甘やかしメイド襲来
第14話 風の街ウィンダリア
ヴィッシュ達は黄金に輝く神力の巨大な流れの中をメリィとチュリが二人がかりで展開している結界に守られながら進んでいく。
竜脈移動は文字通り、神力の巨大な流れである竜脈を利用する移動方法だ。
儀式で体を神力に変換し、光属性である
黄金の奔流に飲み込まれれば自我を喪失し竜脈を流れる神力の一部となってしまうので、特殊な儀式を経て発動した結界神術で身を守る必要があるのだ。
「本当に綺麗ね~」
「うむ、そうだな」
だが、そんなことを知らないヴィッシュとルドラの二人は、脳天気な顔で流れ行く黄金の神力を眺めている。
周囲が一際強く輝くと、ヴィッシュ達は黄金の奔流から脱出した。
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ヴィッシュ達が現れた場所は、たくさんの風車が並ぶ都市の中心部に設置された竜脈移動の祭壇。
シャクティの時と違い城の外に祭壇があるのは、外来用と身内用で祭壇が分けられているからだ。
今回の来訪理由は買い物なので、ヴィッシュ達は外来用の祭壇から出てきた。
祭壇の周りは広場となっており、屋台が建てられて活気づいている。
屋台に積まれている野菜を売ろうと威勢の良いかけ声を振りまいたりして朝から活気づいていた周囲は、突然の来訪者に驚き固唾を飲んで見守っている。
「ここがクリシュナ領の中心都市ウィンダリアだ。案内はまかせ……」
祭壇から真っ先に降りて潮風の香る都市を懐かしそうに見回したヴィッシュは婚約者達に振り返り――
「とぉう! ああ! ヴィッシュお坊ちゃま! よくぞお帰りに!」
「むぐ……アイリ。友人と婚約者の応対を優先してくれ」
風車や石造りの建物を足場にして目にも止まらぬスピードで高速移動してきたメイドに抱きしめられた。
突然現れた黒髪サイドテールのメイドは祭壇上に着地すると、抱きしめるのを続行したまま賞賛しながら頭をなで始める。
「良い子良い子」となで続ける彼女は、ジャラジャラと移動に使ったらしいカギ付きの鎖を収納の神術でついでに片付ける。
何とかやわらかい拘束から抜け出したヴィッシュの願いに、抜け出されたメイドは大きな胸の前で両手を使ったガッツポーズをとり、喜びの感情を爆発させた。
「なんということでしょう! ヴィッシュお坊ちゃまがお友達と婚約者様をお連れしてくるなんて……! アイリは感激しました! 今日は記念日です!」
「アイリお姉様……。甘やかしが悪化していませんか……?」
「メリィちゃん! 悪化だなんて、とんでもない! 昇華されたのです! その証拠にご家族様からも何も言われなくなりました! 私も卒業していなければバラモン学園にご一緒したのですが、貴女がうらやましい!」
姉のやらかしに顔を引きつらせたメリィは諫めようとするが、とろけるような笑みを浮かべたアイリの勢いに「諦められただけでは」と思いつつ、黙るしかない。
風車が見下ろすいつもの風景に、見守っていた周囲は肩透かしを食らったかのように日常に帰って行った。
「ヴィッシュお坊ちゃま、クリシュナのお城に行きますか? それとも
「だから、連れてきた友人と婚約者の応対を優先してくれと……。いや、皆を友人のところに案内してくれ」
妹への表情をとろけた笑みから素早くキリリとさせて向き直ったアイリの問いかけに、方向修正を図ろうとしたヴィッシュは顎に手を当てると思い直して案内を頼んだ。
「かしこまりました! 万難を排して全力でご友人のところへご案内します!」
「普通で良い」
「はい」
願いを全力で叶える為に祭壇からスタッと飛び降りた後、収納の神術で取り出した巨大弩型攻城神具で周囲を威圧しながら案内を始めたメイドは、ご主人様の指示に従い。出した時と同じくひょいと片付けてから、ヴィンダリアの案内を再開した。
「ヴィッシュ……。自分のメイドにあんな物を持たせているの? 自衛用には、やり過ぎじゃない?」
「いや、これから行く工房で見習いをしている友人が、作ってみせるついでに試作品を次々と渡してきてな」
「……普通、あんなに大きい物をポンと渡してくる?」
「うっ、一方的にもらうのもアレなので、媒体を小遣いで買っては渡していたのだ。善し悪しなどわからんので、高い物を渡していたら試作品が段々と大きな物になってしまってな……。部屋に入りきらないのでアイリに任せていた。まさか使い方を覚えているとは……」
「あんたのせいじゃないの……」
「……おっと、アイリが先に行ってしまっている。急がねば」
ジト目なルドラの追求にメイドに攻城神具を持たせた流れを白状したヴィッシュは、突きつけられた裁定から逃げるように目をそらすとアイリの後を追う。
そんな彼の前を小柄な人影が塞ぎ、甘い声で問いかけてきた。
「あらクリシュナ家のヴィッシュさん。学園は? もしかして退学になりましたの?」
「む……シィタか」
桃色の目を細め意地悪そうに笑った小柄な少女、シィタは肩まである水色の髪をかき上げて耳に手を当てると、ヴィッシュの顔をのぞき込むように、もう一度問いかけてきた。
「クロエお姉様の婚約者が……退学、だなんて、ありえませんわよね?」
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