第7話 尾行されてる

 翌日バイスは商人ギルドにて行き交う人々の様子を見ていた。


(む~~)


(昨日はゴメンね、また何処かに食べに行こう)


(分かった、ならいい!)


 プニの相手をしながら。

 人々が噂をするのはやはり昨日の暴漢たちの話だ、しかし情報が錯綜としていて何が本当で何がデマなのか分からなかった。


 仕方ないのでバイスはギルドの受付嬢であるエルスに話を聞いてみる事にした。


「おはようエルスさん、昨日は変な人が街中で暴れて大変だったらしいですよ?」


「本当ですね、朝にギルドに来たらその話で話題が持ちきりでした。バイスさんは巻き込まれたりしませんでしたか?」


「自分は何とか…」


 バイスは嘘を言った、その場にいて無事に切り抜けられた事に質問をされると説明するのが面倒な事になる可能性を避けたのだ。


 エルスと世間話をするように話をすると幾つか情報が知れた。

 昨日捕まった男たちはその日の内に尋問されたりしたらしい、しかしこれといった成果はなかったそうだ。


「その理由ですが、どうもあの暴漢たちは呪われた装備品を身に着けていたらしくその前後の記憶がありませんでした」


「呪われた装備品……ダンジョントラップの一つですか」


「はいっ身に着けると身体能力等が上がる代わりにおかしくなってしまう、みたいな事が起こるダンジョントラップですね」


 呪われた装備品と聞いてバイスの頭の中に浮かんだのはダンジョンから呪われた品物を集めていると言うカリオストだった。


 ただ本人に会った事もなければ噂話を知っている者から聞いただけの相手、下手に決め付けるのも気が引けたのでこちらもエルスに質問してみる。


「まさかダンジョンから出た出土品に混じってたんですか? そう言えばこのバッカニアには呪われた品物を買い取ってくれる人がいるとか」


「商人のカリオストさんですね、確かに彼なら…しかし成功されて領主とも懇意にしていた商人ですからギルドでも…」


 エルスは言葉を濁したがやはり商人ギルドでもカリオストに疑いの目を向けているのかとバイスは思った。

 するとエルスが以外な提案をしてきた。


「バイスさんって商人ギルドに登録して間もないですよね、カリオストさんって外からの人間を使って呪われた品物を集めてるって話があるんですが、商人として接触出来たりしません?」


「成功した商人が自分みたいな駆け出しを相手にするメリットがないですから、メリットがないと商人が動く事はないと思います」


 エルスが苦笑いしながら「ですよね」と言う、もしかしたら商人ギルドとしても色々とあるのかも知れない。


 街中で事件が起きて最も疑わしい人間がギルドに登録している商人、証拠でも無ければギルドは商人を庇う必要がありそうすればバッカニアの人間からは白い目を向けられる。


 多少なりとも世話になった組織だ、何とかしてあげたいがバイスには何も出来なかった。

 その後も世間話をして後は商人ギルドを後にした。


 商人ギルドを出てプニと外食をしようと思い街を歩いていると尾行されている事に気づいた。


(バイスー後ろにコソコソしてる人間が五人いるよー多分冒険者!)


(うん、四人は気配をしっかり隠してるね。慣れてるよ…けど一人だけ妙に分かりやすい人がいるね)


(あっ多分バイスから何か買っていった女の冒険者ーースッゴく分かりやすい)


(………エリーか)


 バイスは行き先を変更して横道に入る、すると尾行していた冒険者で先行する形を取っていたエリーがコソコソと後をついてきた。

 横道の入口で普通に立っているバイスと目があった。


「あっ」


「エリーさんは尾行とか向いてませんね」


 バイスの言葉にエリーは頬を人差し指でポリポリしながら「おっしゃる通りで…」とバツの悪そうな顔で呟いた。


 バイスは屋台でお腹を満たす事にした、そこにエリーを連れてきた。

 彼女に話を聞く為だ。


 他の四人の尾行する冒険者についてはまだ気配を隠していた、と言うより恐らくだがその四人はエリーとは別口だとバイスは思った。


 尾行をさせる時に駆け出しの冒険者を使う理由なんてわざと尾行に気付かせて本命の尾行部隊の隠れ蓑にでもする以外に考えられなかった。


 そう思うと何となくエリーが冒険者ギルド内で鈍くさいイメージを持たれてたりするのかもとバイスは彼女を不憫に思った、だからご飯を奢ってあげる事にしたのだ。


 あの四人はプニがいなかったら多分気付かなかった、相当に場馴れしてる冒険者たちだ。下手に気付いていたと知られる方が面倒かも知れないね。


 バイスはエリーには気付いたが他の四人の尾行部隊には気付かなかったと言う体で行くことにした。


 一体何を探っているのか知らないが後ろめたい事などないのでどうぞご勝手にと言う気持ちだった。


「どうぞ好きな物を食べて下さい。自分の奢りです」


「ありがとうございます、実はお腹空いてて…」


「もちろん何で自分の後をついてきてたのか話してもらいますよ?」


「ええっ分かりました」


 エリーが何か大事な事を知っているとは思って無かったがまあ聞くだけ聞いてみようとバイスは思った。

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