第14話 ヘラ=アルゴニウム

 長く艶ある黒髪と青い瞳の女性だ。

 歳は二十歳前後、カイジスと同じくらいだろうか。


 カイジスは素直に綺麗な人だと思った。

 しかし呆けてる場合じゃない、なんと荒野のあちこちから怪物のものと思しき咆哮が聞こえて来たのだ。


「やっべぇ! 気付かれたたか!」


「……なんでかな?」


「お前の雷が超うるさいからだろ!」


 魔物モリモリの荒野のど真ん中で派手に爆音を響かせれば魔物は当然集まってくる。


 周囲を見れば軽く全長二十メートル以上はある蛇だのサソリだのクモだのそれ以外の呼び名も分からない巨獣がノソノソと迫っていた。


(流石に戦えるのがエゼル一人じゃ…このままじゃ全滅だ!)


 カイジスがピンチだと理解した。

 そんなタイミングだった。

 その女性は閉じていた目を開く。


「ん……こっここは…?」


「おっおはようでいいのか? ここは…って言うか今かなり不味い状況でな…」


 ちなみに女性は裸だ、エゼルと同様に。

 しかしエゼルと違いその女性は顔を真っ赤にして叫んだ。


「きゃあああーーーーわらわに何をしたんじゃこのヘンタイめーー!」


「もぶべっ!?」


 カイジスは全力で引っ叩かれた。

 それを見たエゼルはやれやれと呆れた表情を浮かべる。


「取り敢えずその馬鹿を見といてね、私は集まった敵性体を蹴散らしてくるから~」


「えぇっ!? ちょっとまっ危険だぶほぉおっ!?」


 結果として…エゼル一人で余裕だった。

 荒野の魔物はボコボコにされたので逃げていった。

 カイジスは黒髪の女の往復ビンタで気絶させられたのでその様子を見てはいなかったが。


 場所はエゼルの宇宙船ゼビルスが埋まる下級ダンジョンの隠しエリア。

 そこにカイジスたちは移動していた。

 蘇生魔法で復活した女性も共にいた。


 女性も一瞬で着替える能力を持っていた。

 その服装は上は銀色をベースのドレス姿で肩から腕には金属製のプロテクターらしき物を身に着けていた。

 下は長いスカートで黒いタイツとヒールブーツを履いている。

 手には鞘が蒼い長刀を持っていた。


「ビンタで死ぬかと思うくらい痛かった」


「すっすまぬ、やり過ぎた…」


「本当に加減が下手だよヘラはさ~」


 最初はヘンタイだなんだと禄に話をきかなかった女性だが、少しずつ冷静になり傍にいたエゼルと少し言葉をやり取りすると話を聞いてくれたのだ。


 エゼルとしてはこれで蘇生魔法のレベルが3から4に上がった事をカイジスのスキルカードを見て確認し、直ぐに戻ろうとなった訳である。


 しかしカイジスとしては宇宙船の前に自己紹介だよなっとなりお互いに移動後は自己紹介から始める二人だった。


「俺はカイジス、一応は冒険者でジョブはヒーラーをしてる。まあ回復魔法は禄に覚えてないポンコツヒーラーだ」


「妾はヘラ、ヘラ=アルゴニウムと申す。エディオン太陽系では五本の指に入る大富豪じゃ」


「まあ人の足元を見て金を巻き上げたり碌でもない人間を雇って碌でもない事をしたりするマフィアみたいなヤツらのまとめ役をしていた女よ、身ぐるみ剥がされないように気を付けてね」


「……………」


 カイジスがヘラから一歩離れた。

 ヘラがキッとエゼルを睨む、エゼルは口笛を吹いて誤魔化した。

 コホンとせき払いをして話を仕切り直すヘラ、当然カイジスはツッコむ。


「…まあそんな冗談は後にして」


「いや後に出来るか! ヘラさんよ、あんたまさか犯罪の片棒担いぎまくってる様なヤツだったのか? 俺はそんなのを復活させちまったってのか?」





 

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