の敗北だ。

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