第22話 無常に散る予感

 ビビるカイジス、そんなカイジスと同調するようにギンちゃんとタマちゃんも身を寄せていた。


「ヘラ、もう遊びは良いから早くこのダンジョンを制圧してくれない? 何なら私がダンジョンコアを砕くけど」


「よいよい、それには及ばん…妾がこのダンジョンの全ての魔物を駆逐する故な…」


 ヘラが両手の平を軽く合わせてパンと音を立てた。


「……『白霧滅刃フォッグブレード』」


 青い長刀が纏う水が白い霧へと変わっていく、長刀はそのまま宙を進みダンジョンの奥へと飛んでいった。


 白い霧はまるで意思でも持つかのように広がり続ける。

 するとあちこちから魔物の悲鳴と思われる声が聞こえてきた。

 その異常事態にカイジスがエゼルに質問をする。


「……なあ、確かさっきヘラはあの刀の水も刃だって言ったよな。ならそれが霧になって広がったらどうなるんだ?」


「あれは霧状の刃、霧に触れた者はそこから塵にでも変わるかのように身体が赤い霧へと変わっていって…気が付けばお陀仏って訳」


「…………」


 カイジスは言葉を失った。

 やがて魔物の悲鳴はピタリと止んだ。

 霧はヘラの意思に従い道を開ける、その真ん中を優雅に歩くヘラがカイジスとエゼルに声をかける。


「このダンジョンの魔物は全て駆逐したぞ、さあエゼル、カイジス殿。このダンジョンのボスの元に行こうかの、恐らくじゃがそこに異星人はいる筈じゃ」


 あまりにも圧倒的過ぎてカイジスはドン引きした。

 そして奥へと進むヘラについて行くカイジスたちだった。


 ヘラの言うとおりダンジョンの魔物は全滅したらしくその後はゴブリンにもトロールにも会うことはなくカイジスたちはダンジョンの奥へと進んだ。


 本来なら不死身とはいかないまでも光の魔法や聖なる魔法でないと中々倒せないアンデッド、グールやヴァンパイアなども全て倒されたらしくダンジョンの奥へと行っても現れなかった。


 殆ど子供の洞窟探索である。

 やがて進んだその先にはかなり大きな両開きの門が現れる。

 カイジスは息を吞んだ。


「これがダンジョンのボスがいるボスの間への扉だ……実物は俺も始めて見るぜ」


 ダンジョンの最奥地にはボスの間がありそこにはボスがいる。

 そのボスは倒したとしてもダンジョンコアがある限りは一定の期間で復活する存在だがやはり強力な存在だ。


 ボスを倒す事で冒険者はダンジョンを踏破した事になり初めて冒険者として一人前と認められる。


 オーガルで生まれたカイジスは知らない事だが下級ダンジョンといってもこの大陸のダンジョンの難易度は余所の大陸の上級ダンジョン並である。


 それ故に中々ダンジョンのボスまで行けた上にそのボスを倒した冒険者はオーガルにもいなかった。


 そんなボスにこれから挑もうとしている、カイジスの中の冒険者としての本能が熾烈な戦いを予感していた!


 ……そんなカイジスにヘラが告げる。


「それとその門の隙間から霧を侵入させて中の魔物は始末しておいたぞ、早く中に入って異星人を復活させるのじゃカイジス殿」


「……………ウソだろう?」


 カイジスの予感はヘラのフラグ破壊によって無意味となった。

 エゼルが片手で門を開ける、本当に中にはボスはいなかった。


 あるのはボスがいたであろう場所に広がる赤いシミみたいなヤツだけである、それも霧がお掃除でもするかのように集まると直ぐに消えた。


 この世の無常をカイジスは感じた。

 しかしエゼルやヘラみたいな理不尽存在と出会いそれに少しは慣れたカイジス。


 さっさとその無常は忘れて早速蘇生魔法で助けるべき異星人を探す。

 ボスの間の奥へと進んでいくとどうやらそれらしい像を発見した。


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