女領主な特待生
第3話 婚約破棄を破棄
二人のメイド達に導かれ、堂々たる両開きの扉の前までやって来たヴィッシュとルドラ。
彼らの目の前でメイド風制服を着た
部屋の中には来客用の向かい合わせになったソファと執務用の大きな机があり、天井に設置された神具の照明で明るく照らされている。
神具とは、神術で制作された便利な道具である。
執務用の机に座って書類の処理をしていたのは、金糸で装飾の施された
ヴィッシュの婚約者クロエだ。
「来てくれて感謝する。ヴィッシュ君とルドラ=シャクティ。そこに座って」
大きな金色の目が目立つ顔を上げたクロエは、特に表情を変えずに扱っていた書類を処理前と書かれた棚に戻すと、ヴィッシュ達にソファを勧めた。
「クロエさま、シャクティというのは何……です?」
「楽に話してくれていい。本当は私が婚約者のやらかしを謝る立場」
勧められるがままにソファへ座った後、自分の名前に追加された聞き慣れない言葉に目を白黒させたルドラは、おずおずと慣れない敬語で後からヴィッシュの正面に座ったクロエに尋ねる。
ルドラの様子にヴィッシュは吹き出しそうになっていたが、続くクロエの「やらかし」という言葉を聞いて本能的に背筋を伸ばした。
「順序を追って話す。ルドラ=シャクティが模擬戦で使った血統兵装トリシェーラは、断絶したシャクティ家の血統兵装。だからあなたはシャクティ家の落胤と認められた。ここまでは良い?」
「は……い。なんとか、わかりました」
混乱しつつ頷いたルドラに、クロエは態とらしく足を組みながら本題に入る。
「ルドラ=シャクティ、もう少し崩した話し方でも構わない。シャクティ家は断絶してるから残された資産である領地は全部あなたのモノ。そしてその領地は、ヴィッシュ君が継ぐ予定になってる領地の隣。隣接した領地は助け合わないといけないのに、領主同士に遺恨があるのは大問題。ケジメをつける必要がある」
「うっ」
無表情で語る自分の婚約者に、ルドラに嫌がらせをしていたという痛いところを突かれたヴィッシュ。彼は胸を押さえて現実逃避に小さなガルーダを飛ばし始めた。
「私はヴィッシュ君に領地の再開拓を手伝わせる労役による賠償を提案する」
「えっ……と、ケジメにヴィッシュが働くのはわかったけど、再開拓って何?」
「シャクティ家が断絶したのは数十年前」
「あ~……」
「守られていない領地の状況はお察し、血統兵装持ち二人なら大丈夫」
「…………よろしくね! ヴィッシュ」
降ってわいた領地という資産に喜ぶ間もなく現実を知らされたルドラは、現状唯一の人手であるヴィッシュの手を逃がさんと、にこやかな表情で握った。
現実逃避中の自分の婚約者がされるがままになっているのを無表情で眺めていたクロエは、試しに足を組み直す。
クロエが足を組み直したときのスカートのヒラヒラとした動きに目が釘付けになったヴィッシュは、極小ガルーダの制御を失敗してしまう。
制御を離れた風の鳥は、直前に意識されていたクロエの白いスカートへ一直線に飛んでいく。
「不味いっ」
「えっ」
身を乗り出し握りつぶすことでガルーダを消したヴィッシュだったが、風の鳥を構成していた圧縮空気が炸裂し、巻き起こった風で白いスカートがまくれ上がる。
結果として少し驚いているクロエの白い太股が露わとなり、白い太股に映える漆黒の闇が白日の下にさらされた。
咄嗟の事態に対応する為、風属性特有の知覚能力でもってパンチラの瞬間を前のめりで凝視してしまったヴィッシュ。
昨日の試合ぶりに、彼の胸の奥で神力以外のモノがグツグツと煮えたぎる。
「ふ~ん?」
「素晴らしき漆黒の闇であった」
「変態って言えば良い?」
資料に載っていた反応を再現できたのでご満悦な様子のクロエは、おもむろにスカートの裾をつまんだ。
「こういうのが良かったんだ? こう? こうかな」
「ちょっと!? クロエさん何してるの! ヴィッシュも平然と見ない!」
無表情の彼女は小首をかしげつつ、スカートの裾を上下に動かしたり、足を組み替えてみたりして隠すべき闇を婚約者にチラつかせる。
クロエの凶行に焦った声を出したルドラは、急いで前のめりなままで固まっているヴィッシュの目を両手のひらで覆い隠した。
「昔は一緒に水浴びもした仲だから大丈夫」
「そういう問題じゃない!」
言い争う二人に挟まれたヴィッシュは、偶然見たときのような胸でグツグツと煮えたぎるモノが無かったので、頭を抱えて混乱している。
「何故だ」
「何よ? 今度は何を聞かされるの? もうあたしはお腹いっぱいよ」
「わざと見せてもらっても、俺の紳士があまり反応しなかった……」
「……贅沢な変態ね」
混乱するヴィッシュをジト目のルドラが小さな声で罵倒した。
#####
ヴィッシュ達を見送った後、クロエは執務机の隠し場所から取り出した書類を放り投げ――
「『微塵切り』てい」
闇色の刃踊らす神術で細切れにした。
細切れになった書類は闇属性特有の侵食効果で塵になっていく。
「これで良し。チュリ、ヴィッシュ君監禁計画の書類も処分するから出して」
「かしこまり~」
主従の証拠隠滅を眺めていたメリィは、主が昨日まで実行予定だった計画に疑問の声を上げる。
「クロエお嬢様、婚約破棄してまで落ちぶれさせる計画は、やり過ぎだったのでは?」
「弱い良血なんて美味しすぎる誘拐対象。価値を下げて監禁しておくのが優しさ」
「お労しやヴィッシュ様……」
「私もさっさと現役引退してバッチリ甘やかす予定だったし、今は強いから大丈夫」
珍しくニコリと笑いピースして全部放り出す予定だったと宣言した主に、一抹の不安を覚えるメリィであった。
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