日帰り可能な開拓実習
女教師な婚約者
第5話 領地の地形確認
部屋の大きな窓から陽光が差し込む清々しい朝。
シャクティ領にあるドーム型の屋根を持つ城の一室で、開拓に関わる主要人物たちが集まっている。
まずは、突然荒れ果てた領地を受け継いでしまったルドラ=シャクティ。彼女は美しい碧眼で隣の褐色少年をにらみつけ、腕を胸の前で組みながら上腕を指先でトントンと叩いて威圧している。
にらまれている黒髪の褐色少年はヴィッシュ=クリシュナ、嫌がらせの賠償としてルドラの開拓を手伝うという労役を課せられている。
彼は最近になって使えるようになった血統兵装ガルーダの操作に集中して現実逃避中。
赤いフレームの伊達メガネをかけた金色の瞳で二人を観察する少女は、ヴィッシュの婚約者、クロエだ。
彼女の格好は
「オレンジをしぼった飲み物はいかがですか?」
「いかがです?」
クロエ専属の
受け取り、喉が渇いていたのか一気にオレンジジュースを飲み干したルドラは落ち着いたらしく、開拓初日だった昨日の成果について呟いた。
「まさか一日でお城持ちになるとは思わなかった」
「白骨が魔物化して襲ってきたのには驚いたな。メリィが浄化の神術で城の汚れごと綺麗にしてくれたが」
「ぱぁー! ってキレイになったよね」
ルドラとは対照的に少しずつ味わってジュースを飲むヴィッシュは、威圧から解放されて胸をなで下ろしつつ、ガルーダを天井に飛ばしてから消した。
風の鳥に圧縮された空気がはじけて部屋にささやかな風が吹き込む。
「白骨が神力を蓄えて魔物になったモノをスケルトンという。
「道理でメリィの浄化でボロボロと崩れていくと思ったら、弱点を突いていたか」
「ちなみに強い人の骨から生まれたスケルトンは様々な神術を使う。注意が必要」
「嫌な相手ね。ところで、何故メガネを?」
「今日の私は二人の教師、形から入ってみた。似合う?」
解説するクロエの格好にルドラがツッコミを入れると、伊達メガネをクイと持ち上げた少女が薄い胸を張る。
クロエはシャクティ領の再開拓を課外授業と言い張り学園に認めさせた上、引率教師に代わって開拓地へ同行してしまったのだ。
さらに、ルドラの権限で領主限定の竜脈移動を使用し、馬車で半日かかる距離を一瞬で移動してきた。
竜脈移動とは、神力の巨大な流れである竜脈を、
「チュリ、黒板とチョークを出して」
「かしこまり〜」
普段から領地経営に関わっている彼女は、素人二人に優先事項を伝達するため、チュリに神術で出してもらった大きな黒い板に逆三角形を描く。
「まずは地形のおさらい。私たちの住んでいる国イドはこんな形。エーレス山脈に遮られた北側以外は海に囲まれている」
「シャクティ領って、どの辺りなの?」
「現在地のシャクティ領は国の南端。ちなみに、バラモン学園は北側の真ん中」
「なるほど。クリシュナ領の南西にあるのだな」
チョークで簡単に海や山を描いていたクロエは、ルドラの質問を受けて黒板に点と都市名を記して位置を示していく。
「海に囲まれたシャクティ領は海の幸が豊富。船で他の領と交易しても良い」
「あたし、お魚好きよ。良い感じじゃない」
領の良い点を上げられて喜んでいたルドラは、続くクロエの言葉にしおれていく。
「その反面」
「えっ」
「海からの敵が多いため、武力が重要。海の魔物は巨大なものが多く、海外の国々もこの中継点に最適な領土を侵略している」
「入り込まれているの!? どうすれば良い?」
しおれていたルドラは、クロエの「侵略されている」という言葉に目を見開いて驚き、今度は慌てている。
「周辺の森を焼き払ってしまえば良い。燃料が無ければいずれ干上がり、自ずと降伏してくる」
「森を焼いてしまって良いの!? あとで困らない?」
「管理されていない自然に出来た森は魔物を生み出す。出来る限り焼き払って有用な木を神術で生やした方が良い。海外の者達は神術に明るくないから、森をそのまま使っている」
「森から魔物が生まれるの!?」
「実際に見た方が早い、こっちにきて」
次々とオーバーなリアクションと共に質問してくるルドラへ機嫌良さそうに答えたクロエは立ち上がり、城の外へ二人を案内する。
黒板や空のコップを収納の神術で片付けたチュリと、浄化の神術で部屋を掃除したメリィの二人がその後を追った。
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