#2

「気をつけて。ビット……宙に浮いてる方は、電撃で攻撃してくるわ」

「電撃ね、りょうか───っ、待って、気をつけようがなくない!?」

「直撃しないように頑張ってね、って話よ」


 まずは一撃、ビットの片方を斬り上げると、先述の通り、身体の先端から電撃を放って反撃してきた。

 威力自体は大したことはないけど……この攻撃に対しては、鎧も盾も、あまり意味がなさそうだ。


 俺の戦闘スタイルは、どちらかというとヒットアンドアウェイの形だ。素早く切り込み、距離を取って、相手の攻撃は盾で受け流す。それを基本としている。

 だから、どれだけ足が早かろうが関係ない、魔法や兵器での攻撃をされると、正直かなり苦しい。先にこちらから倒したほうがよさそうかな。


「努力するよ。レンガードの方は───っと。器用だけど、威力は大したことなさそうだな」

「えぇ。物理攻撃以外にできることはないから、動きをちゃんと見ておけば、それで大丈夫だと思うわ」


 電撃を受けて怯んだ俺に、次はレンガードが襲いかかる───こいつらは、仲間同士で連結し、長柄の武器のように身体を振り回して攻撃してくるみたいだ。

 とはいえ、もともと小柄……俺の膝よりちょっと高いくらいの位置に頭部があるようなサイズなので、連結したところで、そのパワーもたかが知れている。

 直撃したとしても、最弱の蛮族と名高いコボルドと同じか、それよりちょっと強いくらいのダメージで済みそうだ。


「オッケー。……しかし、数が多いな」


 反撃をかわし、再び同じビットに切りかかったが、既のところで避けられてしまった。宙に浮かれているとどうもやりにくい。

 それに……このペースだと、かなりの回数の反撃を受けることになりそうだ。

 電撃の一発一発は大したことないし、体当たりに当たることも少なそうだけど、だからと言って全くの無傷では済まないだろう。

 ルフィナのマナにだって限界はある、ひたすら回復し続けてもらう訳にもいかない。

 どうにか、もう少し撃破のペースを上げていきたいところだけど……


「ルフィナ、何か攻撃手段って持ってる?」

「攻撃……そうね。なら、私の得意技を見せようかしら」


 後方を振り返らずにそう尋ねると、ルフィナはそう返し───数瞬遅れて、俺の背後から、ビットよりすこし小さいくらいの氷塊が飛んできた。

 そして、それは見事に、俺が一回切ったほうのビットを撃ち落とした。


「今のは?」

「スノウエルフの力よ。氷を生成して、それを操れるの」

「なるほど。これなら、撃ちもらした奴は任せても良さそうだな」


 それに続けて、もう片方のビットを叩き切る。やはり一撃では倒せなかったが、反撃をいなしている間に、ルフィナがもう一発氷塊を撃ち込んでくれて、無事に撃破できた。


「ははっ。結構いい連携ができてるんじゃないか?俺たち」

「かもね。……さて、後は魔法を使わなくても、なんとかできそうね」


 残った二体のレンガードの体当たりは、さして脅威ではない。

 一発だけ、盾で受け流すことに失敗してしまったが、その威力はビットの電撃の方が痛かった程度のもの。後で回復魔法を一回使ってもらえば、それで充分治る傷だ。


「つまり、ここからは俺一人でどうにかしてね、ってこと?」

「そうは言ってないわよ。忘れたの?私、呪歌も使えるって話」


 そう言えば、そんなことも言っていた気がする。

 ある程度余裕ができたので、振り返ってルフィナの姿を確認すると、彼女はいつの間に取り出したのやら、ハープを抱えているところだった。


「勇壮なる調べが、貴方を奮わせん……ってね」


 そして、軽やかにその弦を弾いてみせると、軽快なメロディを奏で……それを聞いているうちに、不思議と心が沸き立つような、そんな感覚があった。

 たしか、【モラル】とかいう呪歌の効果だ。


「いいね、やる気出てきた!」


 その力を存分に活かし、俺は更に剣を振るう。

 レンガード達は、特に奮い立ってはいないようだった───魔動機なので、こういった精神作用のある効果は全く通用しないから、当然のことではある。

 故に、一方的に力を増した俺の斬撃に、奴らは為すすべもなく、その機械の腕を切り飛ばされていくのみだった。


「これで終わり、っと」


 最後の一本を切断し、四機すべてが動かなくなったのを確認してから、俺は剣を鞘に収める。

 ルフィナも、それに合わせて演奏を止めると、


「お疲れ様。……思っていたよりは、強かったわね」

「それはよかった。それじゃ次は、血痕の主を探そうか」

