第36話 黄金の祈りを背に
エゼルの持つ大剣から黄金の様な眩い光が放たれる。
突然の事にカイジスもグロゴスも驚いた。
「
エゼルがその力の解放のキーワードを口にする。
「天を制する我が翼をここに、今っ輝ける黄金の光が大いなるその扉を開く… 『
エゼルが言葉を言い放った瞬間、手にした黄金の大剣が光となりその姿を変える。
光はエゼルの身に纏われると巨大な黄金の翼と黄金の鎧となった。
カイジスは思った。
(俺にグロゴスを丸投げすると抜かしたらいきなり防具を装備してるぞ、そんなんあるならお前が戦え!)
何を勘違いしたのかエゼルはフフ~ンと自身を見るカイジスに微笑を浮かべる、しかしカイジスは薄っぺらいローブしか防具がないのにグロゴスと戦わされそうで不満しかない。
エゼルが片手を挙げる、すると黄金の翼が少し動き光を放った。
その光がカイジスを包み込む。
「こっこれは…!?」
「この力を解放するのも随分と久しぶりなんだ…何しろこの『
「つまりどう言う事?」
「これは君を超強くするって能力がある装備、君は超強くなれるからあんなの余裕でボッコボコて出来るの。以上!」
「マジで!? スゲェな!」
話は決まった。
この土壇場でエゼルの言葉の真偽を確かめてる時間もないのでカイジスはエゼルを信じて前に出る。
エゼルの変身にビビり距離を取っていたグロゴスにカイジスは挑発を繰り出した。
「このクソみたいな田舎で英雄扱いされて色々勘違いした三流冒険者が! 身の程を理解してもう少し弁えて生きれやコラーーー!」
「なっなんだと!? ぶち殺してやる!」
グロゴスは安い挑発に乗った。
エゼルが指をならすとカイジスの纏う光が更に強まりその光はカイジスの背に翼を形づくる。
カイジスは飛んだ、まさか本当に飛べるとはと内心驚いた。
そんな驚きを感じつつもグロゴスを迎え撃つ為にカイジスは突撃した。
「田舎の雑魚冒険者風情がぁあー!」
「それがお前の本音か? 田舎者を舐めるなよ!」
魔人と化したグロゴスが大剣を振るう、その攻撃は人間だった時よりも重く、鋭く、速かった。
しかしエゼルによって強化されてカイジスのパワーアップはその遥か上をいた。
本来なら反応すら出来ない攻撃がカイジスには丸見えだった、むしろスローモーションにすら見えるくらいだ。
(これなら俺でも余裕で躱せる!)
カイジスはグロゴスの攻撃を紙一重で躱していく。
そして懐に入り込みグロゴスのみぞおちに後ろ蹴りを食らわした。
「ぐぶぉおえっ!?」
グロゴスはカイジスの攻撃で蹴り飛ばされ地面へと転がり落ちる。
しかし直ぐ地面から起き上がるとカイジスを睨みつけた。
「馬鹿な、こんな事がある筈がない…この俺が……カイジスなんかに!」
「…………はぁっ本当にグロゴス、お前はよ…そんな人のことを言えた義理か?」
「なんだと!?」
カイジスもまた地上に降り立つ。
そしてグロゴスを真っ直ぐ見つめ言葉を紡いだ。
「全部エゼルの言った通りだ。お前は自分の限界を理解した時点でさっさと故郷にでも帰るべきだった、それがこんな所まで来てつまらん悪あがきを…」
カイジスが一歩前に出る。
グロゴスは一歩後ろに引いた。
「お前は自分の弱さを闇ギルドに利用されてる事も分からないで俺の故郷の…オーガルヤツらを馬鹿げた妄想に巻き込んだ。何が英雄だよ…お前はただの負け犬冒険者だ!」
「カッカカカイジスーーーーッ!」
グロゴスは怒り狂いカイジスに襲いかかる。
「ふざけるな! ふざけるなよぉおっ! この俺がオーガルの無能共の為にどれだけの事をしてやったと思ってんだ! 本来ならとっくに魔物に滅ぼされていた港町を俺が……!」
「…だから『幻螺旋の巨塔』なんてさっさと諦めればよかったんだ、届きもしない理想を持つのは勝手だが……それに他人を無理矢理巻き込むのは間違いなんだよ!」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れーー! カイジス、お前みたいな回復魔法も使えないポンコツヒーラーが、何の才能も実力も実績も何もない本物の無能がこの俺を見下すな! 俺の限界をお前程度のゴミムシが決めつけるなーーーー!」
「そこに罪を犯すって実績まで積んだからお前は俺以下なんだよ!」
吠えるようにグロゴスが叫ぶ。
それに笑顔のまま額に血管が浮くくらいキレたのはエゼルだった。
(う~~ん…軽く見積もっても五回は八つ裂きと再生ナノマシンのコンボをしてあげるべきかな?)
「よし決めた、あの雑魚はカイジスに圧倒的なまでにコテンパンにしてもらおう。もう一段階上の超強化いくからねカイジスー!」
「えっまだ何かあんのか!?」
ここでエゼルがダメ押しの超強化を発動する。
両手を重ね、まるで祈りを捧げる聖女か何かのようなポーズを取った。
「受け取って、カイジス………『
カイジスとグロゴス、二人が再び激突する直前にカイジスの持つロッドが金色に変化する。
すると同時にカイジスの身体が更に軽くなった。
グロゴスが大剣を振るい、カイジスは金色ロッドを振るった。
すると大剣がバカンとロッドに殴られ粉々に砕け散った。
「……………うそ~ん?」
「俺はもう慣れた! くらえ!」
カイジスの方がエゼルのとんでもパワーを理解していた、その事が二人の決定的な対応スピードの差を生んだ。
呆然とするグロゴスにカイジスの怒りのロッドが放たれる。
冒険者として恩を感じていた、感謝していた、信頼していた。
それを裏切られた。
故郷の人たちの信頼をも裏切り犯罪組織の人間を呼び寄せた。
その愚行の清算にはまだまだ足りないがそれでも一発は殴らせろよな、とはカイジスの紛れもない本音である。
「ゴールデンフルスイングーー!」
何となく叫んだわざ名だった。
テキトーだった。
何なら叫んで直ぐに後悔したレベルのダサい名前だった。
しかしその威力は凄まじかった。
パッカァーーーン
そんな音が遙か空の彼方から聞こえた。
見るとグロゴスは空の彼方、『幻螺旋の巨塔』が見える辺りまで吹っ飛んでいってしまった。
最後にチラッと見えたグロゴスの顔、顔面にロッドを受けたので鼻が潰れて歯が何本が欠けている酷い顔をしていた。
余りの威力にここまで強化する意味あったのかとカイジスはドン引きした。
その隣に変身を解いたエゼルが降り立つ。
「ほ~やるじゃんカイジス、あれならほっとけば荒野の魔物がヤツを始末してくれるわね」
「……ゼビルスで回収出来ない?」
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