21
「伸びましたね」
昼過ぎ。と言うか午後三時。世間では、おやつの時間なのに背徳感たっぷりのマシマシガーリックチキンライスの大盛りをアツアツの内に無言で頬張っていると、そうヤコから話しかけられる。
「んんぅ?」
食べている途中なので喋る事も出来ず、ただ唸る様な声を出して反応だけする。それにしても当たり前だけど美味い。ニンニクが凄い濃いわこのガーリックライス。我は味濃い方が好きなんだけど、それでも濃い。
……そりゃあガーリックライスだからニンニク濃く無くちゃ詐欺になるか。でもそんなマシマシじゃ無い抑えめのガーリックライスもある筈だし。
『髪ですよ、髪の毛。昔は邪魔だからって言って、短く切ってたじゃないですか。私が切っていたので良く覚えてます』
『ふぅ、確かに。そんな気がする』
まぁ、確かに昔はかなり短くしていた。あまり女性っぽくなりたくなかったって言うのがあったのと邪魔だったからだ。重いしワサワサするし。シャンプーするのも大変そうだしな。現に面倒臭いし。でも、それと同じぐらい髪を切るのも面倒臭いって言うジレンマだ。
「久々に切りますか?それとももう少し伸ばします?」
……中々悩ましい問題だ。思い切ってショートにするのも良いんだけどなぁ。なんか最近暑くなって来たしさぁ、風通しを良くするためにアリかも。でも、一応外は出ないけど不特定多数の人達に見られる職業をしている身としては自分に一番似合う髪型で良く見られたいからとなると。
『あー!!もうなんか面倒臭い!良いや、もう』
「どうしたんですか」
突然立ち上がった我に、ヤコが変な顔でこっちを見た。別に我変な人じゃないぞ。
『困った時には人に頼れ!分からない事には人に聞け!なら、自分で出せない答えは他人に相談する!』
『ばっとん、来い!配信だ。グゥルも』
《hr》
嵐の様にその場から過ぎ去り、後は私が一人ポツンと残された。
「お嬢様の食べかけ……」
皿を持って世紀の難問に暫しそう悩んでいると、再びドアが開きお嬢様が入って来て。
『あれ、ガーリックライスは?』
少し残念に思いながらも、私は持ち上げた皿を元に戻してお嬢様が食べ進める所を盗み見た。
《hr》
『今回は、切ろうと思ってな。髪を』
いつも通りの配信の始まり。変わらない口調で我は、画面に向かって話しかける。前は緊張したのに、今はリラックスした感じで出来る。成長したと言えるかもしれない。
《コメント欄》
・髪かよ
・倒置法やめえい
・確かに長いもんな
・前髪切るんだったらぱっつんが良い!
・お前の癖を押し付けるな
『あ、ごめん。違う、間違えた。ごめん、本当ごめん髪切らない。あっ違う』
やばっどうしよう。クソッフラグ立てたせいだ。
《コメント欄》
・落ちつけwww
・どしたのww
・ちゃんと聞いてるから落ちついてくれw
・可愛いw
・どしたの?
・どっちだよ
『えーっとどっちが良いと思うか我は思考放棄したので、最終的に皆に任せる方向で行こうかなと』
よし、何とか今回の方向性を伝えられたし。これで我の仕事は終わり。ヤコ呼びに行こう。
《コメント欄》
・投げやりで草
・おい、何処行くんだ
・いつにも増して酷いな今日
・なら、もしかして見たい髪型言えばやってくれるとかある?
・↑良く有能って言われない?
・言われない。その反対ならよく言われる
・ツインテール
・ロブ(ロングボブ)
・ボブ()
・やっぱポニテだろ。うなじ舐めたい
・欲望を叫ぶな
『あ、ただいまーっと。髪に関しては我出来ないからヤコ呼んできた。んだけどなんか盛り上がってる……』
あーなるほど、確かにリクエストを見て、髪型決めるのは楽しそうだな。ネタにもなるし良いじゃん!
『それで行こう。まずは……ツインテールだってさ。ヤコ頼んだ』
「はいはい……へアゴム探しといて良かったですね。に、してもサラッサラですよねぇお嬢様の髪の毛」
後ろに回って髪の毛に触れながらそう言われても、あまり実感が無い。自覚も無いしな。皆こんなもんじゃ無いのか?
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