「えぇ。出来てからそんなに時間は経っていないみたいだし、まだ生きている可能性が高いと思うわ」


 少しだけ微笑んだ後、魔法で俺の傷を癒やしてくれた。

 よし、まずはひとつ、いいところを見せられたな。


 ◇  ◇  ◇


 治療を終え、安全を確認した後、血痕を追ってみると、程なくしてその人は見つかった。


「いやぁ、どうもどうも。逃げ切れると思ったんですが、一発いいのを貰ってしまいましてな。あのまま追い込まれていたら、命を落としていたかもしれません」


 棚やなにかの機械の残骸の影の奥に、身を潜めていたそのタビット───ラザフォードさんは、足に怪我を負っていた。

 操霊魔法を使えるらしく、治療自体は既に済ませたようだが、血痕は残ってしまっているし、魔法使い一人ではあの魔動機の群れを追い払うのも難しく……ということで、ここに逃げ込んで、見逃して貰えることを祈っていたらしい。


「大変でしたね。……ところで、もしよかったら、俺達と一緒に行きませんか?進むにしろ、戻るにしろ、一人では危険だと思いますので」

「おぉ、それは是非。またあんな目に遭うのはごめんですからな」

「分かりました。……っと、そうだ。俺達は、人を探してここにやってきたんです。外見年齢は十歳くらいで、目の下に雫の形をした模様がある、女の子のルーンフォークなんですけど……」


 同行を受け入れて貰えたついでに、レインちゃんを見かけていないか尋ねてみると、ラザフォードさんはしばし記憶を辿った後、


「そう言えば……北の方でしたかな。そんな子の姿を、見た記憶がありますな」

「北か……通った道を戻っていけばよさそう、かな」

「そうね。……レインのことは心配だけど、ラザフォードさんの無事を伝えたいのもあるし、私もマナをそれなりに使ってしまったから……。探しつつ、一度引き返しましょうか」


 ルフィナの言葉に頷いて、俺達は来た道を戻っていく。

 ……あの不気味な神殿を通るのは、少し気が引けるけど……まぁ、四の五の言っていられない。その辺りに、レインちゃんがいるのかもしれないんだし。




 ───で、そうして出入り口前の、列車駅にまで戻って来た訳なんだけども。


「レインちゃん……見つからなかったな」

「そうね……日が落ちるまではまだ時間があるし、少し休憩したら、もう一度行きましょうか」

「では、私はその間に、ニコラさんにご報告を。再び遺跡に入る際も、お手伝いさせて頂きますので」


 それらしい人影を見つけることは出来ず、俺達はそのまま、遺跡の外へと辿り着いてしまった。

 もう少し、探索範囲を広げないといけないみたいだな……あんな危険な魔動機が彷徨いているような場所だ、早い所見つけてあげたいけど。


「……私のマナに、もう少し余裕があれば良かったんだけど。ごめんなさいね」


 休憩───と言うか、マナを回復するための仮眠───を取るための準備を進めていると、ルフィナが申し訳無さそうな顔をして、頭を下げてきた。


「そんなの、仕方ないことさ。俺だって、練技のためのマナがなくなってるし」

「……そう。……そうね。それに、こういう時こそ落ち着くべきか」


 そう言ってはいるが、その顔にはまだ少し、焦りや自責の気持ちが見られる。

 入ってすぐのところで、ケイさんを助けた時から思っていたけど……つんとした性格なのかと思いきや、意外とそうでもないのかもしれない。

 物言いが厳しい、という受付さんの評価も、俺はそこまで気にならないというか、合理的な判断をしているからに過ぎないみたいだし。

 ……まぁ、初対面からあんな感じだと、確かに近寄りがたく感じる人は少なくないんだろうけど。


「……なにか、失礼なことを考えていない?」

「い、いや。実は優しくて、人情味あふれる人なんだなぁ、って。うん」

「実は、は余計よ。……でも……ありがと」


 最後の方は、また少しだけ微笑みながら、そう返される。

 まぁ……かく言う俺も、ギルドを出る前までの段階では、ちょっと不安だったんだけど……これなら、なんとか仲良くなれそうだ。


「次こそ、レインちゃんを見つけ出せるように頑張ろう」

「えぇ。戦闘では、それなりに頼りにしていい、と分かったことだしね」


 そんな会話の後、戻ってきたラザフォードさんに見張りをお願いしつつ、二、三時間ほどの仮眠を取ってから、俺達は再び、遺跡へと潜っていくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る