奉仕といえばメイドさん

第2話 階級の役割分担

 ヴィッシュ達の通っているバラモン学園は共有の中央校舎を中心に、階級ごとに東西南北の校舎に分かれた巨大な学園である。 


 運命の模擬戦を乗り越えた翌日、ヴィッシュは婚約者に呼び出された。

 彼の婚約者は別階級なので、会うために共有の中央校舎へ行く必要がある。

 ヴィッシュは婚約者からの急な呼び出しに小首を傾けつつ、戦士階級クシャトリヤ専用の南校舎から共有部分の中央校舎への渡り廊下を歩いている。


 何故かルドラと一緒に。


「一緒に呼び出されたが、わざわざ一緒に行く必要は無いと思うぞ?」


「あんたの監視よ」


「監視だと?」


 本気で心当たりがなさそうなヴィッシュを見上げるように睨んだルドラ。


「……変態を野放しにする訳には、いかないわ」


「変態では無い」


 戦士階級クシャトリヤの赤を基調とした制服を身に纏い、武の象徴である剣を帯剣した二人。


 そんな二人が言い争いをしながら中央校舎に入ってきたので、色々な制服を着た生徒の視線が集中する。


「ヴィッシュ様、果実水をどうぞ」


「ルドラさまも、どうぞ〜」


 悪目立ちしているのに気がついたヴィッシュ達が気まずそうに黙り込むと、メイド風の制服を着た二人の少女が、水に果実を絞った果実水を手渡してくれる。

 ヴィッシュに手渡したのは豊かな黒髪を後ろで一つに束ねた無表情でスレンダーな娘で、ルドラに手渡したのは金髪を左右に分けて結んだ和やかで豊満な娘だ。


 彼女達は迎えに来た奉仕階級シュードラの者たち。


 ヴィッシュの婚約者は最高位である司祭階級ヴラフマナなので配下が多く、近い年頃の奉仕階級シュードラの者も同時に入学させているのだ。


 ヴィッシュは当然のように、ルドラは慣れない様子で果実水を受け取り飲み干す。


 慣れない様子の彼女を訝しんだヴィッシュ。


「ん? どうした」


「学園に入学してから疑問だったのだけど、なぜ奉仕階級シュードラの人は、自分の生まれで他人に奉仕するのが決まっている事に納得できるの?」


 ルドラは極大の恥をかいた相手に感覚が麻痺してしまっているので、素直に抱いていた疑問を吐露する。

 彼女は階級外アウトカースト出身なので、階級制度に馴染みが薄いのだ。


「ふむ、考えた事も無かったな」


「授業で聞いた内容で良ければ、お答えします」


「頼む」


「共存共栄の為だと聞いております。階級によって神術の適正が極端に違うので、お互いに役割を分担する事で足りないところを補い合うのが目的です」


 ヴィッシュが浅黒い端正な顔を歪ませて考え込むと、二人が飲み切るのを待っていた奉仕階級シュードラの者達の内、スレンダーな少女が自分たちの受けた教育内容を教えてくれる。


「例えば、ですね。チュリ、コップをお預かりして」


「わかったよ〜、メリィ『収納』」


 チュリと呼ばれた豊満な少女はルドラの飲みきったコップを受け取り、一瞬で消してみせた。


「へぇ、良い神術ね」


「おほめにあずかり、こ〜え〜です!」


「チュリは収納の神術が得意で……『浄化』!」


 話をしてくれているメリィと呼ばれた無表情でスレンダーな少女は、床に汚れを見つけると掌を光らせて床の汚れに光弾を放った。


「私は浄化の神術が得意なのです」


「なるほど。今まで考えもしなかったが、俺が同じ事をやろうとすれば床板を吹き飛ばすな……納得だ」


 掌の光を消したメリィは、人差し指を立てながら話し続ける。


「しかし、私達の神術では外からの脅威、魔物に対抗できません」


「魔物に対抗するのが、あたし達、戦士階級クシャトリヤの役割という訳ね」


 碧い目に自信を輝かせて引き継いだルドラの言葉に、首を縦に振ったメリィは表情をへにゃりと崩しつつ個人的な感想を伝えてくる。


「そのとおりです。それに私といたしましては使われてる感が癖に……」


「メリィ~、素が出てるよ~」


「ッハ! 失礼しました」


 同僚のツッコミに表情を元の無表情に戻したメリィは、取り繕うように彼女の主が持つ部屋へヴィッシュ達を導く。


「クロエお嬢様がお待ちしております。こちらです」


「そうだったな。ルドラと一緒に呼び出すとは、昨日の模擬戦の件だろうか? 聞いているか?」


「詳しくは何も、クロエお嬢様は楽しげなご様子でしたので、悪いお話では無いと思います」


 ヴィッシュの歩きながらの問いかけに、メリィが答えながら方向転換をした時、彼女の一本に纏められた長い黒髪と共に、丈の短い黒スカートがふわりと踊った。


 彼女の白い太股を撫でる黒いスカートの動きに、一瞬目を奪われたヴィッシュ。


「ッ!」


「変態」


 彼はジト目のルドラに足を踏まれながら、ボソリと罵倒されて正気に戻った。


 刺激の強すぎた昨日の模擬戦で、ヒラヒラする物に目を向けるのが癖になってしまったのかもしれない。


 歩きながら顔だけ振り返り曖昧な笑みを浮かべたメイドに先導され、ヴィッシュ達は巨大な中央校舎を進んでいく。

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