第9話 モンスター商人のタム
その日バイスは朝からダンジョンの入り口となる寺院の前の広場で新たな商品を仕入れに来ていた。
幾つか気に入った出土品を商品として仕入れ、次のバザー市場の準備を考える。
やっぱり冒険者相手の商売になっちゃったな…出来ればダンジョンで冒険者と戦うモンスターたちの迷惑にはなりたくなかったんだけど。
バイスとしては武器や攻撃魔法を商品として扱うつもりはない。
しかし冒険者の手助けをすると言うことはダンジョンで冒険者を迎え撃つモンスターからすれば大抵は裏切り行為と見られても仕方がないとも理解していた。
しかし人間でもモンスターでもそのどちらも相手に商売をしてる商人は少数だがこの世界にはいる、バイスは自分の立場はそれに近いと考えていた。
商人である以上、交渉する客に対して誠意ある対応をする。
それが目の前にいない誰かにとって裏切り行為となるとしてもバイスは商人として、仕事をするプロとして、自分が取り扱う商品はちゃんとした物を用意したいと考えていた。
そんな事を考えてると一人の商人が目に止まった。
姿は普通の商人らしい服装をしているし普通の人間だが気配が人間のそれにしては妙だった。
気のせいだと困るのでその類の感覚が自身より鋭いプニに聞く。
(プニ、あの短い白髪の男の人なんだけどさ……もしかしてモンスター?)
(うん? ちょっとまって……ムム、確かにあれはプニと違って魔術で人間に化けてる、間違いなくモンスターだ)
信頼するプニの言葉で違和感に確信を覚えたバイス、しかしモンスターだろうと商人をするのは自由であり似たような事をしているバイスがとやかく言う事は普通はならない。
そのモンスター商人が呪われた品物に何やら妙に執心する視線を向けていなければ。
近頃はダンジョンから出土する呪われた品物によって街中で事件が起きていてあれらの品物は街への持ち込みが基本的に禁止となった。
しかし『白砂の大寺院』では余程呪われた品物が出土するのか今の寺院前の広場の一画には呪われた品物が山と積まれていた。
バッカニアの街の教会から派遣された聖職者が数名毎日訪れては呪われた品物の呪いを無効化する為に働いているのを今日も見かける。
呪われた品物の呪いを消す魔術の『解呪』は聖職者か数こそ少ないが魔術師にも使い手はいた。
しかしこの魔術はとにかくコスパが悪い、通常の『解呪』でも魔力の消費は高く高難易度の『上級解呪』となると熟練の魔術師ですら全魔力の四割を消費する為取得する者自体が少なく不人気な魔術だった。
そんな『解呪』を毎日使って呪われた品物から呪いの力を消していく聖職者たちは辟易していた。
それを見ながら謎のモンスター商人はバツの悪そうな顔をして広場を後にする。
モンスター商人が気になったバイスはそっとその男の後をつけた。
男がダンジョンから離れ人気がなくなった機会にバイスは声をかける決心をする。
「すみません、少しお時間を取らせてめらっても良いですか?」
「…なんだアンタは?」
(プニ、頭だけ能力を解除してくれる?)
(分かったーー)
バイスの頭が小人族のそれからスケルトンに変わる、モンスター商人は直ぐに理解して回りを確認する。
周囲に人の目がないと理解したらしく落ち着いて口を開いた。
「まさか…アンタもモンスター商人なのか?」
「はいっまあ駆け出しですけど」
「……それで、わざわざ正体を見せたって事は何かモンスター側の情報でも欲しいのか?」
「ええっそうです、あっ僕はバイス、そしてこの頭の上のがスライムのプニです」
(よろーー)
(テレパシーは届かないと思うよ?)
「………俺はタム、種族は鼠人だ」
鼠人は頭は鼠、身体は人間の二足歩行で歩く成人しても子供くらいの背丈の種族だ、基本的に戦いは好まない種族である。
タムも魔術かスキルで化けていた頭を鼠に戻して直ぐに人間のそれに戻した。
バイスも小人族の頭に戻す。
「それで一つ聞きたいんですが、あのダンジョンから出て来る呪われた品物の数は異常ですよね、何か理由があるんですか?」
呪われた品物は基本的にダンジョントラップとして取り扱われれる、つまりは冒険者相手の罠でしかないのだ。
そんな物がダンジョンの外や街にまで流通してる事はダンジョンで働いていた過去があるバイスから見たら明らかに異常だった。
バイスの言葉にタムはあの聖職者たちを見ていた時と同じくバツの悪そうな顔をして言った。
「ああっアレは完全にダンジョン、いやっモンスター側の事情でバッカニアの人間に迷惑をかけてる」
「やっぱり、一体ダンジョンで何が起きているんですか?」
「……『魔王軍』だよ」
タムの言葉にバイスは息を吞んだ。
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