第17話 影からの援護

 バイスはエドリゴと共にカリオストの別荘へと向かう、道中はエドリゴが使える『転移門』の魔術を使い一瞬でカリオストの根城に辿り着けた。


 ホーバス率いる冒険者と兵士の連合軍が来る前に事を進める必要があった。

 事前にエドリゴと会話をしていた。


「バイスさんにはあのダンジョン化した館をどうにかして中にいる呪いを操る存在を倒せる策があるんですか?」


「はいっまず自分の知識が正しければあの館をダンジョン化して更にモンスターまで用意するのは全て呪われた品物に付与されてる呪いの力ですよね?」


「はいっ間違いありません」


「それならその呪われた品物をここから移してしまえば良い、或いは破壊すればその呪いの力は消滅します」


 呪われた品物はダンジョントラップの一種だ、トラップなら破壊してしまえばその効果も無くなる。


 或いは外に出してしまえばその呪いの力を利用する事も出来なくなるとバイスは予想した。


 何故予想出来たかと言うと、バイスが以前ダンジョンで知り合ったモンスターに似たような呪いの力を扱うのがいたからだ。


 そのモンスター曰く、呪いの力は強力でモンスターを生み出したり自身を強化すると魔術以上の効果を発揮するが危険性も高い、更には呪いの力が込められた物が近くにないとそもそも安定して力を使えないと言っていた。


「恐らくその『魔王軍』の残党も呪われた品物がダンジョン内から消えるかすればせっかく用意したモンスターは弱体化、ダンジョン化した館も普通の館に戻ると思います。そうなれば後は…」


「人間たちに任せれば確実に倒してくれると?」


「心配なら魔術で身を隠して見張れば更に確実です、どのみち呪われた品物さえ何とかすればあの手のモンスターはどうとでも出来ますよ」


「しかしそれだけ大事なら呪われた品物は本人が守っているのでは?」


「いえっむしろダンジョン化したなら呪われた品物が置いてある部屋への通路を消して誰も近付けなくするでしょう、そして自分も万全の体制で人間たちを迎え撃つ筈です、集まった街の人間も半端な実力者ではありませんからね」


 バイスの読みではここがカリオストの正念場だと考えた。


 『魔王軍』の仲間の大半がやられてるなら援軍の見込みはない、確実に返り討ちにするにはカリオスト本人が出張る可能性が高い。


 つまり呪われた品物はダンジョンの中でも安全な所に集められ、冒険者たちを相手に戦力を集中させる必要もあるので僅かな見張りはいてもそれ以上はないと考えた。


「そんな訳で自分たちが少し動けば問題は解決するのと思います、エドリゴさんが力を貸してくれればより確実ですね」


 バイスの話を聞いたエドリゴは感心して頷く。


「成る程、動くタイミングを読めば確かにそうなるでしょうね。バイスさんはかなりダンジョンやモンスターについて詳しいんですね…分かりました、僕も強力します」


「ありがとうございます」


「正直僕一人じゃ何をすればいいのかさっぱりでした、まさかバイスさんみたいに頭の回転が速いモンスターと人間の街で出会えるなんて…」


「確かに、縁と言うのは面白いですよね…」


 バイス自身もプニの言葉がなければダンジョンを辞める事もバッカニアに来て人と共に過ごす事もなかっただろうと思った。


 モンスターと人間、相容れない存在同士で正体がバレたら命を奪われるかも知れない間柄だ。


 しかしこの奇妙な関係を理由にバイスとプニは少し頑張ってみようか、という気持ちになっているのだから本人たちからしても不思議だった。


 だけど、そんなのも悪くないとバイスとプニは考える。

 利害だけで他者と関係を築くだけでは、せっかくの旅がつまらなくなると二人は分かっていた。


 二人は見たい物があるから旅を始めた、その中に呪われたバッカニアなんて物は存在しない。


 テロ組織の身勝手に巻きこまれる誰かなんて見たくもなかった、だから行動する事を選んだ。


「呪われた品物を破壊するとなるとバレる可能性も高くなり時間もかかります、だから人間たちが館を包囲して突撃するタイミングで呪われた品物を…」


「ええっ僕の魔術なら一瞬でダンジョンの下層に送り届けられる。そこに部下を待機させて呪われた品物を封印すれば『魔王軍』の残党は力の殆どを失いますね」


 作戦は決まりエドリゴは準備をするために一度ダンジョンに『転移門』の魔術で戻った。


 やがて待っているとホーバスたちらしき大人数がカリオストの別荘へと向かって来ているのが見える。


 バイスはエドリゴが戻るのを静に待った。

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